2012年2月17日金曜日

韓流時代劇「風の絵師」第20話(最終話)美人図を見ました


20話(最終回)美人図



 ホンドの絵に、焼けるような西日があたって、相撲取りの絵が浮かび上がって来ます。審査員たちは、唖然とした表情でホンドの絵を見つめています。ポクウォン君が驚いた様子で「これは…」と言います。ジョニョンもホンドの絵を見つめていました。礼曹判事は「これまで見ていた絵と違った…強烈さが生きている…」と言います。他の審査員も「光だけで、これほど絵が変わるというのか…」と言います。ユンボクは、少しだけホットした表情を見せます。そして、ホンドに視線を移します。ホンドは「絵全体に…橙色を使ったのは、土俵の色でもありますが…強い夕焼けの色を浴びれば…その瞬間こそ…闘争を最も闘争らしくする瞬間であり…勝負を最も勝負らしくする瞬間になります…」と言います。

 別の審査員は「用意周到に、絵を見る時間まで考えたというのか…」と言います。戸曹判書は、満面の笑みを浮かべながら「それなら…その前の少しの間違いは、問題にならんな…」と言いながら、愛逮(眼鏡)を取ります。そして「さあ…これで…消した“通”をまた書き直さねばならんな…」と言って笑い始めます。その様子を見ていたジョニョンの表情が強張っていました。

ジョニョンが「時間を少しくだされば、蕙園の絵にも確かに…」と言っていると、それを遮るように、ポクウォン君が「もうやめろ…日も沈んだ…これで決める…」と言います。ジョニョンは、視線を下げて黙っていました。チョンヒャンはホットした表情を見せます。ユンボクは、何とも言えない表情でホンドを見ました。ホンドはユンボクに視線を合わせて、小刻みに何度もうなずいていました。



宮中では、同じ夕焼けを王様も見ていました。そばには、側近のホン・グギョンが控えていました。

王様は、ホン・グギョンに「今夜こそ、事を成すべきときだ…」と言います。ホン・グギョンは「心をきめられましたか…」と言います。王様は、黙ってうなずかれました。





画事対決の会場では、沈黙が続いていました。会場の外からは、画事対決の結果を聞きに集まっている人々の騒々しい声が聞こえて来ます。

戸曹判書がジョニョンに「さあ…どうするつもりだ?…」と聞きます。ジョニョンは、下お向いて考えていました。その時また、会場の外から「結果は?…どうなった?…」と言う声が聞こえて来ました。使用人が、外の客たちの前に出て「静かにしてくれ…」と言います。すると客の一人が「日も沈んだぞ…発表してくれ…」と興奮して言います。使用人は、苦しい表情で「今回の画事対決は、引き分けになった…」と言います。客たちは驚きます。そして「じゃ私の金はどうなる?…賭け金はどうなるんだ?…」と、口々に叫び始めます。

会場では、審査員の一人がジョニョンに「あの声が聞こえないのか…」と言います。礼曹判事は「もう、暴動が起きるぞ…」と言います。ジョニョンは、元気のない声で「私に…どうすることが出来ますか…」と言います。その時、戸曹判書が「“結者解之”と言う…この画事対決を主催した、お前が解決しないとな…」と、語気を強めて言います。ジョニョンは、どうにかしてこの危機を逃れようと「ですが…」と言いますが、戸曹判書が遮るようにして「忘れたのか…お前が書いた覚書だ…」と言うと、封書を手にして差し出します。するとジョニョンの視線が定まりません…

覚書の内容とは、ジョニョンが戸曹判書の屋敷を訪れて、画事対決の賭けに参加するようにと勧めに来た時の出来事でした。

ジョニョンは戸曹判書に「大監は、どちらに賭けますか?…」と尋ねます。戸曹判書は「わしは…引き分けに賭ける…それでも参加できるのか?…」と聞き返します。ジョニョンは「後悔されませんか…」と聞きます。戸曹判書は「ただし、万に一つでも…画事対決で、芳しくない事が生じれば…すべての責任をお前が負え…それが条件だ…」と言います。ジョニョンは「アハハハー…」と笑いながら「そのようなことは絶対にありません…覚書を書きましょう…」と言います。戸曹判書は、笑いながら「人のことというのは…一寸先も分からないものだぞ…」と言いました。

ジョニョンは、戸曹判書を睨みつけながら心の中で「憎らしい老いぼれめ…」と言います。しかし、審査員全員の前では「私の財産すべてを使っても責任を負います…」と言います。すると礼曹判事が「何だと?…これだけ多くの者が賭けたすべてをか?…」と言います。ジョニョンは神妙な顔つきで「お望みなら…賭けた金の…2倍でも…」と言います。戸曹判書が「ウウン―」と咳払いをします。審査員にざわめきが起きます。



ホンドとユンボクは控室にいました。ここにも外のざわめきが聞こえています。

ユンボクは、心配そうな顔でホンドに「どういうことですか?…」と尋ねます。ホンドは落ち着いた表情で「お前は父の仇を…そして私は、友の報復をしている…」と言います。

ホンドは、戸曹判書との出来事を思い出していました。

戸曹判書は「私に…ただの一割の勝率もない、賭けに出ろというのか…」と言います。ホンドは「それだけが、あの商売人の財物を…一度に奪う方法です…お願いします…」と言います。戸曹判書は「とてもできんな…お前の思いどおり、審査が進むように…彼らが黙って見ているか?…すまんな…」と言います。

そこへ戸曹判書の孫が、自分が描いた絵を持ってやって来ます。孫は、ホンドに絵を見せます。ホンドは孫に「元気だったか…」と言うと、絵を見て「描いたのか?…」と言います。孫は嬉しそうにうなずきます。ホンドは「よく描けている…」と言います。孫はホンドの手から絵を取ると、戸曹判書に見せます。戸曹判書は、嬉しそうに「そうか…」と言うと、絵を手にして見ています。戸曹判書は「ウフォホホホー」と笑い出します。その絵は、ホンドが孫を笑わす為に描いた絵の模写でした。ホンドは「私よりも上手だな…立派な画員になれるぞ…」と孫を褒めます。孫は嬉しそうに、ホンドに頭を下げます。戸曹判書の顔には、笑顔が浮かんでいました。

ホンドは「私が無理なお願いをしたようです…失礼します」と言うと、一礼をして帰ろうとします。その時、戸曹判書が「ちょっと待て…座れ…わしは…お前の考えどおり…引き分けに賭けよう…」と言います。ホンドは「エー…」と驚きます。



ホンドはユンボクに「あの子を笑わせなければ…大監も私の願いを聞き入れなかっただろう…」と言います。ユンボクは、少しだけ不服そうに「それなのに…なぜ、話してくれなかったんですか…」と言います。ホンドは「私の知る蕙園は、真っすぐな性格で…隠しごとが出来ない…」と言います。ユンボクはじっとホンドを見つめていました。ホンドは「信じてくれて嬉しい…」と言います。ユンボクは「師匠が…信じろと仰いました…」と言います。ホンドは「そして…お前の女人の為に、約束を守る方策がある…」と言います。ユンボクは、微かにホットした表情を見せます。



画事対決の賭けの換金所には、次々に客たちが換金に来ていました。

そして、大道芸人の頭も換金所に来ていました。「名前はコンです…」と言います。頭はお金を受け取ると、小躍りをするように体を揺らして嬉しそうに「こんな日が来るなんて…夢か、まことか…これは…」と全身でその喜びを表現していました。

そこへホンドが現れます。頭は「檀園先生…」と言います。ホンドは頭の顔を満面の笑みで見ていました。頭は「先生のおかげですよ…夢か、まことか、つねってください…」とおどけたように言います。ホンドは、笑いながら頭の頬をつねってやります。頭は「アーアー…」と大きな声を上げますが、すぐにホンドの顔を見て「確かに痛い、夢じゃない…」と言います。ホンドは、笑いながら「言っただろう…信じて良かったな…」と言います。頭は、銀の塊を一つかみ差し出しながら「先生の分だ…」と言います。すると後ろの方から「それは触らないでくれ…」と言う声が聞こえます。頭は自分の銀の塊ではなく、換金所に置いてあった物をホンドにやろうとしていていたのです。頭は、バツが悪そうに銀の塊を元に戻します。そして自分の銀貨を渡そうとすると、ホンドは「いいから…お前のものだ…」と言って受けとりませんでした。そして「頼んだものは用意できたか…」と聞きます。頭は「もちろんだ…先生の頼みなら何でもするさ…心配いらない…」と言います。ホンドは、笑いながら振り向いてそこを出ようとすると、ジョニョンの鋭い眼差しがホンドを見つめていました。ジョニョンは、何も言わずに立ち去ります。ジョニョンは自室に座って、一点を見つめていました。



ユンボクはチョンヒャンの部屋にいました。チョンヒャンを救うために、ジョニョンの屋敷を出て逃げるようにと説得していました。

チョンヒャンは、ユンボクに「今すぐ去れとは、何の話ですか…」と、心配そうに聞きます。ユンボクは「今はそれが、生きる為の道だ…準備してくれ…去らねば…」と言います。チョンヒャンは、伏し目がちに「画工を恨みました…画工が女人であったことも…それを秘密にして…私に対したことを…」と言います。そして、ユンボクを見つめながら「恨みました…」と言います。ユンボクは、悲しそうな顔をして伏し目がちに「私も…私が女人であることを恨んだ…」と言います。そして、チョンヒャンを見つめながら「しかし、気づいた事実がある…私が女人だったから…あなたに引かれた…」と言います。チョンヒャンはユンボクの目をじっと見ていました。ユンボクは、伏し目がちに「すまない…自分勝手に…あなたを思い…こんな別れになったが…あなたは変わらずに、私の胸に美しく居続ける…」と言います。チョンヒャンも「画工は、ずっと…美しい人であるでしょう…私も誰かの…大切な人になれることを…教えてくれました…ですが…今は去れません…私が去れば…画工が危険です…」と言います。ユンボクは、チョンヒャンをどうにかして逃がさねばと思い説得を続けます。そして「いけない…それはダメだ…あなたが去ってこそ…行首と私の問題を解決できる…」と言います。



ジョニョンは、女侍と密談をしていました。ジョニョンの顔は、追い詰められた野獣のように、鋭く険しいものでした。そしてジョニョンは、帳面と一枚の書状を机の上に置きます。

ジョニョンは静かに「私は…すべての財産を失っても…また立ち上がれる…私には切り札がある…」と言います。女侍は「それは何ですか?…」と聞きます。ジョニョンは、書状を手にして「この文書と…蕙園の秘密だ…」と言います。すると大声で「だが!」と叫びます。続けて「あいつは…檀園の奴は…ただでは置かない…」と、噛み殺したような声で、静かに言います。





王大妃は、自室で書状を呼んでいました。そこへ王様がやって来ます。内侍が「主上殿下のお出まし…」と呼び掛けます。王大妃は、呼んでいた書状を机の引き出しの中に隠します。そして立ち上がり、王様が部屋に入って来るのを待っていました。

王様が来られると王大妃は「よく来られました…」と言って一礼します。王様は王大妃に「お座り下さい…」と言うと、自分も座布団の上に座ります。

王様は、袖の中から掛け軸を取り出すと「王大妃様への贈り物です…」といって、掛け軸を差し出します。王大妃は「私の事を考えてくれるのですね…」と言うと、微笑みながら受け取り、掛け軸を広げます。王大妃は、絵を見ると「美しい絵ですね…」と言います。王様は「王大妃様を思って描きました…」と答えます。王大妃は「私をですか…」と聞きます。王様は「美しい花も、誤った所に根をおろせば…危険な状況に陥ります…この菊も、こんな岩場ではなく…平地に根をおろせば…美しく咲いたでしょう…」と言います。王大妃は、挑むような目つきで王様を見ると「どういう意味ですか?…」と聞きます。王様は「王大妃様の足もとが危なげで…落ちそうだから申し上げました…」と答えます。王大妃と王様は、しばらくの間、無言で見つめ合っていました。



ジョニョンは、旅姿で母屋からチョンヒャンのいるはずの離れの庭に来ました。

ジョニョンは、木にぶら下げられている鳥籠を見て、鳥がいないことに気づきます。そして、正装をして立っているユンボクに気づくと歩み寄ります。ジョニョンがユンボクに「どうして……チョンヒャンはどこだ?…」と聞きます。ユンボクはジョニョンの顔を見ながら「遠く去ったから…もう探すな…」と言います。ジョニョンは、怒りのこもった目つきでユンボクに「私の女をどこにやった!…」と叫びます。ユンボクは、怯むことなく平然とした態度で「この顔をよく見てくれ…私が誰だか、まだ分からないのか?…」と言います。ジョニョンは、ユンボクの顔を見つめていますが、分からないようでした。ユンボクは「10年前…大画員とその件を探った、ソ・ジンが殺された…覚えているか…」と言います。ジョニョンは、驚いた表情で「お前がどうして…お前は誰だ?…」と言います。ユンボクは「その手によって、無惨に死んだ…ソ・ジンの娘…ソ・ユンだ…」と言います。ジョニョンは、まさかという表情で「なぜ生きている?…」と言います。ユンボクは「大切な物が、一つずつ消えるのを見る…気分はどうだ?…」と言います。ジョニョンは、押しつぶしたような震える声で「お前は…」と言います。そして「あの日、死ぬべきだった!…」と叫びながら、ユンボクの首をつかんで締め始めます。ユンボクは、ジョニョンを睨みつけていました。そこへホンドがやって来て、二人の間に体を入れて、ユンボクを助けます。

