2011年12月30日金曜日

韓流時代劇「風の絵師」第3話掌破刑(後)を見ました



第三話 掌破刑(後)


ユンボクはチャンヒャンの部屋にいました。そこでチャンヒャンの琴の演奏を聞きながら酒を飲んでいました。そして酔いが回って来ると筆を取って眺めていました。絵具を取り出し、紙を準備して絵を描き始めます。曲の旋律に合わせて流れるような線で描いて行きます。ユンボクには明日の無い、今だけの世界でした。ホンドの言う、没我の境地だったのかも知れません。

 ユンボクは、絵を描き終わると、「はあー」とため息をついて、敷いてあった蒲団に横になります。チャンヒャンもまた、満足げな表情をしていました。ユンボクは自分の手を見つめていました。そして一筋の涙が流れ落ちます。しかし、その表情は満足げでした。ユンボクは起き上り、酒の入った徳利をつかんで飲み始めます。

 チャンヒャンは「どうして話したんでしょうか…師匠の事です。」と言います。ユンボクは、酔って虚ろな眼差しで「師匠?…あ~、タンウォン(ホンド)先生の事か…どうしてかな…図画署で問題をお越し、市場で俗画を売るのを見たから…腹を立てるしかない。」と言います。

 チャンヒャンは「それでも会おうと画工を探したのは…もしや…」と言います。ユンボクが「もしや?」と聞き返すと、チャンヒャンは「もしや…守ろうとしたのでは?」と言います。ユンボクは「守ろうとした…」と独り言を言いますが、酔って思考能力が低下していました。

 チャンヒャンは「画工には、師匠が唯一の希望かも知れません」と言います。ユンボクは「希望?…はあ~」とため息をつきます。



 「ダメだ!…いけない!…」ホンドは図画署で、旧友が掌破刑にあっている夢を見てうなされていました。目を覚ますと大きなため息をつき、そばに置いてあった水を飲みます。昔の思い出が蘇って、恐怖にさいなまれているようでした。

 ホンドはインムンと食事をしていました。そこへ、ジョンスクがご馳走を持ってやって来ます。ジョンスクが「どうぞ…」と言ってご馳走を差し出すと、インムンは「お前が来ると料理が変わる」と言います。するとジョンスクが、少しむくれた顔で「お兄様ったら…」と言って、恥ずかしそうに逃げて行きます。インムンは「恥ずかしいのか…」とジョンスクに声を掛けます。ホンドには生気がなく、二人の会話など耳に入らないようでした。

 インムンが「どうだ、王の食前にも劣らないだろう」と言っても、ホンドは上の空で「ああ~そうだな…」と言うのがやっとでした。せっかくのご馳走も食が進みませんでした。インムンは、急に真面目な顔をして「心は決めたか…お前がいてこそ世の中もある…まずは食べてゆっくり考えろ…考えすぎるな…」と言います。ホンドは急に振り返ると「ジョンスク!」とインムンの妹を呼びます。ジョンスクは「はい」と言って、嬉しそうな顔をして現われます。ホンドが「お願いがある」と言うと、ジョンスクは「私に?…」と嬉しそうに答えます。



 ユンボクは、描き殴った絵で散らかったチャンヒャンの部屋で眠っていました。気がつくとすぐに起き上がり、二日酔いで痛くなった頭を抱えて、昨晩のチャンヒャンの言葉を思い出していました。「画工には師匠が唯一の希望かも知れません。」

 ユンボクは、小声で「希望?」と独り言を言います。



 チャンヒャンが、ユンボクの朝食を下女に持たせてやって来ます。「画工…朝食をどうぞ…」しかし返事がありません。チャンスクは部屋の戸をそっと開けます。しかし、ユンボクはいませんでした。部屋は綺麗にかたずけられていました。

 下女が「どうしたのでしょうか…」と言うと、チャンヒャンは「そうね…」と言って部屋に入ります。部屋には、チャンヒャンが琴を奏でている一枚の絵が置かれていました。チャンヒャンは、その絵を見るなり嬉しそうな表情になります。その絵の添え書きには「羽を抜いても鳥は飛ぶのをやめない…弦が切れたとて弾くことをやめようか…目が覚めたとて夢まで消えようか…」と書いてありました。この文章から察するに、ユンボクには多少なりとも希望が残っているようでした。



 ユンボクの父は、図画署の自室で、厳しい眼差しで一点を見つめていました。「…そうすればユンボクの手は助かります。」ホンドの言葉を思い出していました。そして「差備待令画員(チャビテリョンファウォン)の栄光を捨てねばならんか…」と独り言を言います。



 ユンボクは、生徒の制服ではなく、私服で図画署に遣って来ます。宮中では、ホンドが王様に拝謁しようとしていました。内官が「殿下、画師キム・ホンドが参りました。」と言います。王様が「通せ…」と言います。



 王様は、ホンドが持ってきた絵を見ながら「今日だな…」と言います。ホンドは「そうです…祈雨祭(キウジェ)が終われば、掌破刑が行われます。(掌破刑=手を石で打つ刑罰)」と答えます。

 王様は、絵を見ながら「とどめたい瞬間の一つが…心惹かれる時だ…この絵にはその切なさが表れている…誰が描いたのだ…」と聞きます。ホンドは「単なる図画署の生徒に過ぎません。」と答えます。王様は、驚いた様子で「図画署の生徒?」と聞き返します。ホンドは「この生徒は、筆を取れなくなります…刃物で切ったような明瞭な筆遣いと、生きてうごめく線と、切なさまで表現する絵が…見られなくなります。」と答えます。

 王様は「実に惜しいことだな…」と言います。ホンドは「この者の才能があまりに惜しいです。」と答えます。王様は「しかし…王大妃様の心を変えるには遅い…」と言います。ホンドは「遅いかもしれません。しかし…臣はこの生徒を…諦めたくありません。」と答えます。王様は、もう一度ユンボクの描いた絵を見ます。ホンドほどの画師が言う才能を…そして、ホンドを見つめます。



 王様は、宮中内のお堀のそばで、王大妃と通り合わせます。そして一礼をして「今日は何をされますか…私は、七日前に始めた祈雨祭を終わる為に木棉山へ行きます。」と言います。すると王大妃は、「私が七日前に始めた事も終わります。」と答えます。



 図画署では、掌破刑の準備が着々と行われていました。それを見ていた生徒達は、不安に襲われます。

 ユンボクはホンドの部屋で、机を間にして向かい合って座っていました。ホンドはお茶をつぎ「飲め」と言います。ユンボクは一礼して飲もうとするのですが、なかなか飲めません。手が少し震えているようにも見えました。二人の顔は深刻そのものでした。

 ホンドがおもむろに「戻るとは思わなかった…」と言います。ユンボクは、どう答えようかとしばらく考えて「私が描いた絵なので、私が責任を負います。」と答えます。

 ホンドは、慎重に言葉を選びながら「すぐに掌破刑が始まる…」と言います。ユンボクは、何とも言えない表情で「私はどうすればいいでしょう…」とホンドに聞きます。部屋の外では、兄のヨンボクが、目に涙を浮かべながら立ち聞きをしていました。どうしたらユンボクを救えるのか、ヨンボクの心はゆれていました。

 ホンドは「しかし…」と言いますが、その後は何も発せずに、沈黙が続きます。



大商人のキム・ジョニョンは、護衛の女侍を連れて、商店街を歩いていました。そして「檀園(ホンドのこと)なら黙っていないだろう…自分の手でも、弟子の手でもそのまま出すはずがない。必ず何か方法を探すだろう…面白くないか…ついに二人の天才が出会った…」と言います。女侍は「まるで2人と知り合いのようですね」と言います。キム・ジョニョンは「そうだな…そうしておくか…」と言って笑います。