ホンドはジョニョンを睨みつけながら「誰に手を出すつもりだ…筆を取る手だが、望むならズタズタにしてやる…」と大声で言います。ジョニョンはホンドに「貴様!」と叫びます。そして「お前らは、一体何をしたんだ?…」と言います。ホンドは「何をしたのかは…獄でゆっくり考えろ…しでかした過ちも、ゆっくり考えるんだな…可哀想な奴め…」と言います。そこへ武官たちが押し寄せて来ます。

武官は「罪人は御命に服せ…」と叫びます。ジョニョンはホンドを睨みつけて、抑えた声で「このまま引き下がると思うか…可哀想な奴らめ…」と言うと、「ワハハハー…」と笑い出します。ジョニョンは振り返ると武官の方へ歩いて行きます。ジョニョンは、武官たちに捉えられて、屋敷の門を出ます。その時、女侍が現われて、武官たちに切りかかります。女侍は乱闘の末にジョニョンを助け出します。



ホンドは、倒れているユンボクに「ユンボク…大丈夫か…」と声を賭けます。ユンボクは、荒い息をさせるだけで、何も話せませんでした。ホンドは、ユンボクの肩に手をやり、そして腕をさすってやります。ユンボクは緊張から何も言えませんでした。ホンドは「立て…」と言うと、ユンボクを抱えるようにして立たせてやります。





明くる朝、川べりの小さな帆のついた船の前に、ユンボクとチョンヒャンが立っていました。そして、二人は見つめ合っていました。

チョンヒャンはユンボクに「私たちの縁は、ここまでですね…」と言います。ユンボクは視線を下げて黙っていました。チョンヒャンは「一生…忘れないでしょう…」と言います。ユンボクは「私も…忘れられない…」と言います。チョンヒャンの目から涙が流れました。そして「どうか…幸せに…」と言います。チョンヒャンは、振り返って船へ向かいます。ユンボクは、チョンヒャンの後姿を見つめていました。チョンヒャンは、振り返って名残惜しそうにユンボクを見つめます。ユンボクもまたチョンヒャンを見つめます。

思い出の映像が流れます。ユンボクが図画署の生徒だった時の映像が…外遊写生で、橋を渡るチョンヒャンの姿を初めて見た時の映像が…王大妃の使用人に追われて、生地やに逃げ込んだ時にチョンヒャンと遭った映像が…掌破刑を前にして、夜の道でチョンヒャンを待ち伏せて、手をつかんだ時の映像が…その夜、チョンヒャンの琴を演奏する姿を無心になって描いているユンボクの映像が…チョンヒャンの心根の優しい映像が…流れていました。

チョンヒャンは、また振り返ると船の方へ歩いて行きました。ユンボクは、その後ろ姿を目に焼き付けていました。ユンボクの目には、今にもこぼれそうな涙が溜まっていました。



ホンドとユンボクは、王様に拝謁していました。

王様は「二人の功績が大きい…」と言います。ホンドとユンボクは「恐れ入ります…殿下…」と言います。そしてホンドが「キム・ジョニョンを逮捕すれば…カン・スハンとソ・ジンを殺害した罪状と…先世子邸下を陥れた勢力も判明します…」と言います。王様は「二人は図画署に帰り、職務に励んでほしい…」と言います。ホンドは、王様に「蕙園を赦免していただけると?…」と尋ねます。王様は、ゆっくりとうなずきました。ホンドは「聖恩に感謝の極みです…」とお礼を言います。しかし、ユンボクの表情には暗い物がありました。

次の瞬間、王様の表情が一変して険しい物となり、ホン・グギョンに「殺害事件に関連する者をすべて捕らえろ…自ら尋問し…父上を陥れた背後勢力に制裁を加える…」と命じました。ホン・グギョンは「はい…殿下…」と答えます。



図画署では、別提が武官によって捉えられ、連行されていました。画員たちは、その姿を驚きながら遠巻きにして見ていました。シン・ハンビョンは鋭い眼差しで別提を見ていました。イ・インムンは、複雑な表情で見つめていました。生徒達は、ヒソヒソと噂話をしながら見ていました。そこへヒョウォンが駆けつけて、驚いた表情で「父上…」と呼びます。武官たちは足を止めて、別提と最後の別れをさせます。別提はヒョウォンの顔を見ると、無念そうな顔つきをして、黙ったまま顔をそむけます。そして、いつも握っていた胡桃の実二個を形見のつもりで落として、そのまま無言で歩いて行きます。ヒョウォンは、なぜだ…これからどうなるのだろうか…という表情で、首を横に何度も振って困惑していました。



王様直属の護衛隊員たちは、宮中や重臣の屋敷など、あらゆる所で捜査を始めていました。絵や書類など片っ端から探し回っていました。そしてついに、王様の父、思悼世子の睿真が隠されている五つの肖像画を見つけ出しました。



王大妃は、自室に右議政とキム・ジョニョンを呼んで話をしていました。

王大妃は右議政に「先世子を追尊(チュジョン=王位に就かず、死んだ者に王の称号を与える)するとはどういうことですか…」と聞きます。右議政は「王大妃様…ご心配なく…命を懸けて防ぎます…」と、力なく答えます。キム・グイジュが「ですが…丁亥年(チョンへ)のことを自ら尋問される目的が…先世子の追尊だということが明らかで…」と言っていると、王大妃は遮るように机を叩き強い語調で「とんでもない…追尊はさせません…」と言います。そして「私の目が黒いうちは、決してありえません…」と、興奮して言います。



ジョニョンと女侍は、夜道を歩いて右議政の屋敷に行きます。

右議政は「お前がどうしてここへ来た?…」と言います。ジョニョンは「ウサン大監は、私を助けるべきです…」と言います。右議政は「義禁府(ウィグムブ)に手配された大逆の罪人に…私が何を出来る…」と言います。ジョニョンは右議政を睨みつけるようにして「大逆の罪人ですと?…」と言います。右議政は「ウンー…」と息を吐くと、バツの悪そうな顔をして「御命が下った…」と言います。ジョニョンは、抑えた語調で「“唇亡びて歯寒し”です…私に何かあれば…大監も無事ではいられません…」と、弱者の恫喝のような言葉を吐き出します。右議政は「私を脅かす気か…」と言います。ジョニョンは、袖の中から書状を取り出して右議政に見せます。そして「覚えていますか…殺害を命じた書き付けです…」と言います。右議政は「それをまだ、処分していなかったのか…」と言うと、取り返そうとしますが、ジョニョンは素早く隠します。ジョニョンは「大監が王大妃殿にお話をされ…私の罪を許していただけると信じます…」と言います。右議政が「先世子邸下の追尊のため、頭を抱えるかたにどうして…」と言っていると、ジョニョンは遮るようにして「私に王大妃の懸念をとく秘策があります…」と言います。右議政は、身を乗り出すようにして「その秘策とは何だ?…」と聞きます。ジョニョンは、ニャッと笑うと「蕙園が王大妃を救ってくれるでしょう…」と言います。





ユンボクは、実父ソ・ジンの家にいました。父が使っていた機械を懐かしく愛おしそうに触りながら見つめていました。そして、大きくため息をつきます。するとそこへ、実父ソ・ジンの幻影が現れます。ユンボクは「父上…」と言います。ユンボクの目には、今にもこぼれ落ちそうな涙が溜まっていました。ソ・ジンはユンボクを見ると微笑みました。

その時、ホンドの「ユン…」と呼ぶ声が聞こえて来ました。ユンボクは振り向いてホンドを見つめます。ホンドもユンを見つめます。ユンボクは堪らなくなって、手の甲で涙をふきます。ホンドは、ゆっくりとユンボクの所へ歩いて行きます。そして「少しは楽になったか…」と聞きます。ユンボクは、何も言えずに、ただホンドを見つめていました。ホンドは「もう、胸のつかえが…少しは消えたか?…」と聞きます。ユンボクの目からは、大粒の涙がこぼれていました。そして「すべてが…一場の夢のようです…」と答えます。ホンドは、優しい眼差しでユンボクを見つめながらうなずいていました。そして「そうか…」と言うとユンボクの肩に手をやり「頑張ったな…本当に頑張ったな…」と言います。その眼は涙で潤んでいました。ユンボクは、ただ泣くことだけしか出来ませんでした。

ホンドは視線を周辺に向けながら、ソ・ジンの霊に対して「おい…友よ…これを見ているか…これで…よかったか…」と言います。そしてユンボクを見つめて「いいそうだ…」と言います。ユンボクは、涙を流しながらホンドを見つめます。口元に微かな笑みが浮かびます。ホンドは、苦しそうは表情で「私たちは…似た者同士と言われた…」と言います。ユンボクは「誰がですか?…」と言います。ホンドは「お前の父だ……お前の父と…実に似ていると言われたが…本当にそうか?…私が本当にお前の父親に似ているかよく見てくれ…」と言います。ユンボクは微笑みながら首を横に振り「いいえ…」と言います。ホンドも笑顔で「そうだろ…似てないよな…」と言います。ユンボクは「はい…少しも似ていません…」と言います。ホンドは首を軽く横に振って「お前も…そうだ…どうしてお前に気づかなかったのか…昔の面影がない…今回の絵を見て思った…これ以上…弟子でいなくていい…」と言います。ユンボクは、ただホンドの目を見つめているだけでした。ホンドは「私はもう…お前の父の友でなく…お前は私の友の娘でなくていい…お前は、ただ…お前であるだけだ…」と言います。ホンドの顔から笑みがもれていました。ホンドはユンボクの手を取り、愛おしそうに握ると「こんな女人のような手で…あんな絵を描くとは…」と言います。ユンボクは、泣き崩れる顔を必死で我慢していました。ホンドは、そんなユンボクを見ながら「ああ、女だったな…」と笑いながら言います。ユンボクの口元に笑みが浮かび、泣き笑いの表情でホンドを見つめていました。ホンドは、ユンボクの手を握って「この手は何だ、洗えと言ったはずだ…」と言います。ユンボクは笑い始めます。そしてホンドの傷ついた手を取り「師匠の手は…もう大丈夫ですか…」と聞きます。ホンドは「もちろんだ…もう痛くない…」と答えます。ユンボクは、ホンドの傷ついた手を愛おしそうに見つめていました。そして「師匠…私は…もう…図画署に帰りたくありません…」と言います。二人は見つめ合っていました。



宮中では、王様と王大妃が向かい合って話をしていました。

王様は王大妃に「私は、無念のままに死んだ父上を追尊します…お祖父さまは、丁亥年に…画員に父上の睿真を追写しろと命じました…父上の復権を明らかにされたのです…私は、先王の意志を奉じ、追尊して…正当性を確立します…王室の権威を確立し、朝廷の紀網を正すでしょう…」と言います。王大妃は、鋭い眼差しで王様を見つめながら「私も思いは同じです…先王の意志が明らかなら…私が、お手伝いすべきです…」と言います。王様は、小さく息を吐きます。王大妃は続けて「主上は睿真を見ましたか?…」と尋ねます。王様は、少し笑みをこぼしながら「はい…幼い時、見た姿そのままでした…」と答えます。王大妃は「檀園と蕙園が追写した睿真ですか?…」と尋ねます。王様は「そうです…」と答えます。王大妃は「朝鮮最高の画員の技量を私も見てみたい…」と言います。王様は嬉しそうに「私がその場を用意しましょう…」と言います。王大妃は「ところで主上…蕙園は女人です…」と言います。王様は、一瞬固まった表情を見せます。そして複雑そうな笑いを見せながら「そのような…」と言います。王大妃は語気を強めて「ご存知ないのですか…女人が描いた偽りの睿真で…王室の正当性などと…これは王室の恥です…主上の考えの浅さには…失望しました…追尊は不可能です…その話は二度とされないように…」と言います。王様の顔は固く引きつっているようでした。



ユンボクは、ソ・ジンの家を掃除しながら整理していました。そこへホンドがやって来ます。ユンボクは「師匠…」と言います。ホンドは笑顔で「きれいになった…掃除もできるのか…」と言います。ユンボクはホンドの顔を見ながら「もちろんです…」と答えます。ホンドは笑いながら「こう見ると美人だな…」と言います。ユンボクは恥ずかしそうに「からかうんですか…」と言います。ホンドは「今日は…“想い人”という画題で対決してみるか…一日中、互いに顔を見つめないとな…」と言います。ユンボクは、少し笑いながら「やってみますか?…」と言います。ホンドは、少し真顔になって「やめよう…」と言います。二人は噴き出すように笑い始めます。ホンドは「腹が減った…何か食べよう…」と言います。ユンボクは嬉しそうに「はい…」と言います。そこへ、ホン・グギョンがやって来ます。ホンドは「どうして都承旨(トスンジ)様がここに?…」と尋ねます。



ホンドとユンボクは、王様に呼び出されていました。王様の顔は、固くこわばっていました。

王様は「蕙園…お前が女人であるのは…事実か?…」と尋ねます。ユンボクの顔には緊張が走ります。王様の目は鋭く、押し殺したような声で「なぜ答えない…」と問い質します。ユンボクは、何も答えられずに黙っていました。ホンドが「殿下…蕙園は…」と言うと、王様は遮るように大声で鋭く「檀園でなく…蕙園が答えろ…」と言います。ユンボクは低頭したまま何も答えられませんでした。王様は「本当に…女人の身で睿真を追写し…予を欺き、王室を侮ったというのか…」と言います。ユンボクは、じっと低頭したままで黙っていました。王様は、鋭い目つきで「早く答えろ…」と言います。そして、ユンボクはついに「殿下…私は…確かに女人です…」と答えます。

王大妃の部屋には、右議政とキム・グィジュが来ていました。

王大妃は「シン・ユンボクが女人とは…主上が自らの斧で足を切りました…」と、笑みを浮かべて言います。右議政も笑いながら「そのとおりです…」と答えます。キム・グィジュは「殿下は…もう先世子の件を問題に出来ません…」と笑いながら言います。王大妃は、胸を反らしながら「主上がこれをどう処理するか、実に楽しみです…」と言います。