イ・インムンの妹ジョンスクは、市街地の酒場の前に立っていました。誰にも知られないようにかぶり物をまとって…そして、ホンドから頼まれたことを思い出していました。「巳時(サシ)から午時(オシ)に生徒服の者が酒屋に来る…そのものに伝えてくれ…」

そこへユンボクがやって来ます。ジョンスクは、ユンボクを見つけると「あの…檀園先生のようですか…」と聞きます。ユンボクは「そうですが」と答えると、ジョンスクは、かぶり物をとり「よく来られました。この手紙を持って、広通橋(クァントンギョ)のコン氏に…」と言います。ユンボクは「それだけですか…」と聞きます。ジョンスクは「はい…行ってください、お兄様が急げと…」と答えます。ユンボクは「お兄様?…」と聞き返します。するとジョンスクは「はい…檀園お兄様が…」と答えます。ユンボクは、「あっあー、ご家族ですか」と聞きます。ジョンスクは「家族?…」と言うと、何を勘違いしたのか、恥ずかしそうに「いえ、まだ違いますが…とにかく急げとのことでした。お行きください。」と恥ずかしそうに言います。ユンボクは「はい、行きます…」と言うと、その場から立ち去ります。



ユンボクが、広通橋に行くと、男が馬を用意して待っていました。

男は「さあ出発だ…乗って…」と言うと、ユンボクが馬に乗るのを手伝います。ユンボクが驚いて「あの?」と聞くと、男は「平壌に行って、クァク氏に会え…分かったか!」と言います。ユンボクは、わけが分からずに「平壌のクァク氏?…」と聞きますが、男は「しっかり握れ…この馬は、走り始めたら止まらない…」と言うと、馬の尻を手で叩きます。ユンボクは慌てて「待ってくれ…」と言いますが、馬は勝手に走って行きます。



ホンドは、図画署別提のチャン・ビョスクの部屋で「分かったか…」と聞かれます。ホンドは、緊張した表情で「はい」と答えます。チャン・ビョスクは、満足そうに「見つけねばな…いずれにしても誰かの手が切られる…そうだろう」と言うと、煙管にたばこを丁寧に詰めていました。その様子を見て、癇に障ったのかホンドは、鋭い目つきで「楽しそうですね」と言います。チャン・ビョスクは「もちろん…面白いとも…」と言います。

ホンドは、少し語気を強めて「誰かとは?…」と聞きます。するとチャン・ビョスクは、笑いながら「お前も苦しんでいるだろうな…誰かの手でなければ、お前の手を切られる」と言います。ホンドは、皮肉のように「心配してまで頂き、感涙の極みです。」と答えます。



その時王様は、最後の雨乞いの神事をしていました。ユンボクは、馬でひたすら平壌へ向かっていました。

ユンボクは馬で走りながら、ホンドの言葉を思い出していました。

「掌破刑の道具が出れば、必ず使われる…」

ユンボクは、チョンヒャンの言葉も思い出します。「守ろうとしたのでは?…画工には、師匠が唯一の希望かも知れません…」するとユンボクは、馬の手綱を引いて向きを変え、引き返して行きます。その時、図画署では兄ヨンボクが筆を持って、何か考え事をしていました。その表情は、思いつめたものがありました。

図画署では、掌破刑の準備が出来て、画員や生徒達が刑場に集まっていました。インムンは生徒達に「静かにして立っていろ」と言います。

一人の生徒がヨンボクに近づき「ユンボクはまた便所か…」と小声で聞きます。ヨンボクは「すぐに来るさ」と答えます。すると生徒長が「昨日は帰ってないんだろう、まだケウォル屋だな…」と言います。ヨンボクは「ケウォル屋?」と聞きます。すると別の生徒が「女みたいな奴が、女色に溺れた」と言います。ヨンボクはユンボクの事を思い、心配そうな表情をして黙って何か考えていました。



王様は、雨乞いの神事を無事に終わらせていました。

「これで、人の成すべきことはした」と言います。



王大妃は、身支度を整えて「行こう」と言うと、刑場へ向かいます。



王様は、休憩所でユンボクの絵を見ていました。そこへ役人が遣って来て、「清国の大臣が、お待ちになっています。」と言います。王様は、「王大妃様の件はどうなった」と聞きます。役人は「掌破刑が始まるようです」と答えます。王様は、静かに「そうか」と答えます。王様は、ユンボクの絵を見ながら、思いつめたように何かを考えていました。

王様は、ホンドの言葉を思い出していました。「臣は、この生徒を諦めたくありません…」そして、吐き出すように「諦めたくない…」と独り言を言います。役人は「殿下、遅れます。お急ぎを…」と言います。王様は、ユンボクの絵を見ながら「待て」と言います。しばらくの間、絵を見つめた後に、一つの事に気が付いたようです。それは、ユンボクの絵に描かれた女人の首筋に、ほくろがあることでした。王様には、思い当たる女人がいました。



図画署の刑場では、役人が壇上に立ち、画員や生徒の前で命令書をお見上げます。「丁酉(チョンユ)年、日照りが2カ月続き祈雨祭を執り行った。しかし、自重すべき祈雨祭期間に、王室の画事を預かる図画署で、春画が発見された。これは、祈雨不慎処罰により、断罪するのは当然だ。その為、図画署画員キム・ホンドが、春画を描いた犯人を捜し、その者を明らかにした。天に民の意思を伝え、雨が降ることを望む」そこには、王大妃も列席していました。

役人が「キム・ホンド前へ」と言うと、ホンドは一礼して前に出ます。役人は「画員、キム・ホンド…その生徒が分かったか…」と聞きますが、ホンドは黙っているだけでした。役人は、もう一度「その生徒は誰だ?」と聞きますが、ホンドは黙って考えていました。



その時、ユンボクは必至で馬を走らせていました。



答えないホンドに対して、役人は重ねて「誰だ?」と聞きます。ホンドは、後ろを振り返り、ヨンボクの顔を見ます。そして、意を決したように「犯人は…分かりませんでした…」と言います。ホンドは「殿下を始め、画員たちに、責任ある画員としての範を示せず、幾重にもお詫びします。どのような罰も甘んじて受けます。」と言います。

役人は「その言葉の意味を分かっているな…その生徒の代わりに、お前の手が切られるのだぞ…」と言います。するとホンドは「礼曹判書(イエジョパンソ)様…まだ、画員でもない…幼い生徒です。もしもこの絵が、図画署生徒の過ちなら…それは、正しく導けなかった図画署の過ちです。先輩画員の一人として、その罰は甘んじて私が受けます。罰して下さい。」と言うと、膝まづき、土下座をして礼をします。

役人は「見つけられなかったと言うのか…」と怒りを込めて言います。そして「皆、聞け…画員、キム・ホンドは、図画署の風紀を乱し、絵を描いたものを明らかにできなかった。約束通りに、その罪を代わりに問う。画員、キム・ホンドを掌破刑に処せ…」と命令します。その場に居合わせた、ユンボクの父シン・ハンビョンの顔が悲痛なものに変わります。

下役人たちがホンドのところへ行き、土下座をしていたホンドを抱えて掌破刑台に連れて行き、座らせて手を固定します。生徒達の顔は恐怖による悲痛な顔になっていました。

役人が「始めよ」と命令します。そこへユンボクが「やめてください…」と言いながら門を開け、入って来ます。しかし、無情にも下役人の振るった斧が、ロープを叩きます。

ユンボクは「師匠!…」と叫びます。しかし、掌破刑の巨石がするすると落ちて来ます。誰もが目をつぶったのですが…掌破刑の巨石は、寸でのところで止まります。ロープが完全に切れておらず、首の皮一枚で繋がっていました。

ユンボクは「師匠!」と叫びながら、掌破刑台に走り寄り、ホンドにすがりつきます。そして、ロープをほどきながら「師匠!…何ということを…師匠、師匠…いけません…解いて下さい…解いて下さい…」と叫びます。そこへ下役人が遣って来て、ユンボクを抱きかかえ、ホンドから放そうとします。ユンボクは「放してください…放せ!」と叫びながら抵抗しますが、ひ弱なユンボクの力ではどうしようも有りませんでした。