王様の御前では、ユンボクへの尋問が続いていました。

王様は、悲しげな表情で「予は…信じていたのに…このように欺くとは…どうしてなのだ?…」と問い質します。そして「お前たちの罪をどう処置すればいいのか…」と言います。ユンボクは、静かに抑えた言葉で「主上殿下を欺いたうえで…生きることは望みません…死罪をお与えください…」と言います。ホンドは「殿下……男装して、殿下を欺き…御真画師まで行ったのは死罪に値します…しかし、蕙園は…ソ・ジンの娘です…」と言います。すると王様の表情が変わります。ユンボクの目からは涙が流れていました。ホンドは続けて「幼くして父を失い…女人として生きられなかった…運命をお考えください…王を欺いた女ではなく…無念の心を持つ殿下の民として…ご理解いただけませんか…」と言います。ユンボクは、ホンドの言葉を涙を流しながら、ただ黙って聞いていました。王様はしばらくの間、黙って今後の処置を考えていました。



王大妃は、自室でお茶を飲んでいました。その時、内侍の「主上殿下のお出まし…」という声が聞こえて来ます。

王大妃は王様に「主上…蕙園をお呼びになったですか…」と尋ねます。王様は黙っていました。王大妃は得意げな顔で「女か男か確認しましたか?…」と尋ねます。王様は、重たい口を開けて「確認しました…」と答えます。王大妃は、鋭い眼差しで「結果はどうでしたか…言ったとおりでしょう?…」と言います。王様は「蕙園は…確かに男でした…」と笑みを浮かべながら言います。王大妃は「主上…今何と言ったのですか…」と聞き返します。王様は、とぼけた表情で「誰が流した噂なのか、無駄な心配をしました…」と答えます。王大妃はじっと王様を見つめていました。



王大妃は、右議政とキム・グィジュを呼びだして「何をしているのですか…すぐに蕙園を捉えるのです…」と、凄い剣幕で机をたたいて、二人をなじります。そして「私の目の前で…男か女か確認します…」と言います。右議政は、神妙な顔で「分かりました…」と答えます。そして「キム・ホンドはどうしますか?…」と尋ねます。王大妃は右議政を睨みつけるようにして「キム・ホンドは…殺して下さい…」と命じます。そして「禍根をすべて絶ちます…事件関係者の口をふさぎ…証拠を燃やすのです…誰も生き残らせてはなりません…」と命じます。キム・グィジュは、緊張した顔で静かに「はい…王大妃様…」と答えます。



ジョニョンは女侍と二人で、夜道を歩いていました。

ジョニョンは女侍に「王大妃殿が呼ぶまで、松都のパク行首を頼る…」と言います。その時、刺客達が現れます。ジョニョンは「誰の手先だ?…」と言います。刺客達は黙っていました。ジョニョンは「ウサン大監…」と言います。刺客達が一斉に刀を抜きます。女侍がジョニョンの前に出て、応戦体制に入ります。ジョニョンは呆然とした様子で「オッ、オッ…狩りが終わったから…猟犬を殺すと?…」と言うと、切り捨てられたという思いから、虚ろな目をして振り返り、ゆっくりと歩いて行きます。女侍は一人で刺客達と戦い始めます。ジョニョンは「私の手で、すべてを成したのに…今度は奴らが、私の首を絞めるのか…」と言うと、笑いながらゆっくりと歩いていました。その姿は、自暴自棄に陥っているようでした。

その時、ジョニョンの胸に矢が刺さります。ジョニョンは、笑いながら座り込みます。女侍は、一人で戦い続けていました。すると口笛が鳴り響きます。刺客達は闘いをやめて逃げて行きます。女侍が振り向くと、ジョニョンは矢を握って倒れていました。女侍は、素早くジョニョンの元へ駆け寄ります。そして「大丈夫ですか…」と声をかけます。ジョニョンは、息も絶え絶えに「チョン…最後にお前に、やって欲しい仕事がある…」と言います。女侍は、目を潤ませながらジョニョンを見つめていました。



宮中では、王様による、ホンドとユンボクの尋問が続いていました。王様は、父思悼世子の睿真が完成して、初めて見た時の喜びを思い出していました。

そして王様は「蕙園を救う策がある…」と言います。ホンドとユンボクは、手をついて低頭していました。王様は「明らかにするな…蕙園が女人であることを…永遠に明らかにするな…」と言います。ホンドは「それでは…これから一生、隠れて過ごせと?…」と尋ねます。王様は「予の手で…蕙園の命を奪いたくない…この部屋を出たら、都城を去り…世間の目から逃れろ…」と言います。ユンボクの目からは、涙がこぼれ落ちていました。王様は「檀園は図画署に帰り、お前の座を守ってくれ…今後は誰も…蕙園の件を口にせぬよう御命を下す…」と言います。ユンボクは、ゆっくり顔をあげて王様の顔を見ます。その眼からは、大粒の涙があふれ出ていました。

ホンドは「殿下…恐れ多いながら…かけがえのない友の娘を…一人で行かせられません…」と言います。ユンボクは、ゆっくりとホンドの方を見ます。王様は「蕙園の為に…お前のすべてを放棄するのか…」と言います。ホンドは「そのとおりです…殿下…」と答えます。王様は「蕙園と去れば…その瞬間から画員の名を使えなくなるぞ…それでもよいか…」と言います。ホンドは「行かせてください…」と答えます。ユンボクは、自分の為に…と思いながら、横目でホンドを見ていました。王様は、じっとしばらく考えていました。



ホンドとユンボクは、旅支度をして歩いていました。

ホンドは「天気がいいな…」と言います。ユンボクは、すまなそうな表情で「師匠…画員として、すべてを失っても後悔しませんか…」と尋ねます。ホンドは「一生農夫として、クズの根だけ食おうとも…後悔しないさ…今まで後悔ばかりだったから、もうしたくない…」と言います。ユンボクは「しかし…」と言うと、ホンドを見つめていました。ホンドは「何だ?…」と聞きますが、ユンボクは、ただ見つめているだけで何も言いませんでした。ホンドは「これで世界中を絵に描ける、何を心配する…他のどんな画工よりも幸せだ…行こう…」と言うと、ユンボクの背中を押して歩きだします。しかし、ユンボクの心は晴れませんでした。

二人が山道を歩いていると、ユンボクが足を痛めて「アッアー…」と言うと、びっこを引き始めます。ホンドは、ユンボクの足を見ながら「どうした?…」と言います。ユンボクは「足に水ぶくれが出来たようです…」と答えます。ホンドはユンボクを気づかうと、腕を握りながら「それは困った、行く道も遠いのに…ちょっと座れ…」と言うと、ユンボクを道の脇に座らせます。そしてホンドは「足をきれいに洗えと言っただろう…」と言うと、心配そうにユンボクの足を見ていました。ユンボクは「それとは関係ないですよ…」と言い返しますが、ホンドは「すべては関係ある…」と言うと、ユンボクの足を手にとって見ようとします。

その時です。二人の間の木に、一本の矢が刺さります。二人は驚きます。二人が周りを見渡すと、しげみの方から、黒い服を着た複数の刺客達が現れます。ホンドは、ユンボクの手を引っ張って起こすと、二人はそこから走って逃げて行きます。すると二人の目の前に、ジョニョンの女侍が現れます。二人は驚いて立ち止ります。二人が荒い息をさせながら、女侍を見ていると、女侍は懐から書状を出してホンドに差し出します。ホンドは、不審そうな顔で何も言わずに立っていました。女侍は「私は行首様の命令に従うまでだ…」と言います。ホンドは少し考えますが、その書状を受け取ります。すると直ぐに、女侍は刀を抜きます。ホンドとユンボクは驚くのですが、女侍は、ホンドとユンボクに目で逃げろと合図をします。ホンドとユンボクは、手をつないで逃げて行きます。女侍は、二人を追ってきた刺客達と戦い始めます。女侍は懸命に闘うのですが、大勢の刺客に囲まれて、最後を遂げます。



宮中では、王様とホン・グギョンが話をしていました。

王様は「檀園と蕙園は無事去ったのか…」と聞きます。ホン・グギョンは「はい…」と答えます。王様は、溜息をつくと「誰かの為に…すべてを捨てられる檀園が…うらやましい…」と言います。これは王様の本音でした。王様には決して真似のできる事ではありませんでした。なぜなら、王様の一挙手一投足は、即国事に繋がるものであり、民の幸せを守るためには、そのようなことは考えられなかったからです。



ホンドとユンボクは、藁ぶきの小屋で夜露をしのいでいました。

ユンボクはホンドを見つめていました。ホンドは、焚火に薪をくべながら考えていました。ホンドはユンボクに「今夜はここで過ごそう…」と言います。ユンボクは淋しそうな顔で「師匠…私が師匠のそばを…去らねばなりません…」と言います。ホンドは真剣な顔でユンボクを見つめながら「何を言っている…」と言います。ユンボクは「彼らは私を追い続けます…私がいるかぎり、師匠も危険にさらされます…」と言います。ホンドは「ユン…」と言います。ユンボクは「これまで…私のせいで、多くの人が傷つきました…早くに死んだ、実の両親もそうですし…ヨンボク兄さんも…チョンヒャンも…皆私のせいです…主上殿下も私のせいで、苦難を経験され…今度は師匠までが…私が去ります…そうすれば…もう師匠を襲いません…」と言います。ユンボクの目からは、止めどもなく涙が出ていました。ホンドは「世の中の誰も…私たちを殺せない…それに…お前が去って…どうなるというんだ…お前なしに…一人で生き…一人で絵を描いて…生きるに値するか…」と言います。ユンボクは、泣きながらホンドをただ見つめているだけでした。ホンドは「世の果てまで共に行く…」と言います。ユンボクは「師匠にとって…私は一体何ですか?…」と聞きます。ホンドは「弟子であり…友であり…私が極めて親しかった、友の娘だ…」と答えます。ユンボクは泣きながら「それだけですか?…」と聞きます。ホンドは少し考えて「私の友の娘で…私の弟子で…世の果てまで守りたい…私の女人だ…」と答えます。ユンボクの目からは、涙が流れ続けていました。ホンドは「だからもう迷うな…」と言います。ユンボクは、嬉しそうにうなずきます。

ユンボクは、ホンドの肩にもたれかかりながら寝ていました。ホンドは、袖の中なら、女侍から渡された書状を取り出します。そして広げて読み始めます。ホンドは「ユン…ユン…」と名前を呼んで起こします。ユンボクが目を覚ますとホンドは「これで助かった…」と言うと、書状をたたんでなおしながら「行ってくる…」と言います。ユンボクは「どこへですか…」と聞きます。ホンドは「明るくなったら家で待て…私もすぐに行く…」と言います。ユンボクは「師匠…」と言います。ホンドは「変な気を起こすなよ…」と言います。ユンボクは「師匠…」と言うと、ホンドの傷めた手を握ります。そして愛おしそうに触ります。二人は見つめ合っていました。ホンドは「約束だぞ…」と言います。ユンボクは何とも言えない表情を見せます。そして下を向き、ホンドの傷めた手の包帯を外します。ユンボクはホンドの顔を見るとまたホンドの手を愛おしそうに触ります。そして両手で自分の頬に触れさせます。ユンボクは「師匠の手は…本当に暖かい…」と言うと目をつぶります。ユンボクの目からは大粒の涙が流れ続けていました。ユンボクは、その涙目でホンドを見つめます。ホンドは「すぐに戻るからな…」と言います。ホンドの目からも涙がこぼれ落ちていました。ホンドは立ち上がり、藁ぶきの小屋を出て行きます。ユンボクは、追いすがるような視線をホンドの背中に合わせていました。



ホンドは、市中に戻って来ていました。武官の目から逃れるようにして宮中を目指していました。

ユンボクは、正装に着替えて焚火にあたりながら、何かを考えていました。ユンボクの目からは、止めどもない涙があふれ出ていました。

ユンボクは、ホンドと初めて会った時のことを思い出していました。山から下りて来たばかりのホンドの姿を…ホンドが昔描いた絵を二人で取り合って見ていた姿を…そして、ユンボクが自分の手を砕いて、絵を描く自信を無くしていた時に、そっと手を添えて一緒に描いてくれたホンドの姿を…女装をして鞦韆の絵を描いていた時に、男だとばれて手をつないで走って逃げた姿を…画員試験で、最後の最後に鞦韆の絵を描き上げた時に、ホンドに飛びついて喜び合った姿を…御真画師で官服を着て宮中を歩いている時に、胸を張りだして見せた姿を…王命で絵を描くために、二人で画題を探していた姿を…御真画師の為に肖像画の勉強する時に、二人の顔に墨を塗っている姿を…五つの肖像画を別提に奪われた時に、女装したままでモンタージュの肖像を描き終えてホンドと別れる時に、今まで自分が羽織っていたホンドの服を背中に賭けた時に、初めてホンドに抱き寄せられて涙する姿を…思い出していました。ユンボクの目からは堪えることの出来ない涙が流れていました。そして、声を出しながら泣いていました。その姿は、胸が張り裂けんばかりのようでした。



ホンドは、王様に拝謁していました。

王様は、机を思いっきり叩くと鋭い目つきで「御命で去るものを殺そうとは…」と怒りを込めて言います。そして、そばにいたホン・グギョンに「檀園と蕙園の無事を守れ…誰も二人を害させないようにだ…」と命じられました。ホン・グギョンは「はい、殿下…」と答えます。

ホンドは「聖恩に感謝の極みです…」と言います。王様は、ホンドが持って来ていた封書を見て「これは何か?…」と尋ねます。先世子邸下を陥れた…証拠です…」と答えます。



宮中では、王様の横に、ユンボクが描いた思悼世子の睿真画師を置いて、追尊が行われていました。

王様は「予は…思悼世子の息子だ…本日…前王の息子であり、予の父である…先世子邸下の無実の罪を晴らし…荘献(チャンホン)世子と追尊する…朝鮮の百官と民は…予の意を厳格な法として従うように…」と宣言されました。大臣達は全員で「命を奉じます…殿下…」と言います。



王大妃の部屋には、右議政とキム・グィジュがいました。

王大妃は「ウサン大監…朝廷を去りなさい…」と言います。右議政は「王大妃様…そのような…」と力なく言います。さらに王大妃は「兄上も官服を脱いでください…」と言います。キム・グィジュは、驚いたように「エッ…王大妃様…どういうことですか…」と尋ねます。右議政も「しかし…このままでは、後日を図ることが出来ません…」と言います。王大妃は、冷たい表情で「もう終わりました…先世子を陥れた証拠が主上の手にあるのに…何が出来ますか…」と言います。右議政は、目を瞑って無念そうな表情を見せます。王大妃は「命を永らえたいなら…静かにすべきです…」と言います。



ホンドはソ・ジンの家に向かっていました。そしてふと、ユンボクと別れた時のことを思い出していました。

ユンボクは「師匠の手は…本当に暖かい…」と言った事を…



そして映像は、第一話の一番最初の映像が現れます。

ホンドが「私は、ある人のことを話したい…」と言います。

ユンボクの線を引く映像が映し出されます。ユンボクの男装で絵を描く姿が映し出されます。ホンドは歩きながら「私は今、嬉しさと苦痛を感じる…」と言います。

ユンボクが、人の目を線で引いている映像が映し出されます。

ホンドは「あの人を思えば嬉しく…あの人を失うことは苦しい…あの人は私の弟子で…私の師匠であり…私の友であり…」と言います。映像は、男装のユンボクから女装のユンに変わり、絵を描いていました。

ホンドは、ソ・ジンの家の戸を開けようとします。

ホンドは「そして…恋人だった…」と言います。ホンドが家の中に入ってもユンはいませんでした。ただあるのは思い出の絵だけでした…



ユンボクは、小さな帆のついた船に乗っていました。ユンボクの目からは、涙が流れていました。

ホンドは、ユンボクの描いた美人図を見ていました。そして泣きながら、そっと手で触れていました。

ホンドが「描くとは何か…」と聞くと、ユンボクの女装の映像が流れて「それは懐かしさです…」と答えます。(これは、ホンドの質問に、ユンボクが生徒時代に答えたものでした。)



「風の画師」第20話(最終話)美人図 は、ここで終わりました。









ホンドの絵に西日が当たると、絵が朱色に輝き存在感を増して行きます。審査員たちは口々に驚きます。ホンドは「絵全体に…橙色を使ったのは、土俵の色でもありますが…強い夕焼けの色を浴びれば…その瞬間こそ闘争を最も闘争らしくする瞬間であり…勝負を最も勝負らしくする瞬間になります…」と言います。審査委員の一人が「用意周到に、絵を見る時間まで考えたというのか…」と言います。こうしてホンドの絵に“通”が与えられ、また“通”の数が五分に戻りました。ジョニョンは、どうにかして勝負をつけようと画策するのですが、ポクウォン君が「もうやめろ…日も沈んだ…これで決める…」と言います。こうしてユンボクとホンドの画事対決は引き分けとなりました。ジョニョンは、視線を下げて黙っていました。チョンヒャンはホットした表情を見せます。ユンボクは、何とも言えない表情でホンドを見ました。ホンドはユンボクに視線を合わせて、小刻みに何度もうなずいていました。

画事対決の会場の外では、結果の発表時間が過ぎているのに、発表がされないので客たちが騒ぎ始めていました。ジョニョンの使用人は、苦しい表情で「今回の画事対決は、引き分けになった…」と言います。客たちは「じゃ私の金はどうなる?…賭け金はどうなるんだ?…」と、口々に叫び始めます。

会場では、審査員の一人がジョニョンに「あの声が聞こえないのか…」と言います。礼曹判事は「もう、暴動が起きるぞ…」と言います。ジョニョンは、元気のない声で「私に…どうすることが出来ますか…」と言います。その時、戸曹判書が「“結者解之”と言う…この画事対決を主催した、お前が解決しないとな…」と、語気を強めて言います。ジョニョンは渋るのですが、戸曹判書は覚書を持ち出します。戸曹判書はホンドに頼まれて引き分けに賭けていたのでした。そして引き分けになった時には、ジョニョンの責任で収拾を図ると覚書をしていたのでした。ジョニョンは、私財を投げ出しても収拾すると言わざるを得ませんでした。

ホンドとユンボクは控室にいました。ユンボクは、心配そうな顔でホンドに「どういうことですか?…」と尋ねます。ホンドは落ち着いた表情で「お前は父の仇を…そして私は、友の報復をしている…」と言います。そしてホンドはユンボクに、戸曹判書との出来事を話しました。戸曹判書は、最初は渋っていたのですが、ホンドとユンボクは、誰も笑わすことの出来なかった孫を笑わすことが出来た…その不可思議な力を信じたのかもしれません。

ユンボクは、少しだけ不服そうに「それなのに…なぜ、話してくれなかったんですか…」と言います。ホンドは「私の知る蕙園は、真っすぐな性格で…隠しごとが出来ない…」と言います。ユンボクはじっとホンドを見つめていました。ホンドは「信じてくれて嬉しい…」と言います。ユンボクは「師匠が…信じろと仰いました…」と言います。ホンドは「そして…お前の女人の為に、約束を守る方策がある…」と言います。ユンボクは、微かにホットした表情を見せます。ホンドは全てにおいて計算しつくしていたようです。いかにして復讐を果たすか…いかにしてユンボクを守るか…いかにしてチョンヒャンを助けるかということを…

ユンボクはチョンヒャンの部屋にいました。チョンヒャンを救うために、ジョニョンの屋敷を出て逃げるようにと説得していました。

チョンヒャンはユンボクに「今すぐ去れとは、何の話ですか…」と聞きます。ユンボクは「今はそれが、生きる為の道だ…準備してくれ…去らねば…」と言います。チョンヒャンは、伏し目がちに「画工を恨みました…画工が女人であったことも…それを秘密にして…私に対したことを…」と言います。ユンボクは、悲しそうな顔をして伏し目がちに「私も…私が女人であることを恨んだ…しかし、気づいた事実がある…私が女人だったから…あなたに引かれた……すまない…自分勝手に…あなたを思い…こんな別れになったが…あなたは変わらずに、私の胸に美しく居続ける…」と言います。チョンヒャンも「画工は、ずっと…美しい人であるでしょう…私も誰かの…大切な人になれることを…教えてくれました…ですが…今は去れません…私が去れば…画工が危険です…」と言います。ユンボクは、チョンヒャンをどうにかして逃がさねばと思い説得を続けます。そして「いけない…それはダメだ…あなたが去ってこそ…行首と私の問題を解決できる…」と言います。

ユンボクは、こうやってチョンヒャンを説得したのですが、ユンボクとチョンヒャンの複雑な感情が絡み合って何とも言えない気分になりました。チョンヒャンは男としてユンボクを愛しました。一見拗ねたように見えても、心根が優しく美しいユンボクに愛情を感じていました。ユンボクは、女としての自分が、憧れるようなチョンヒャンの姿形と心に愛情を感じていたのだと思います。

川べりの小さな帆のついた船の前に、ユンボクとチョンヒャンが立っていました。そして、二人は見つめ合っていました。

チョンヒャンはユンボクに「私たちの縁は、ここまでですね…」と言います。ユンボクは視線を下げて黙っていました。チョンヒャンは「一生…忘れないでしょう…」と言います。ユンボクは「私も…忘れられない…」と言います。チョンヒャンの目から涙が流れました。そして「どうか…幸せに…」と言います。チョンヒャンは、振り返って船へ向かいます。ユンボクは、チョンヒャンの後姿を見つめていました。チョンヒャンは、振り返って名残惜しそうにユンボクを見つめます。ユンボクもまたチョンヒャンを見つめます。

チョンヒャンは、また振り返ると船の方へ歩いて行きました。ユンボクは、その後ろ姿を目に焼き付けていました。ユンボクの目には、今にもこぼれそうな涙が溜まっていました。



画事対決が終わり、王様から図画署復帰の許しを得たユンボクは、ソ・ジンの家にいました。父が使っていた機械を懐かしく愛おしそうに触りながら見つめていました。すると、実父ソ・ジンの幻影が現れます。ユンボクは「父上…」と言います。ソ・ジンはユンボクを見ると微笑みました。そこへホンドがやって来て「ユン…少しは楽になったか…もう、胸のつかえが…少しは消えたか?…」と聞きます。ユンボクの目からは、大粒の涙がこぼれていました。そして「すべてが…一場の夢のようです…」と答えます。ホンドは、「そうか…頑張ったな…本当に頑張ったな…」と言います。その眼は涙で潤んでいました。ホンドは視線を周辺に向けながら、ソ・ジンの霊に対して「おい…友よ…これを見ているか…これで…よかったか…」と言います。そしてユンボクを見つめて「いいそうだ…」と言います。ユンボクは、涙を流しながらホンドを見つめます。

ホンドは「お前の父と…実に似ていると言われたが…本当にそうか?…私が本当にお前の父親に似ているかよく見てくれ…」と言います。ユンボクは「いいえ…」と言います。ホンドは「そうだろ…似てないよな……お前も…そうだ…どうしてお前に気づかなかったのか…昔の面影がない…今回の絵を見て思った…これ以上…弟子でいなくていい…私はもう…お前の父の友でなく…お前は私の友の娘でなくていい…お前は、ただ…お前であるだけだ…」と言います。ユンボクは、ホンドの傷ついた手を取り「師匠の手は…もう大丈夫ですか…」と聞きます。ホンドは「もちろんだ…もう痛くない…」と答えます。ユンボクは、ホンドの傷ついた手を愛おしそうに見つめていました。そして「師匠…私は…もう…図画署に帰りたくありません…」と言います。二人は見つめ合っていました。ユンボクは、初めてホンドに、女人に戻りたいと打ち明けたのだと思います。そして、幸せな生活が始まるはずでした……しかし、束の間の夢と消えてしまいます…



王様は王大妃に「私は、無念のままに死んだ父上を追尊します…お祖父さまは、丁亥年に…画員に父上の睿真を追写しろと命じました…父上の復権を明らかにされたのです…私は、先王の意志を奉じ、追尊して…正当性を確立します…王室の権威を確立し、朝廷の紀網を正すでしょう…」と言います。王大妃は「檀園と蕙園が追写した睿真ですか?……ところで主上…蕙園は女人です…ご存知ないのですか…女人が描いた偽りの睿真で…王室の正当性などと…これは王室の恥です…主上の考えの浅さには…失望しました…追尊は不可能です…その話は二度とされないように…」と言います。王様の顔は固く引きつっているようでした。

ホンドとユンボクは、王様に呼び出されていました。王様は「蕙園…お前が女人であるのは…事実か?…」と尋ねます。ユンボクは「殿下…私は…確かに女人です…」と答えます。王様は、悲しげな表情で「予は…信じていたのに…このように欺くとは…どうしてなのだ?…お前たちの罪をどう処置すればいいのか…」と言います。ユンボクは、静かに抑えた口調で「主上殿下を欺いたうえで…生きることは望みません…死罪をお与えください…」と言います。ホンドは「殿下……男装して、殿下を欺き…御真画師まで行ったのは死罪に値します…しかし、蕙園は…ソ・ジンの娘です……幼くして父を失い…女人として生きられなかった…運命をお考えください…王を欺いた女ではなく…無念の心を持つ殿下の民として…ご理解いただけませんか…」と言います。

王様は、父思悼世子の睿真が完成して、初めて見た時の喜びを思い出していました。そして王様は「蕙園を救う策がある……明らかにするな…蕙園が女人であることを…永遠に明らかにするな……予の手で…蕙園の命を奪いたくない…この部屋を出たら、都城を去り…世間の目から逃れろ……」と言います。

王様は「檀園は図画署に帰り、お前の座を守ってくれ…今後は誰も…蕙園の件を口にせぬよう御命を下す…」と言います。ホンドは「殿下…恐れ多いながら…かけがえのない友の娘を…一人で行かせられません…」と言います。王様は「蕙園の為に…お前のすべてを放棄するのか……蕙園と去れば…その瞬間から画員の名を使えなくなるぞ…それでもよいか…」と言います。ホンドは「行かせてください…」と答えます。ホンドはユンボクのことを必死になって守ろうとしていました。



王様は王大妃に「蕙園は…確かに男でした……誰が流した噂なのか、無駄な心配をしました…」と答えます。王大妃は、右議政とキム・グィジュを呼びだして「何をしているのですか…すぐに蕙園を捉えるのです……私の目の前で…男か女か確認します…」と命じます。右議政は、神妙な顔で「分かりました……キム・ホンドはどうしますか?…」と尋ねます。王大妃は「キム・ホンドは…殺して下さい……禍根をすべて絶ちます…事件関係者の口をふさぎ…証拠を燃やすのです…誰も生き残らせてはなりません…」と命じます。こうして右議政一派は、ユンボク・ホンド・ジョニョンへ刺客を送りました。

 ジョニョンは右議政に裏切られた事を知ると、自暴自棄に陥り、逃げずに刺客の矢に倒れます。ジョニョンは死に際に、証拠の覚書を女侍に託します。欲を描き過ぎた豪商の夢は呆気なく消えてしまいました。