それを見ていた役人が「何のまねだ…王大妃様の命令を妨害するとは…」と大声で言います。ユンボクが「申し上げます…」と言うと、役人が下役人に、放せと目で合図します。下役人は、ユンボクから離れて行きます。そして、ホンドとヨンボクの顔色がさっと変わります。

ユンボクが、決死の想いで「あの絵を描いたのは…」とここまで言うと、突然ヨンボクが立ちあがり「私です!」と叫び出します。そして、前に出て来てユンボクの横に座り「私があの絵を描きました…」と叫びます。ユンボクは「違います…私が描きました…」と叫びます。すると間髪いれずにヨンボクが「いいえ、私です。兄をかばおうと弟は偽っています。」と叫びます。ユンボクは「何を言う…私が描きました。」と言います。ヨンボクはまた「確かに私です」と言います。この繰り返しが続きます。それを見ている父ハンビョンは、頭を抱えます。それを見ていた役人は「何のまねだ…」と大声で言います。

役人は「キム・ホンド…言え…二人のうち、どちらが掌破刑だ?」と聞きます。しかしホンドは、黙って何も言いません。役人は、さらに「言え…早く言え…」と言いますが、ホンドはしばらく考えて「分かりません…」と答えました。すると役人は「掌破刑を続けろ…」と下役人に命じます。下役人が掌破刑台の巨石をロープで引き揚げ始めると、それを見ていたヨンボクとユンボクは同時に「私です」と言います。ユンボクが「いけません…私です」と言うと、ヨンボクが「弟を助けて下さい…私です」と言います。ユンボクが「師匠には何の罪も有りません…」と言うと、ヨンボクが「私を殺して下さい」と言います。それを見ていたホンドの目からは、涙が流れていました。

そこへ、来るはずのない王様が遣って来ます。全員が慌ててひれ伏します。王様は輿から降りると回りを見渡します。そして、掌破刑台に繋がれているホンドを見て驚きます。次の瞬間に、王大妃の居るはずの場所に目を遣りますが、そこにはすでに、王大妃の姿はありませんでした。



王様と王大妃は、王大妃の部屋で話をしていました。王大妃は「これは私の仕事です…主上には関係ありません」と言います。王様は「どうしても血が必要ですか」と聞きます。王大妃は「もう始めた事です…始めたからには、当然結末が必要です」と答えます。王様は振り向いて王大妃の隣に座り「お大妃様…」と言うと、しばし沈黙が続きます。図画署の掌破刑の刑場では、全員がそのままの状態で、王様と王大妃の話し合いの結果を待っていました。

ホンドがユンボクに「なぜ言ったとおりにしなかった…」と言います。ユンボクは「どうして師匠が罪をかぶるのですか…私の問題です。」と言います。するとヨンボクが「ユンボク…」と言います。ヨンボクは「兄上もどうしてだ…誰が頼んだ…」と言います。するとヨンボクが「お前は黙っていろ…あれは私が描いた…」と言います。ユンボクは「手首が無くなるのに、黙っていろと?そして、アホのように絵を描き続けろと?やめてくれ…逃げても駄目だと分かった…それで帰って来た……師匠…兄上…ごめんなさい…」と言います。

ホンドは「2人とも聞け…今から何を聞かれても…絶対にその絵を描いたと言ってはならん…私が始末する…分かったか…」と言います。ホンドの目からは、涙が流れていました。