ホンドとユンボクは、旅支度をして歩いていました。ユンボクは、すまなそうな表情で「師匠…画員として、すべてを失っても後悔しませんか…」と尋ねます。ホンドは「一生農夫として、クズの根だけ食おうとも…後悔しないさ…今まで後悔ばかりだったから、もうしたくない……これで世界中を絵に描ける、何を心配する…他のどんな画工よりも幸せだ…行こう…」と言います。しかし、ユンボクの心は晴れませんでした。

ホンドとユンボクが山道を歩いていると、右議政一派の刺客に襲われます。二人は手を携えて逃げるのですが、そこに女侍が現れます。二人は驚いて立ち止ります。女侍は懐からジョニョンの覚書を差し出します。ホンドが不審そうな顔をすると、女侍は「私は行首様の命令に従うまでだ…」と言います。ホンドが覚書を受け取ると、女侍は二人に目で逃げろと合図します。女侍は、二人を追ってきた刺客達と懸命に闘うのですが、大勢の刺客に囲まれて、最後を遂げます。

ホンドとユンボクは、藁ぶきの小屋で夜露をしのいでいました。ユンボクは淋しそうな顔で「師匠…私が師匠のそばを…去らねばなりません……彼らは私を追い続けます…私がいるかぎり、師匠も危険にさらされます……これまで…私のせいで、多くの人が傷つきました…早くに死んだ、実の両親もそうですし…ヨンボク兄さんも…チョンヒャンも…皆私のせいです…主上殿下も私のせいで、苦難を経験され…今度は師匠までが…私が去ります…そうすれば…もう師匠を襲いません…」と言います。ユンボクの目からは、止めどもなく涙が出ていました。ホンドは「世の中の誰も…私たちを殺せない…それに…お前が去って…どうなるというんだ…お前なしに…一人で生き…一人で絵を描いて…生きるに値するか…世の果てまで共に行く…」と言います。ユンボクは「師匠にとって…私は一体何ですか?…」と聞きます。ホンドは「弟子であり…友であり…私が極めて親しかった、友の娘だ…」と答えます。ユンボクは泣きながら「それだけですか?…」と聞きます。ホンドは少し考えて「私の友の娘で…私の弟子で…世の果てまで守りたい…私の女人だ……だからもう迷うな…」と答えます。ホンドは、自分の心の内を初めてユンボクに伝えました。ユンボクは、泣きながら嬉しそうにうなずきました。

ユンボクは、ホンドの肩にもたれかかりながら寝ていました。ホンドは、女侍から渡された覚書を読んでいました。ホンドは「ユン…ユン…」と名前を呼んで起こします。そして「これで助かった……行ってくる…」と言います。ユンボクは「どこへですか…」と聞きます。ホンドは「明るくなったら家で待て…私もすぐに行く……変な気を起こすなよ……約束だぞ…」と言います。ユンボクは「師匠…」と言うと、ホンドの傷めた手を握ります。そして愛おしそうに触ります。包帯を外し、両手で自分の頬に触れさせます。ユンボクは「師匠の手は…本当に暖かい…」と言うと目をつぶります。ユンボクの目からは大粒の涙が流れ続けていました。ユンボクは、その涙目でホンドを見つめます。ホンドは「すぐに戻るからな…」と言います。ホンドの目からも涙がこぼれ落ちていました。これがユンボクとホンドの最後の別れでした。ユンボクが気弱になっている時に、なぜホンドはユンボクを一人にさせたのかと言いたくなりました。せめてインムンか養父のシン・ハンビョンの屋敷に連れて行って、身柄を確保しておくべきでした。ユンボクは、ホンドの事を想いながら一人淋しく姿を消してしまいました。悲劇としか言いようがありませんでした。



ホンドは、王様に拝謁して、すべてを解決すると、ソ・ジンの家に向かっていました。そしてふと、ユンボクと別れた時のことを思い出していました。ユンボクが「師匠の手は…本当に暖かい…」と言った事を……ホンドの表情が変わりました。ユンボクの別れの言葉と気付くのが遅すぎました。そして、ラストシーンが流れ始めます。これは、第一話の冒頭に流れたシーンでもありました。

「私は、ある人の事を話したい…私は今、嬉しさと苦痛を感じる…あの人を思えば嬉しく、あの人を失うことは苦しい…あの人は私の弟子で、私の師匠であり、私の友達であり、そして、恋人だった…」

ホンドは、ソ・ジンの家に入ります。しかし、ユンはいませんでした。ただあるのは木枠に張られていた美人図だけでした。ユンは一度この家にやって来て、ホンドの為に美人図を描き残して行ったのだと思います。

ユンボクは、小さな帆のついた船に乗っていました。ユンボクの目からは、涙が流れていました。ホンドは、ユンの描いた美人図を見ていました。そして泣きながら、そっと手で触れていました。

最後に、ホンドが「描くとは何か…」と聞くと、ユンボクの女装の映像が流れて「それは懐かしさです…」と答えます。これは、ホンドの質問に、ユンボクが生徒時代に答えたものでした。たぶん、ユンの描いた美人図は、チョンヒャンの姿を借りた、ユンの自画像だったのだと思います。ユンは美人図の中で生きようと考えたのかもしれません。ユンとホンドの愛を二人の心に刻み込む為に……



こういう終わり方しか無かったのでしょうか……たぶん、芸術的に言えば、この終わり方がベストだったのかも知れません。しかし私には、あまりにも悲劇的過ぎて耐えられませんでした。

幼くして、政変に巻き込まれた父母が暗殺され、そのショックで記憶を失ったユンは、父の上司であるシン・ハンビョンの養子となるしかありませんでした。養父ハンビョンは、自らの野望の為にユンを男として育てました。ユンは屈折しながらも絵の素質を伸ばし画師シン・ユンボクとなりました。王大妃とも知らずに描いた女人の絵が、またしてもユンボクを奈落の底へ落としてしまいました。たった一人の理解者だった兄ヨンボクを失いながらも、幾多の試練を乗り越えて来たユンボクでした。実父ソ・ジンの仇を討って、ホンドからプロポーズをされて、これからという時に……一人淋しく消えて行かねば成らないとは、あまりにも淋し過ぎる人生のように思いました。人間は、不幸に生まれついた者は、最後まで幸せになれないのかと思わせるラストでした。

大長今デジャングム)「宮廷女官-チャングムの誓い」のようにハッピーエンドとはいかなくても、せめて善徳女王のように、最愛のユシンロウに看取られて逝ったような終わり方が出来なかったのかと思いました。もう少し、救いのあるラストであったならばな…と思いました。

希望を言わせてもらうならば、この政変が終わって二・三年後に、ホンドがユンボクを探し出して、幸せに暮らすことが出来る続編を作ってもらいたいものです。



2012年2月12日日曜日

韓流時代劇「風の絵師」第19話争闘を見ました


19話 争闘



 回想の映像が流れています…

ユンボクは泣きながら「私は…この絵が御真でなく…この絵の中の人物が…殿下でないことを知っています…」と言います。そして次の瞬間に、ユンボクは御真画師を引き裂いてしまいました。その様子を見ていた王様は、唖然としていました。ホンドの目は点になり、ただユンボクの姿を捉えているだけでした。

 王様の怒りは頂点に達していました。今までの準備と苦労が、ユンボクの御真画師を引き裂くという行為によって、何もかもが水の泡と消え去ったからです。王様は「画工は、予を愚弄するのか…」と叫びました。

 ユンボクは、義禁府の庭で涙を流しながらむしろの上に座っていました。隣には、ホンドも同じように座っていました。役人は「罪人シン・ユンボクは…御真の棄損罪を問い…国法により、斬首刑でその罪を罰する……」と判決文を読み上げます。ユンボクとホンドは、ただ泣きながら見つめ合っていました。

 ホンドは、夜の宮殿の門前で、ユンボクの減刑の嘆願をしていました。そして、萎えた足を引きずりながら立ち上がり、かがり火の前に立っていました。ホンドは「この手を…差し出します…」と言うと、大臣達の目の前で、画員の命とも言うべき手をかがり火の中に入れます。ホンドの覚悟の叫びと苦しみの叫びが入り混じって、あたりは異様な雰囲気となりました。大臣達は驚きながらただホンドの様子を遠巻きにして見ているだけでした。ホンドは必死で「若い画工の命をお助け下さい…」と叫び続けました。

 チョンヒャンは、ユンボクを助ける為に「もし旦那様が、その画工を私画署に入れたら…どんなに良かったかと、ふと考えました…」と、わらにもすがる思いで、ジョニョンに話します。ジョニョンは「なるほど…」と答えます。

 刑場では、ユンボクが後ろ手に縛られて、むしろの上に座らせられていました。斬首刑を行う前の儀式の舞が、処刑人によって舞われていました。ユンボクは恐怖に耐えながら目を瞑り、涙を流していました。処刑人が「ワァー…」と気合を入れたその時、周囲のざわめきは頂点に達しました。ホンドは泣きながら目をつぶり後ろを向きました。しかし、次の瞬間に役人の「やめろ!…」という声が掛かりました。ユンボクは泣き続けていました。ホンドは声のした方向を見つめます。馬に乗ってやって来た役人が「御命だ!…」と叫びます。周囲にいた人々は、土下座をして両手をつきます。役人は御命を「主上殿下の海のごとき恩恵で…今日、画員シン・ユンボクの斬首刑は…執行せぬ者とする…」と読み上げます。ホンドは顔をあげホットします。

 ジョニョンは、シン・ハンビョンの屋敷にやって来て、宝箱を開け、お金や亀の細工物を見せます。そして「この程度なら、十分に手厚い額かと…」と言います。ハンビョンは「ですから、ユンボクをお宅の私画署に入れれば…このお金をくださるということですか…」と聞きます。ジョニョンは「そうです…」と答えます。

 王様ンは、ホンドとユンボクに「丙辰年に消えた、思悼世子の睿真を探せ…」と命じます。

 ホンドとユンボクは、五つの肖像画を別提によって奪われたので、四つの肖像画からモンタージュの肖像画を作成して、王様に提出します。王様は、モンタージュの肖像画が入った箱の蓋を開けます。中から肖像画を取り出し、広げて見ます。その肖像画が、生前の父、思悼世子の姿と重なり合います。王様の目からは涙があふれ出し、思悼世子の肖像画を慈しむように手で触ります。そして、肖像画に「父上…」と呼び掛けます。王様は号泣していました。その姿をホンドとユンボクは見つめていました。

 ホンドとユンボクは、ソ・ジンの残した絵を見ながら、ホンドの師匠とソ・ジンを殺した犯人の謎解きをしていました。朝日と鶴と松の絵を見て「ジョニョン」と読み、松の木と二つの机の絵を見て「殺」と読みました。ホンドが「ジョニョン…殺…」と言います。そして「ジョニョンによる死?…」と言います。ユンボクの顔が一変していました。ユンボクとホンドは視線を合わせます。

 ジョニョンがユンボクに「画事対決をしたい…」と言います。ユンボクは振り向くと、鋭い眼差しでジョニョンを見つめます…

 ジョニョンが図画署にやって来て、ホンドと会います。ジョニョンがホンドに「お前が決めてくれ…10日後だ…」と言います。



ユンボクは、生まれて幼い日を過ごした、実父ソ・ジンの家に一人でいました。ユンボクの脳裏に思い出が駆け廻ります。

自分の手を自分で砕いた時に、ホンドが自分を立ち直らせようと、手を握って一緒に絵を描いてくれた時の映像が…王様の命で、一緒に市中で画題を探している時の映像が…画員試験の時に、別提の手下によって古井戸に落とされて足を怪我したときに、ホンドがおぶって図画署まで走ってくれた時の映像が…別提達から肖像画を奪われて、女装をしたままモンタージュの肖像を描いている時に、夜の寒さにホンドが気づき、自分の上着を背中に掛けてくれた映像が…次から次へと浮かんできました。

その時、戸口で物音がします。ユンボクが振り返るとホンドが家の中にいました。

ユンボクは「師匠…」と言います。二人はしばらくの間、見つめ合っていました。そしてホンドが「来たな…」と言います。ユンボクは「はい」と答えます。ホンドはユンボクを見つめながら「明日だな…」と言います。ユンボクは心配そうに「師匠…」と言います。そして「どうして応じたのですか?…」と聞きます。ホンドは「お前が、先だったんだろう…」と言います。ユンボクは「私は、師匠が先に応じたと…」と言います。ホンドは「商売人の巧みな術策に…引っかかったな…」と言います。

ユンボクは、深刻な表情でホンドを見つめながら「もし私が負けたら…どうなりますか…」と尋ねます。ホンドは「二度と絵を描けなくなり…死んだお前の父の前で、顔を上げられなくなる…」と答えます。ユンボクは少し考えると、沈んだ目をして「師匠が…負けたら?…」と尋ねます。ホンドは、視線を少し下げて、息を深く吸い込んで、ゆっくりと吐きだします。そして「勝負に関係なく…図画署画員としての生命は…終わったと思う…」と答えます。ユンボクは、不安そうな目でホンドを見つめていました。ホンドは「お前が私に、勝てると思うか?…」と聞きます。ユンボクは、目の焦点が定まらず、困った表情を見せます。

ユンボクは「ところで…師匠の手は…まだ…」と言って、ホンドの事を心配しました。ホンドは「手は大丈夫だ…ダメなら足で描く…心配するな…」と言います。ユンボクは、じっとホンドの顔を見つめていました。ホンドは「ユン…よく聞くんだ…立派な師匠は…立派な弟子を作るものだ…立派な弟子は…その師匠を理解する者だ…もっと立派な弟子は…その師匠を超える…明日の画事対決で必ず私に勝て…それでなければ…弟子として認めない…」と言います。二人は見つめ合っていました。そしてホンドは「絶対に忘れるな…私に勝つ事だけが、唯一の生きる道だ…」と言います。ユンボクは「師匠に勝つ事だけが…唯一の生きる道?…」と言います。ユンボクの眉間にはしわがより、複雑な表情をしていました。ホンドはユンボクに「必ず私に勝て…私も…お前に勝つ…私の話を…絶対に忘れるな…」と言います。ユンボクはホンドを見つめながら、かすれるような小さな声で「はい」と答えます。