そこへ、インムンがやって来て「檀園…別提様がお呼びだ…」と言います。するとホンドの手が、掌破刑台から放されます。

インムンはホンドを抱きかかえると「どういうことだ…これば望みか?…」と聞きます。ホンドは「すまない…何も聞かないでくれ…行こう…」と言います。



別提の部屋には、礼曹判書と別提と元老画員達が同席していました。

礼曹判書が「キム・ホンド…犯人は二人のどちらかだな…言ってみろ…どちらだ?……二人とも掌破刑に遭うのを見たいか…最後に聞く…どちらだ…」と聞きます。

ホンドは「礼曹判書様…私の手だけでは不足ですか…」と言うと、礼曹判書は怒って机を叩きます。そして「黙れ!」と大声を上げます。礼曹判書は「分かった…三人とも掌破刑に処する…紙を持て…」と怒鳴ります。すると、今まで恐れながらも成り行きを見ていた二人の父シン・ハンビョンが「礼曹判書様…」と言うと、椅子から降りて土下座をして「私の不徳の致すところです。死ぬべき罪を…未熟な私の子供たちが…愚かな罪を犯しました…何とぞ寛大な処置を…」と泣きながら赦しを願います。

すると別提が「馬鹿げた事を…立て…」と怒り出します。すると礼曹判書様は別提の方を向いて「静かにしろ…」と言います。そしてハンビョンの方に向き直り「イルチェ…お前が言え…二人とも殺すか、一人でも助かるか…」と言います。ハンビョンは「礼曹判書様…どうして私が息子たちを……お願いです…」と言います

 

 刑場では、ヨンボクとユンボクが並んで両手をついて土下座をしたままでした。二人の目にはそれぞれ涙が流れていました。ヨンボクは、弟のユンボクの手をそっと握ります。ヨンボクには、ユンボクに対して特別な感情があるようでした。



 別提の部屋では、以前尋問が続いていました。礼曹判書はハンビョンに向かって「それは事実か…」と言います。ホンドは驚いた様子で、じっと黙っています。礼曹判書は「では主上殿下にそう告げよう…」と言うと、別提の方を向きます。別提は「紙をもって…」と言います。ハンビョンの顔は悲痛さが増していました。



 王様の元へ別提から書状が届けられます。王様は「王大妃様…始めた事の始末をつけて下さい…」と言うと、その書状を王大妃に渡します。王大妃は書状を読むと王様の目を見つめます。



 刑場には、別提や元老画員達が出て来ます。ホンドも兄弟の隣に座ります。

 「皆、注目せよ…」という声が響き渡ります。

 礼曹判書が「判決を下す…丁酉年…日照りが続き、主上が祈雨祭を何度か行ったが、天の恵みがなく、祈雨祭に春画を描いた図画署にその罪を問うた…キム・ホンドが犯人を捜し、告発するのを待ち…今日に至った…判決…春画を描いた犯人に対する掌破刑は…執行しない…また…キム・ホンドに対する掌破刑も執行しない…これは至厳たる王大妃様と主上殿下のご意思だ…」と言うと、全員が「ありがたき幸せに存じます」と言って、土下座して、礼をします。ユンボクも泣きながら「ありがとうございます」と言います。



 王様は、ユンボクが描いた絵を取り出して「王大妃様…私ははっきり覚えています。前王が初めてお会いした時…何と言われたか…嬪(ピン)耳は実に立派だ…特に耳の下の赤いホクロは縁起が良いから…国運が開ける徴候ではないか…」とほほ笑みながら言います。

 王様は立ち上がり、外を見ると雨が降っていました。「王大妃様…見て下さい…天も画工の手を惜しみました…」と言います。



 刑場では、雨が降って来て、全員が天を見上げます。

 「しかし、慎むべき祈雨祭に、春画を描いた罪は軽いものではない…春画を描いた生徒に処罰を下す…罪人、シン・ヨンボクは前へ…」

 するとヨンボクは前に進み出ます。ユンボクは驚いた表情でヨンボクを見つめます。

 「罪人、シン・ヨンボク…図画署生徒の資格を剥奪…丹青所(タンチョンソ)へ追放し、一生罪を償わせる…」

 判決が言い終わると、ヨンボクは一礼をします。そしてユンボクは「兄上!」と叫びます。



 図画署の門の前に、父ハンビョンとヨンボク、ユンボク兄弟の三人がいました。ヨンボクは私服に着替え、旅立とうとしていました。ヨンボクは、持っていた包みをヨンボクに渡そうとします。