王様は、執務室で書類を呼んでいました。そこへ側近のホン・グギョンがやって来ました。

王様は「檀園と蕙園の対決は、今日だな…」と言います。ホン・グギョンは「左様です…」と答えます。そして「どちらが勝ったとしても…勝敗が決まれば、一人は悲惨な目に遭います…」と言います。王様は「対決の後、大行首が何をするか分からぬ…お前が画員たちを保護するように…」と命じます。ホン・グギョンは「ご心配なく…」と答えます。王様は「そして…」……



王大妃の部屋には、兄のキム・グィジュがいました。

王大妃は「顔がない肖像…睿真画師…どうしても気になります…」と言います。キム・グィジュは「何がですか?…」と尋ねます。王大妃は「今、町では…画事対決が話題だそうですね…キム・ジョニョンのやり方は気に入りません…」と言います。キム・グィジュは「手腕では、王より優れているとも言います…」と答えます。王大妃は「やり過ぎれば隙も多い…いたずらが災いを呼びます…」と言います。キム・グィジュは自信ありげに「ご心配なく…蛇のように抜け目がない者です…」と答えます。王大妃は「万が一を考えて下さい…」と言います。キム・グィジュは「はい、王大妃様…」と答えます。



ジョニョンは、チョンヒャンの部屋に来ていました。

ジョニョンはチョンヒャンに「今日は、なおさら美しいな…どうだ?…」と言います。チョンヒャンは、伏し目がちにして黙っていました。ジョニョンは「蕙園と檀園のどちらが勝つと思う?…」と聞きます。チョンヒャンは、挑むような目で「師匠と弟子に争わせる残忍な対決を…遊びと考えるのですか…」と答えます。ジョニョンは「生きることは、一場の遊戯だ…いつか何かを選択すべきで…その選択にすべてを賭ける…それが人生の興だ…賭けてみろ…お前のすべてを…檀園と蕙園のどっちが勝つか…言わずとも…好きな蕙園にすべてを賭けるだろうな…」と言います。チョンヒャンは「旦那様は…異才を増やすことは鬼神より優れていますが…人の心を得る方法は…道の雑草よりご存知ない…心を得る者が天下を得るそうです…」と、開き直ったように無表情で言います。ジョニョンは「人の心は分からずとも…勝敗を誤ったことはない…」と言います。



審査をする為の画界の人々や、画事対決にお金を賭けた両班や民たちが、画事対決会場に続々と集まっていました。上席から末席に至るまで、係りの女達が料理を運んでいました。ジョニョンは、画事対決の審査をする為にやってきた、画界の重鎮たちの接待で大忙しでした。チョンヒャンもまた、琴の演奏をする為か、会場に顔を出していました。

図画署の生徒達も「檀園先生とユンボクの対決とは…信じられない…」と言いながらも、末席に着座します。そして、会場に詰めかけた人々を見て「これはスゴイ…」と言いながら、妓生らしき女人を見ながら愛想を振りまいていました。

ユンボクとホンドは、準備室のような所で絵具や筆などの画材を調べていました。ユンボクとホンドが、同時に同じ筆を選ぼうと手を伸ばしました。ユンボクはホンドの顔を見て、そっと手を元に戻します。ホンドは、その筆を手にすると、筆先の感触を指で確かめていました。そして、その筆をユンボクに「さあ…」と言って差し出します。ユンボクは、ただ黙ってホンドの顔を見つめていました。ホンドはユンボクに「お前が使え…」と言って、また差し出します。ユンボクは「いえ…師匠がどうぞ…」と言います。ホンドは、少し笑うと考えながら「毛が堅いから…細密な筆さばきを求めるお前に必要だ…持って行け…」と言って、ユンボクに渡そうとします。ユンボクは筆を受け取り、じっとホンドの顔を見つめます。そして「まだ私は、よく分かりません…どうして師匠と、この画事対決をするのか…お互いに勝つ事が…どうして生きられる道なのか…」と尋ねます。ホンドは、ユンボクの腕をつかみ、真剣な眼差しでユンボクを見つめながら「ユン…私を信じるか?…信じるなら私に勝て…それが、お前の父の仇を討つ事になる…」と言います。ユンボクは、迷っているのか少し視線を下げて考えます。ホンドは何も言わずに、そんなユンボクの腕を確りと握り締めながら見つめていました。その眼差しは、ユンボクに大丈夫だと訴えかけていました。



右議政の屋敷では、キム・グィジュと別提が来て、密談をしていました。

別提が「ワッハハハー…」と笑いながら「どうですか…ウサン様は、檀園と蕙園のどちらに賭けますか…」と尋ねます。右議政は「奴らが…何をどれほど知ったかも分からないのに…笑いながら言えるか…」と語気を強めて言います。すると、キム・グィジュは右議政に「心配ありません…大行首が信じてくれと言いました…ですから安心して…彼らの命がけの対決を楽しんでください…」と言います。右議政はキム・グィジュに「それでお前は、どちらに賭けた?…」と聞きます。キム・グィジュは「蕙園に賭けました…キム・ジョニョンは…自分の私画署のシン・ユンボクを勝たせます…」と答えます。すると隣の別提が「ウフフフ―…」と笑います。そして「当然ではないですか…キム・ホンドが負ければ…もう二度と筆を持てないでしょう…」と言うと「ワハハハー…」と笑います。右議政は、たばこを吸いながらも真剣な眼差しで二人の会話を聞いていました。



市中では、画事対決に興味のある民たちが、大道芸人の頭の店の前に集まっていました。

頭は「いよいよ、朝鮮最高の画員の…画事対決が始まるぞ…」と言います。そして檀園・蕙園と書かれた壺を扇子で叩きながら「檀園…蕙園…100年に一度の画事対決…これは本当に興味津々だ…さあ、急いで…」と大声を張り上げていました。



画事対決の会場では、楽器の演奏が始まっていました。チョンヒャンも演奏に加わっていました。そして、ユンボクとホンドが並んで会場に入って来ました。ユンボクは歩きながら、琴を演奏しているチョンヒャンを見つめます。チョンヒャンもさり気なく視線を合わせました。

ユンボクとホンドは主賓席の前に並んで立ちます。図画署の生徒達が、心配そうな顔をしてユンボクに近づいて来ました。二人の周りを両班達が取り囲んでいました。

ジョニョンは「画事対決をする画員です…図画署最高の画員で、主上殿下の寵愛を受け…山水画から動物画…そして儀軌班次図(ウィグパンチャド)まで…何一つ欠けるものがない…朝鮮最高の画員、檀園キム・ホンドです…」と言います。周辺からざわめきが起き「やはり…最高だ…」と声が掛かります。ホンドは軽く一礼をします。

ジョニョンは「こちらは…画仙、檀園が認めた弟子…図画署の手に余る、破格な画風の画員…強烈な色彩と女人の心理描写に優れた…最高の風俗画家、蕙園シン・ユンボクです…」と言います。ユンボクは目が定まらず、どこか不安げな表情で一礼します。周辺からざわめきが起き「弟子だそうだ…」という声が聞こえて来ました。

ジョニョンは「審査する図画界の皆様を紹介します…まず王室宗親会の画界、チョンべク会のポクウォン君…」と言います。ユンボクとホンドは一礼をします。そしてジョニョンは「朝廷の大臣の画界…ペクラン会代表、礼曹判書キム・シオプ様…眼識が高い平壌のウンウ界代表、ユン・インウォン様…丹陽の有志の画界、サムボン会代表キム・シニョン様…そして行首の画界の代表…イ・ムンジク様…最後に最も由緒ある図画界の集まり…五竹会を代表する最高の眼識…戸曹判書キム・ミョンリュン様です…」と次々に紹介しました。

ジョニョンは「では、これから始めます…画題は、図画界の皆様が決めました…」と言うと、振り向いて深く一礼しながら「発表してください…」と言います。すると、王室宗親会のポクウォン君から、ジョニョンの使用人に軸が渡されました。使用人は、その軸を腰をかがめながらジョニョンの所まで運び渡します。ジョニョンは軸を広げると「今日の最高の勝負にふさわしい画題です…それは…争闘です…」と発表すると、会場の客に見せます。ホンドとユンボクは画題の軸を見つめていました。

ジョニョンは「画事の進行と決定方式に関して…ポクウォン君からお話があります…」と言うと、向きを変えポクウォン君に一礼します。ポクウォン君は「朝鮮最高の画人を選ぶ対決だから…画題も対決であるのが適当だ…二人は各自の方式と技芸で、画題を遂行しなさい…画事は明日の正午までとするが…審査の結果は画界員が、絵を十分に検討したのち…申時(シンシ)から夕暮れまでに決めるだろう…」と言います。ジョニョンは「これから二人の画員の対決を始めます…」と宣言します。そして二人の方を向いて「始めてくれ…」と言います。

ユンボクとホンドは見つめ合います。そして主賓に一礼すると会場をゆっくりと歩いてそれぞれの画室へ向かいます。会場からは「最善を尽くせ…最善を尽くすと信じるぞ…」と声が掛かります。二人は立ち止て振り向き、客に一礼をして、また歩き始めます。





宮中では、王様と大王妃がホンドとユンボクの絵を鑑賞していました。

大王妃は「蕙園の描く絵は…人の心を動かします…私はこの者に賭けます…」と言います。王様は「その画員も優れていますが…私は檀園の絵をこのみます…」と言います。そして「人々の生き生きとした様子が…見ている人に伝わります…」と笑顔で言います。王様は王大妃に「何を賭けますか…」と尋ねます。さらに「勝負は得失があってこそ、楽しさもあるものです…」と言います。王大妃は「そうですね…」と言うと、少し考えて「負けた者が…宮中を去るのは?…」と言います。

すると、王様の表情が一変します。王様は「それは実に興味深いお話です…」と答えます。王大妃は、笑いながら「ただの冗談です…」と言います。王様は「ワハハハー…」と笑います。王大妃は、笑みを見せながら「勝負はいつ決まりますか…」と尋ねます。宮中では、王様と大王妃との神経戦がすでに始まっていました。



ジョニョンは、女侍と密談をしていました。その眼は鋭く、嫉妬と恨みのこもったものでした。ジョニョンは「檀園と蕙園…この対決で…互いの胸の内に…刀を指し合うはずだ…」と言います。



大道芸人の頭は「ついに今日、この日だ…」と言うと、銅鑼を叩いて調子を付けます。そして「二人の画工の火花散る対決の第二章…画評が始まる…」と大声で言うと、また銅鑼を叩いて調子を付けます。



先に会場に戻ってきたのはユンボクでした。客の一人が「来たぞ…」と叫びます。審査員たちの待ち受けるなか、ユンボクは早足で歩いて来ます。それを遠巻きにして、両班や民たちも付いて来ました。図画署の生徒の一人が「ユンボクが先だ…ユンボク、上手く描けたか…描き終わったか…」と言います。ユンボクは伏せ目がちに歩きながら、黙っていました。そして、ジョニョンの使用人に、絵を入れている筒を渡します。使用人は上席のある所に立っていたジョニョンに、その筒を渡します。ジョニョンはユンボクに「ご苦労だった…あとで呼ぶから休んでくれ…」と言います。ユンボクは、ジョニョンの近くに座っていたチョンヒャンを見ます。チョンヒャンも視線を合わせますが、その顔は沈んでいました。

その時誰かが「檀園先生が戻ってきたぞ…」と言います。ユンボクや周りにいる者たちは振り返り、ホンドを迎えます。ホンドは荒い息をしながら、絵の入った筒をジョニョンの使用人に渡します。ユンボクは、心配そうにホンドを見ていました。ジョニョンは、絵の入った筒を受け取るとホンドに「ご苦労…画評の間、しばらく休んでくれ…」と言います。ホンドはジョニョンに一礼をします。ホンドの息遣いは整わず、荒いままでした。ホンドはユンボクを見ると先に控室に歩いて行きます。ユンボクはホンドの後ろを付いて行きます。



 ホンドとユンボクは控室にいました。二人は手を洗う為に袖をまくりあげていました。ホンドが先に手を洗おうとすると、ユンボクはホンドの袖が濡れないように、まくり上げます。その仕草は、弟子の仕草と言うよりは、女人の仕草のようでした。そしてユンボクは、包帯の取れないホンドの手をそっと洗ってやります。二人は時折視線を合わせるのですが黙ったままでした。

 ホンドがユンボクに「うまく描けたか…」と優しく聞きます。ユンボクは、黙ったままうつむいていました。するとホンドが「最善を尽くしたか…」と聞きます。ユンボクは小さな声で「はい」と答えます。そして、ホンドを見つめながら「師匠は?…」と聞きます。ホンドは、自分の手を見ながら「見てのとおり…手がダメだから足で描いた…」と言います。ユンボクの顔に笑みが浮かびました。そして、ホンドの顔にも……ユンボクはホンドの指を優しく洗い続けていました。



 座敷では、部屋を閉め切って、画評が始まろうとしていました。ホンドとユンボクは、審査員の前に用意された席に座ります。ジョニョンは二人を見つめて、ニヒルな笑いを浮かべます。チョンヒャンは、次の間に座って、その様子を硬い表情で見ていました。

 ジョニョンが「これより…画評しながら、勝負を楽しんでください…」と言います。壁には、檀園、蕙園と書かれた、評価を書くための紙が貼られていました。ジョニョンは「お伝えしたように、画評は夕暮れまでで…最後の判定は…皆様の推薦で、王室のポクウォン君がされます…」と言います。ホンドはじっと前を向いて聞いていましたが、ユンボクは落ち着かないようで、時折心配そうにホンドの顔を見ていました。

 ジョニョンが「それでは、画評を始めます…」と言うと、二人の絵に掛けられていた布を外します。そこにいた全員の目が、二人の描いた絵に集中します。

 ポクウォン君が「ワッハハハー…」と笑いながら、ユンボクの絵を見て「これは鮮やかだ…」と口火を切ります。すると隣にいる審査員が「檀園の絵には…二つの視点があるようです…」と言います。それを聞いたポクウォン君は、ホンドの絵を見て「そのとおりだ…まず前から見た視角から、土俵の全景を描いたようだ…勝負の力と活気を表現する為に…見物人の立場から、相撲取りを見上げたな…座っている見物人の目に…相撲取りは、大きく見えたはずだ…それで相撲を取るものを大きく描いたから…絵全体に力がみなぎるようだ…」と言います。隣の審査員も「そのとおりだ…あの土俵の見物人と一つになって…実際の勝負を見ているようですな…」と、他の審査員を見ながら同意を得ようとします。

 ジョニョンは「“通”を頂けますか…」と審査員に尋ねます。審査員全員がそれに同意するようにうなずいていました。最初に檀園の絵に“通”が与えられました。

 一人の審査員が、ユンボクの絵の前に立って「まず…この絵の優れた点は…驚くほどの生動感です…まるで、この場で踊っているような…女人の着る橙色の戦服が…躍動性を見せています…張り切った緊張感と力…速さは女人の帯から感じられます…なびく帽子の赤い羽根とチマの裾の動きが…二人の女人の躍動性を見せています…」と言います。ホンドは、じっとユンボクの絵を見つめていましが、ユンボクはうつむいて心配そうにしていました。審査員たちは、誰もが納得したようにうなずいていました。ユンボクの絵にも“通”が与えられました。すると、チョンヒャンの表情に微かに笑みが浮かびました。その様子をジョニョンは見逃しませんでした。

 ジョニョンは「また、檀園の絵を見ましょう…」と言います。別の審査員が檀園の絵の前に出て評を始めます。審査員は「檀園の絵では…すべての人物の表情が生きています…これはまるで…この人々を一人づつ長い間観察して…印象的な瞬間だけを描いたように見えます…見て下さい…一人も同じ顔を持つ者がなく…自分の顔で、目の前の相撲の勝負を…予測しているかのようです…」と言います。他の審査員も納得してうなずいていました。ホンドにまた一つ“通”が与えられます。

 すると、礼曹判事が座ったまま「檀園の絵の中に二つの視点があり…相撲取りに集中しているなら…蕙園にも同じ趣向があります…見る人の視線を集める為…多くの人で散漫な絵の中に…剣舞を踊る二人の女人を中心に絵が来ました…両班達を押しのけて真ん中に…女人を確り描いた…確かに図画署を飛び出た型破りな画員だ…」と言います。すると、ジョニョンが「当然のことです…この画工は、女人の心を知っています…」と言います。それを聞いていたホンドは、視線を上げてジョニョンを見つめます。何を言い出すのだろうかと思ったに違いありません…ジョニョンは、含み笑いをしていました。そしてジョニョンは「“通”を頂けますか…」と審査員に伺いを立てます。審査員は全員が納得しました。ユンボクに、三つ目の“通”が与えられました。これで一つユンボクがリードしました。審査員たちは顔を見合わせます。ホンドは納得するように、何度も小さくうなずいていました。しかし、ユンボクの心は晴れませんでした。ずっとうつむき加減に視線を下に落としていました。

 次の審査員がホンドの評を始めます。審査員は「全体に同心円を成し…絵の周辺に、ぐるりと見物人を配置して…その間に空間を作って、相撲取りを描き…強烈に視線を捉えながらも…安定感がある…」と言います。ホンドにも三つ目の“通”が与えられました。これで五分に戻りました。ユンボクとホンドは視線を合わせます。ユンボクの表情には、ホットした表情と不安な表情が入り混じっていました。

 次の審査員がユンボクの評を始めます。審査員は「上に七人、下に七人を配置した上で…中心に二人の剣女…絶妙な分割です…二人の剣女が…人々の視線を集めています…」と言います。また一つユンボクに“通”が与えられました。

 次から次へと審査員が評を行います。その度に、ユンボクとホンドの対決は一進一退が続きました。一喜一憂する審査員たち、それを見ながらハラハラと心配しているチョンヒャンの顔…ガップリ四つの審査が続いていました。ホンドは真剣に二つの絵を見つめていました。ユンボクは絵を見ることが出来ずに、力なくうつむいていました。これまでの評価は七対七の同点でした。

 ジョニョンは「そろそろ…勝負を決めねばなりません…いかがですか…」と言います。その時、戸曹判書が愛逮(眼鏡)を外しながら「どうやってだ?…」と言います。ジョニョンは「画題が闘争であるだけに…この絵の中に潜ませた、機略ではどうですか…」と言います。ユンボクとホンドは、自然に視線を合わせます。戸曹判書が「潜ませた機略か?…」と言うと、「オホホホ…」と笑い始めます。そして「それは面白そうな考えだ…どうですか…」と審査員に同意を求めます。すると、ポクウォン君が「それではまず、檀園の絵から見てみよう…」と言います。続けて「この二人のうち勝者はどちらだ?…」と聞きます。すると別の審査員が笑いながら「持ち上げられている方だろう…」と答えます。隣の審査員が「それでは…あのかかえこまれた者がですか…もう投げられそうだ…」と聞きます。ニコニコと笑っている審査員が「見た目にはそのようだが、それは違う…左側の男を見てくれ…両足を地に着けているが、重心が後ろにある…最後のあがきで、相手を持ち上げたが…自分が倒れて転ぶところだ…」と言います。そして笑いながら「違うか、檀園…」と聞きます。ホンドは立ち上がり絵の前に進もうとします。ユンボクはホンドの事を心配そうに見つめていました。

 ホンドは、自分の絵の前に立つと「勝ったのは…この者です」と言うと、審査員が言ったのとは逆の相撲取りを指差します。ジョニョンと周りの審査員は驚いた表情を浮かべます。ユンボクは、ただホンドの絵を見つめているだけでした。ジョニョンは、硬い表情で「どうしてだ?…」と聞きます。そして「明確に答えねば…図画界の皆様を侮辱することになる…」と言います。ホンドは、薄笑いを浮かべると、審査員を見ながら「もちろん承知しています…」と答えます。一人の審査員が「それなら答えがあるのだな…」と聞きます。ホンドは「その答えは…絵の…右下にいる、この二人にあります…」と言うと、のけぞって見ている二人の観客を手で指します。審査員は真剣な表情でホンドの絵を見つめていました。ホンドは「二人の表情を見て下さい…驚いたように口を開けています…」と言うと、その表情を自分の顔で真似して見せます。ジョニョンは、聞き逃すまいと、真剣にホンドの説明を聞いていました。ユンボクの目が鋭く光り始めます。ホンドは「頭を反らし、体を後ろに引いていますね…これはつまり、この者が相手を持ち上げて…右側に投げ飛ばそうとしているのです…」と言いながら、ジョニョンの方へ投げ飛ばそうとする素振りをします。ジョニョンは、ただホンドを見つめているだけでした。

 その時、戸曹判書が「さすが檀園だな…」と言うと、嬉しそうに笑い始めます。別の審査員も笑いながら「勝敗はもう…決まったようだな…」と言います。戸曹判書は「蕙園は、苦しいようだ…」と言います。ユンボクは、視線を下げて黙っていました。檀園の評を掲示する紙に“通”の印が押されます。チョンヒャンは心配そうに成り行きを見ていました。“通”の数は、檀園8対蕙園7となりました。



 会場の庭では、画事対決の勝負がなかなか決まらないので、結果を待ちわびている人たちは、苛立ちすら感じ始めていました。図画署の生徒達も同じ事でした。

 図画署の生徒の一人が、ジョニョンの使用人を捉まえて「待ってくれ…どうなっている?…」と聞きます。すると、すぐに周りに人だかりが出来ました。使用人は「檀園先生が、一つ上です…」と答えます。それを聞いたヒョウォンの腰巾着の生徒が「ウヒャヒャー…」とかん高い声で笑います。そして「俺が言っただろう…ユンボクは、檀園先生の相手にはならない…」と言って喜びます。すると一番年上の生徒が「ちょっと待て…」と言います。他の生徒も「待ってみろ…」と、興奮して言います。



 会場では、ユンボクの絵の評をしていました。

 ジョニョンは「女人の剣舞は、対決ではなく遊戯ですが…この絵には命を賭けた緊張感があります…」と言います。そしてジョニョンは、ユンボクの方を向いて「蕙園…隠しておいた勝負手は何だ?…」と聞きます。審査員たちはユンボクに注目します。ユンボクは座ったままで「もとより…芸術家の自尊心の対決は…武士の生死を懸けた対決と同じです…」と言うと、ホンドの顔を見つめます。ホンドもユンボクの言葉を受け止めて、ユンボクを見つめます。ユンボクは立ち上がり、自分の絵の前に進みます。そして、ホンドに視線を合わせてから、審査員の方を向きます。

 ユンボクは「この絵の勝敗は…裾の中に隠されています…まず、チマの裾を見ると…この女人はゆっくり歩き…この女人は、急な動きを見せていますね…さて…この羽の方向と…チマの裾の方向です…この赤いチマをはいた女人は…チマの裾の方向が…羽の方向と同じで、左から右側ですが…この青いチマを履いた女人は…飾りの動きと反対に、右から左に動いています…これは、体の中心と頭の中心が…崩れていることを現します…この絵の敗者は、青いチマを履いた女人です…」と言います。戸曹判書が「チマの裾の中に、勝負手を隠した…檀園に劣らぬ技量ではないか…」と、笑いながら言います。それにつられて審査員たちも笑います。戸曹判書は「檀園、お前はどう考える…」と聞きます。ホンドは、細かくうなずきながら「絵の実力に劣らぬ技法と考えます…」と答えます。ジョニョンは、審査員に「“通”を頂けますか?…」と聞きます。ポクウォン君が「“通”だ…」と言います。戸曹判書は「私も“通”だ…」と言います。すると隣にいた礼曹判事も「私も“通”だな…」といます。すると次々に審査員が「“通”だ…」と言います。そして、審査員たちから笑い声が上がります。しかしユンボクの表情は、以前として硬いものでした。これで88の同点となりました。勝負の行方が分からなくなり、ジョニョンは少し焦りを感じていました。チョンヒャンは、ほっとした表情でユンボクの姿を追っていました。



 会場の外では、図画署の生徒がまた、ジョニョンの使用人を捉まえて「どうなってるんだ?…」と、焦るように聞きます。使用人は「今は“通”の数が同じです…」と答えます。それを聞いたヒョウォンの腰巾着の生徒が「勝負が決まらないとどうなる?…」と言います。年長の生徒が、しかめっ面をして「そんなはずない…勝負がつかない争いはない…勝負を付けるべきだ…」と言います。別の生徒も腕を組みながら祈るように「引き分けはないさ…」と言います。



 王様は、執務室で仕事をしていました。そこへホン・グギョンが入って来ます。王様は仕事をしながら「二人の画員の対決はどうなった…」と聞かれます。ホン・グギョンは「はい…まだ決まらないそうです…」と答えます。王様の目の動きが止まります。そして「まだなのか…」と、思いを巡らすように言います。



 王大妃の部屋には、右議政とキム・グィジュが来ていました。

 キム・グィジュは「キム・ホンドは、これが終われば…彼の名声と画員としての命綱が切れます…」と言います。右議政も「そうです…」と言います。そして「大行首の功です…」と言います。ただ一人、王大妃だけが「最後まで分かりません…万一の場合に備えて、案を考えて下さい…」と、不安を隠しませんでした。キム・グィジュは「案を?…」と聞き返します。王大妃は「大行首が、二人を処理出来なければ…私達皆が、災いに遭います…」と答えます。右議政とキム・グィジュは、顔を見合わせます…



 審査会場では、審査員の一人が語気を強めて「このままでは、勝敗が決まらない…」と言います。別の審査員が「数千金を賭けた勝負が決まらないとは…話にならん…そうなれば、集まった人々が黙っていない…」と言います。ポクウォン君は、大きくため息をつきながら「どうするか…」と言って、ジョニョンを見ます。ジョニョンは何か思いついたようで「勝敗を決める方法があります…」と言います。ポクウォン君が、身を乗り出して「何だ?…」と聞きます。ジョニョンは「互いに、相手の絵を評価して勝敗を決めます…」と答えます。ホンドとユンボクは視線を合わせます。そして、ユンボクの表情が険しくなり、視線が定まらなくなって、うつむいてしまいます。チョンヒャンは、そんなユンボクの気持ちが分かるのか、心配そうにユンボクを見つめていました。

 ホンドが、ユンボクの評を始めます。

 ホンドは「蕙園の絵は…朝鮮最高です…欠点もありません…」と言います。ユンボクは、その様子を確りと見つめていました。ユンボクの表情は、暗く沈んでいました。

 今度はユンボクが、ホンドの評を始めます。

 ユンボクは「檀園先生の絵も…」と言うと、檀園の絵の観衆の手の位置を見つめていました。ジョニョンはユンボクの表情の変化に違和感を感じました。ユンボクはホンドを見つめます。ホンドもユンボクを見つめます。ユンボクは困惑していました。その時「絶対に忘れるな…私に勝つ事だけが、唯一の生きる道だ…」という、ホンドの言葉を…そして「師匠に勝つ事だけが…唯一の生きる道?…」と聞き返した自分の言葉を…さらに続けたホンドの「必ず私に勝て…私も…お前に勝つ…」と言った言葉を思い出していました。しかし、ユンボクには、ホンドを陥れることは出来ませんでした。どうすればいいか…短い時間の間に、必死で考えていました。