 「筆は毎日よく洗い、陰で干すと長く使える…面倒でもな…余計な話だった…」というとユンボクの手に、包みを握らせます。ユンボクは、何とも言えない沈痛な表情をして、ヨンボクとろくに目を合わせる事も出来ません。

 ヨンボクは「行くよ…」と言います。そしてハンビョンに「父上…行きます。」と言います。ハンビョンは、うなずくのですが、ヨンボクと目を合わせることが出来ませんでした。ヨンボクが行こうとするとユンボクは、ヨンボクの手を取って「ダメだ…今から別提様を訪ねよう…」と言います。するとヨンボクは「私の選択だ…」と言います。ユンボクは必至で「なぜ兄上が、卑しい丹青屋になど?」と言います。ヨンボクは、落ち着いて静かに「お前の為でも、私の為でもない…」と言います。ユンボクは「それでは何の為だ…兄上は何時も犠牲になる…」と、涙を流しながら言います。ユンボクは振り向いてハンビョンに「何か言って下さい…父上…」と訴えますが、ハンビョンは、「うーん」とため息をつくと、ユンボクから目をそらして、何も言いませんでした。

ヨンボクは「そうではない…お前には才能がある…私などには想像もできない、天が与えた才能だ…」と言います。ユンボクは「兄上…丹青屋に行ったら図画署に戻れない…」と言います。ヨンボクは「だから私の為にも…私の為にも…最高の画員になってくれ…」と言って、ユンボクを振り切り、旅立ちます。ユンボクにもヨンボクにも目から溢れるほどの涙がこぼれていました。ユンボクが「兄上…兄上…」と言って追おうとすると、ハンビョンはユンボクの手を握りとめます。

ユンボクは「放してください…」と言いますが、ハンビョンはユンボクの目を見て真剣に「お前が招いたことだ…あんな絵を描いて、図画署を騒がせた…」と言います。するとユンボクは、ハンビョンに食ってかかるように「だから私が行くというのです…」と言います。ハンビョンは聞き訳のないユンボクの顔を平手で殴ります。そして「目を覚まさんか…お前が…御真画師を経て…差備待令画員に成る道だけが…兄の気持ちを酌む道だ…分かったか…」と言います。ユンボクは「できません…いやです…」と言って、感情を爆発させ、包みを捨てて走って行きます。ユンボクの走って行く後ろ姿を見つめているハンビョンの目には苦悩がありました。



ホンドは、酒場で一人酒を飲みながらヨンボクの事を思いだしていました。

ヨンボクが「お願いします…お願いします。師匠…お願いします。師匠…」と何度も繰り返すヨンボクの姿を…

ホンドが「弟の為に、手を差し出すのか…」と言うと、土下座をして「弟を助けて下さい…師匠…お願いします…私の手を…私の手を…私の手はいりません…私の手はいりません…」と何度も叫び続けたヨンボクの姿を…

そこへユンボクがやって来て、ホンドの手から酒の徳利を取り上げます。そして「あの絵を描いたのは私です…」と言います。ホンドは、徳利を取り返し、盃に酒を注ぎながら「分かっている…」と言います。ユンボクは「なぜ黙っていたのですか…」と言います。そして土下座すると「師匠…図画署で真実を言ってください…」と言います。ホンドは「お前の兄は、お前のせいで丹青所に追われた…お前の為だ…」と言います。ユンボクは「理解できません…たかが絵なのに…手首を失い、丹青所に追われるなど…どうしてですか…」と言います。ホンドは酒を飲みながら、冷静さを装い「図画署だからだ…」と言います。ユンボクは、ホンドの手をつかみ「どうか兄を助けて下さい…私がした事です。私が行きます…」と訴えます。ホンドは、少しむきになってユンボクの手をつかみ「この手が見えるか!自らの手を差し出すと言った…もしお前が兄を少しでも思うなら絵を描け!瞬時も惜しめ…」と言います。ユンボクは、泣きながら走ってその場を立ち去ります。