 ユンボクの異変に気がついたジョニョンは、ホンドの絵を見ていました。そして、ユンボクの視線から察して、観衆の手の欠点を見つけ出しました。

 ユンボクが、答え始めました…「欠点はなく…完璧です…」と…

 するとジョニョンが、語気を強めて「檀園の絵には、致命的な間違いがあります…」と言いました。ユンボクはジョニョンを見つめていました。その表情には、苦悩が満ちていました。

ポクウォン君が「その間違いとは何だ?…」と聞きます。ジョニョンは、ホンドの絵の前に進みより「それは…これです…」と言うと、扇の先で観衆の手の位置を指しました。ジョニョンは「この者の左手と右手を描き間違っています…」と答えます。審査員の中から「アー…」と言う声が上がります。審査員たちは、それぞれが隣あった者同士で話し合っていました。チョンヒャンの眼差しが緊張していました。

礼曹判事が「檀園、自分の失敗を認めるか?…」と聞きます。ホンドはジョニョンを見ていました。ジョニョンもまたホンドを見ていました。戸曹判書が、少し慌てながら「何か言うことがあるはずだ…檀園…お前のような大画員が、こんな重要な画事で…致命的な間違いをするとはどういうことだ?…」と聞きます。ホンドは、落ち着いた表情で「間違いを…認めます…」と言います。ユンボクは、何とも言えない悲しげな表情をしていました。そして、ホンドの“通”が一つ取り消されました。戸曹判書は、大きく溜息をつきます。礼曹判事が「これで勝負は決まりました…どちらの勝ちかお分かりですね…」と言います。審査員たちも礼曹判事の言葉に納得していました。ポクウォン君はホンドに「檀園は、自分の敗北を認めるか?…」と聞きます。檀園はポクウォン君に視線を合わせます。そしてジョニョンの顔を見ます。ジョニョンは勝ち誇った、自信満々の顔をしていました。ユンボクは、横から悲しげにホンドを見つめていました。

しかしホンドは、落ち着いた表情で「勝敗を断定するには…まだ早いようです…」と答えます。ジョニョンの鋭い視線が、ホンドの顔を指していました。審査員の表情が、また一変しました。礼曹判事は「つまらぬ言い訳をするのか…勝負は決まった…檀園は自身の敗北を認めるように…」と、語気を強めて言います。



会場の外では、多くの人々が集まっていました。陽が傾き、結果の発表の時刻は過ぎていました。



ホンドは、黙って歩き始め、ユンボクの前を通り過ぎて行きます。ユンボクの視線は、ホンドの背中を追って行きます。ホンドは立ち止り、審査員の方を振り向きます。ホンドは思いだしていました。戸曹判書の屋敷に、頼みに行った時の事を…

「お願い致します…」と言うと、戸曹判書は「わしに…わずか一割の勝率も保証できん賭けをしろと?…そうなのか…」と、問い質します。ホンドは「それだけが、奴の財物を奪い去る方法だと思います…お願い致します…」と答えます。戸曹判書は「とても無理だな…審査をお前の思いどおりには…させてはくれないぞ…すまんな…」と言います。

ホンドは、窓の障子の戸を向くと、その戸を開けます。空は西日で、朱色に染まっていました。宮中では、王様がホンドと同じ西日を見ながらホン・グギョンに「今夜こそ…事をなすべきときだ…」と言います。ホン・グギョンは「心を決められましたか…」と尋ねます。王様は、静かにうなずかれました。

そして、画事対決の会場には、朱色の日差しが差し込んで来ました。ユンボクは、その日差しを感じ始めました。そして、ホンドの絵にも差し込んで行きます。ホンドの絵が朱色に変わって行きます。それをジョニョンも見ていました。ホンドは振り返り自分の絵を見ます。それにつられて、ユンボクもホンドの絵を見ます。チョンヒャンは、何が起きているのかと心配そうに見ていました。

ホンドの絵の中から、相撲取りが浮かび上がって来ます。審査員たちは、それを唖然とした表情で見つめていました。ポクウォン君が「これは…」と言います。礼曹判事も「これまで見ていた絵と違った…強烈さが生きている…」と、うなずきながら言います。他の審査員も「光だけで、これほど絵が変わるのか…」と言います。ユンボクは、少しだけホットした表情を見せます。そして、ホンドに視線を移します。ホンドは「絵全体に…橙色を使ったのは…土俵の色でもありますが…強い夕焼けの色を浴びれば…その瞬間こそ…争闘を最も争闘らしくする瞬間であり…勝負を最も勝負らしくする瞬間になります…」と言います。

審査員の一人が「用意周到に絵を見る時間まで考えたというのか…」と言います。戸曹判書は、満面の笑みを浮かべながら「それなら…その前の少しの間違いは、問題にならんな…」と言いながら、愛逮(眼鏡)を取ります。そして「さあ…これで…消した“通”をまた書き直さねばならんな…」と言って笑い始めます。その様子を見ていたジョニョンの表情が強張っていました。

ジョニョンが「時間を少しくだされば、蕙園の絵にも確かに…」と言っていると、それを遮るように、ポクウォン君が「もうやめろ…日も沈んだ…これで決める…」と言います。ジョニョンは、視線を下げて黙っていました。チョンヒャンはホットした表情を見せます。ユンボクは、何とも言えない表情でホンドを見ました。ホンドはユンボクに視線を合わせて、小刻みに何度もうなずいていました。



19話 争闘 はここで終わります。





今回は、次回が最終話ということもあって、冒頭からかなりの部分に回想の映像が用いられていました。重要なポイントを視聴者に把握させるためなのかもしれません。ただ日本のドラマの場合は、最終回が近づくと、時間が延長されるのが普通なのですが、今回は逆に78分短縮されていました。こういう所にもお国柄が出るのかなと思いました。



画事対決の朝、ジョニョンは、チョンヒャンの部屋に来ていました。

ジョニョンはチョンヒャンに「今日は、なおさら美しいな…どうだ?……蕙園と檀園のどちらが勝つと思う?…」と言います。チョンヒャンは、挑むような目で「師匠と弟子に争わせる残忍な対決を…遊びと考えるのですか…」と答えます。ジョニョンは「生きることは、一場の遊戯だ…いつか何かを選択すべきで…その選択にすべてを賭ける…それが人生の興だ…賭けてみろ…お前のすべてを…檀園と蕙園のどっちが勝つか…言わずとも…好きな蕙園にすべてを賭けるだろうな…」と言います。チョンヒャンは「旦那様は…異才を増やすことは鬼神より優れていますが…人の心を得る方法は…道の雑草よりご存知ない…心を得る者が天下を得るそうです…」と、開き直ったように無表情で言います。ジョニョンは「人の心は分からずとも…勝敗を誤ったことはない…」と言います。おごりともとれるジョニョンの言葉は、人生に勝ち続けて来た人間の言葉でした。しかし、ここに「マサカ」という落とし穴があったのです。王大妃は、このおごりを心配していたのです。策士策に溺れるとはこのことでした。



ユンボクとホンドは準備室で、同時に同じ筆を選ぼうと手を伸ばしました。ユンボクはホンドの顔を見て、そっと手を元に戻します。ホンドは、その筆を手にすると、筆先の感触を指で確かめていました。そして、その筆をユンボクに「お前が使え…毛が堅いから…細密な筆さばきを求めるお前に必要だ…持って行け…」と言って、ユンボクに渡そうとします。ユンボクは筆を受け取り、じっとホンドの顔を見つめます。そして「まだ私は、よく分かりません…どうして師匠と、この画事対決をするのか…お互いに勝つ事が…どうして生きられる道なのか…」と尋ねます。ホンドは、ユンボクの腕をつかみ、真剣な眼差しでユンボクを見つめながら「ユン…私を信じるか?…信じるなら私に勝て…それが、お前の父の仇を討つ事になる…」と言います。ユンボクは、迷っているのか少し視線を下げて考えます。ホンドは何も言わずに、そんなユンボクの腕を確りと握り締めながら見つめていました。その眼差しは、ユンボクに大丈夫だと訴えかけていました。ホンドは常にユンボクのことを考えていました。ユンボクの繊細な心が動揺しないようにと…そして災いを引きこまないようにと…ホンドは、ユンボクが自分を信じてくれさえすれば、後はどうとでも、自分が辻褄を合せることが出来ると考えていたに違いありません。



ホンドとユンボクは、描いてきた絵を提出すると控室にいました。二人は手を洗う為に袖をまくりあげていました。ホンドが先に手を洗おうとすると、ユンボクはホンドの袖が濡れないように、まくり上げます。その仕草は、弟子の仕草と言うよりは、女人の仕草のようでした。そしてユンボクは、包帯の取れないホンドの手をそっと洗ってやります。二人は時折視線を合わせるのですが黙ったままでした。

 ホンドがユンボクに「うまく描けたか…」と優しく聞きます。ユンボクは、黙ったままうつむいていました。するとホンドが「最善を尽くしたか…」と聞きます。ユンボクは小さな声で「はい」と答えます。そして、ホンドを見つめながら「師匠は?…」と聞きます。ホンドは、自分の手を見ながら「見てのとおり…手がダメだから足で描いた…」と言います。ユンボクの顔に笑みが浮かびました。そして、ホンドの顔にも……ユンボクはホンドの指を優しく洗い続けていました。ユンボクの心は、女人に戻りたいという気持ちが支配し始めていました。そしてホンドを思う気持ちが、師匠から男性へと変わりつつあったように思います。



 画事対決の画題は争闘でした。ホンドは、朝鮮相撲の絵を描いて提出しました。ユンボクは、女人による剣舞の舞を描いていました。ユンボクの絵の中にはチョンヒャンがいました。

 画評が始まると、ユンボクは終始緊張した様子で、時折心配そうにホンドの顔を見ていました。次から次へと審査委員が評を行いますが、結果は一進一退で均衡がとれたものでした。ジョニョンが「そろそろ結果を付けよう…」と言って策を仕掛けるのですが、それでも結果が着きませんでした。時間も次第に過ぎて行き、ジョニョンの顔に焦りが見えて来ました。

 ジョニョンは最後に奥の手を出して来ました。「互いに、相手の絵を評価して勝敗を決めます…」と…ホンドとユンボクは視線を合わせます。そして、ユンボクの表情が険しくなり、視線が定まらなくなって、うつむいてしまいます。チョンヒャンは、そんなユンボクの気持ちが分かるのか、心配そうにユンボクを見つめていました。

 ホンドは「蕙園の絵は…朝鮮最高です…欠点もありません…」と言います。ユンボクは「檀園先生の絵も…」と言うと、檀園の絵の観衆の手の位置を見つめていました。ジョニョンはユンボクの表情の変化に違和感を感じました。ユンボクはホンドを見つめます。ホンドもユンボクを見つめます。ユンボクは困惑していました。その時「絶対に忘れるな…私に勝つ事だけが、唯一の生きる道だ…」という、ホンドの言葉を…そして「師匠に勝つ事だけが…唯一の生きる道?…」と聞き返した自分の言葉を…さらに続けたホンドの「必ず私に勝て…私も…お前に勝つ…」と言った言葉を思い出していました。しかし、ユンボクには、ホンドを陥れることは出来ませんでした。どうすればいいか…短い時間の間に、必死で考えていました。

 ユンボクの異変に気がついたジョニョンは、ホンドの絵を見ていました。そして、ユンボクの視線から察して、観衆の手の欠点を見つけ出しました。

 ユンボクが、答え始めました…「欠点はなく…完璧です…」と…

 するとジョニョンが、語気を強めて「檀園の絵には、致命的な間違いがあります…」と言いました。ユンボクはジョニョンを見つめていました。その表情には、苦悩が満ちていました。

ホンドは、指摘された自分の欠点を認めたのですが、審査員から画事対決の負けを認めろと言われても認めませんでした。そして「勝敗を断定するには…まだ早いようです…」と言うと、窓の障子の戸を開けます。空は西日で、朱色に染まっていました。画事対決の会場には、朱色の日差しが差し込んで来ました。ホンドの絵が朱色に変わって行きます。絵の中から、相撲取りが浮かび上がって来ます。審査員たちは、それを唖然とした表情で見つめていました。ポクウォン君が「これは…」と言います。礼曹判事も「これまで見ていた絵と違った…強烈さが生きている…」と、うなずきながら言います。他の審査員も「光だけで、これほど絵が変わるのか…」と言います。ユンボクは、少しだけホットした表情を見せます。そして、ホンドに視線を移します。ホンドは「絵全体に…橙色を使ったのは…土俵の色でもありますが…強い夕焼けの色を浴びれば…その瞬間こそ…争闘を最も争闘らしくする瞬間であり…勝負を最も勝負らしくする瞬間になります…」と言います。

審査員の一人が「用意周到に絵を見る時間まで考えたというのか…」と言います。戸曹判書は、満面の笑みを浮かべながら「それなら…その前の少しの間違いは、問題にならんな…」と言いながら、愛逮(眼鏡)を取ります。そして「さあ…これで…消した“通”をまた書き直さねばならんな…」と言って笑い始めます。こうして、ユンボクとホンドの画事対決は引き分けとなりました。どうやら、最初から引き分けに持ち込むことが、ホンドの狙いのようでした。ホンドは、ユンボクが実力さえ出し切れば、引き分けに持ち込めると考えていたのだと思います。そうすれば、お互い傷つくことなく画事対決を終えることが出来ると考えたのだと思います。そして、画事対決の賭けが成立しないことになるとジョニョンの立場が危うくなると……この続きは、次回(最終話 美人図)をお楽しみに…