ユンボクは、街中を走りながらヨンボクの言葉を思い出していました。

「お前は才能がある…私には想像もできない、天が与えた才能だ…」

そして、ホンドの言葉が頭の中をこだまします。「瞬時も惜しんで絵を描け…兄の犠牲を無駄にするのか…」

ユンボクは、街中を通り過ぎて、小石を積み重ねた石塔のある小高い山に来ていました。そして、積み上げた石塔をくずし、石を投げて、自分の感情を爆発させていました。

「たかが絵じゃないか…兄上なんて…分からない…どうしてだ…絵が何だ…要らない…もう何も要らない…ワー…消えてしまえ…ウワァー…」と…涙が止まりませんでした。

その時、ユンボクはふと思いつきます。この石で自分の手を砕こうと…



ハンビョンは、図画署の自室で考えていました「あの子は助かった…あの子の手は…これでいい…これでいいんだ…」と…自信に納得させるようでもありました。



酒場では、ホンドが酔って暴れていました。それをインムンがなだめていました。

「どうしたんだ…」するとホンドが「おっと…手は?…まだあるな…一人の手は助けたぞ…」と言います。

 インムンは、ホンドを後ろから抱きかかえて「昼間から…」と言って連れ帰ります



 ユンボクは、自分の手を石の上に置いてじっと見ていました。石で叩こうとしてもなかなか決断できませんでした。目には涙があふれ…その姿は異様な殺気が漂っていました。そして、「ワーッ」と言う掛け声と共に自信の手を自身で叩き砕きました。その瞬間、女人のような悲鳴が響き渡りました。



夜の街をチョンヒャンが下女と歩いていると、誰か人が道端に座っていました。下女が気づくと、チョンヒャンが確かめます。するとそれはヨンボクのようでした。

チョンヒャンは「画工?…」と言って近づいていくと、ユンボクは気付いて振り向こうとするのですが、そのまま倒れます。チョンヒャンは驚いて、ユンボクを抱きかかえようとします。その時、ユンボクの手の怪我に気が付きます。「どうして…画工…画工…」と呼び続けます。ユンボクは、虚ろな瞳で「相変わらず…美しいな…」とやっとの思いで言いますが、すぐに意識を失います。チョンヒャンは、「画工…画工…」と呼び続けます。チョンヒャンは下女に「医員を呼びなさい…急いで…」と言います。下女は医員を呼びに行きます。



チョンヒャンは妓生房で、ユンボクの手当てをしていました。ユンボクはうわごとを言っていました。「私です…行かないでくれ兄上…私が…違うんです…」そこえ下女が帰って来ます。

「医員は?…」

「妓房には行けないと…」

「薬やには行ったか…」

「はい…行ったのですが…」

チョンヒャンは、自分の手だけでユンボクを懸命に看病します。

ユンボクは、うわごとで「兄上…」と呼び続けながら、懸命に手を上に上げようとします。その手をチョンヒャンは両手で握ります。



あくる日チョンヒャンは、下女を伴い図画署に向かいます。図画署では、生徒や画員から好奇の目で見られます。



ユンボクは、気がつくと起き上り、痛む自分の手をじっと見ていました。そして、そばにあった筆たてから筆をとろうとするのですがやめます。目には今にもこぼれんばかりの涙が溜まっていました。そして、痛む手で机の上の画材を全て払い落とします。その勢いのまま、後ろに敷いたままの蒲団に頭を埋め、声を上げて泣き続けます。



妓生房では、キム・グィジュ(貞純王后の兄)達が集まっていました。

キム・グィジュは「とにかく、図画署の件は終わったし…後は目障りな檀園の処理だけだ…」と言います。すると別提が「もう図画署に置く理由もないので、穏便に処理するつもりです…」と言います。王大妃の叔父のチョン・ヨンスン右議政が「始末はしっかりしろ…もし…あの事件を蒸し返せば面倒になる…分かったな…」と、みんなに言います。

別提は「数日中に追われるものに…何が出来ますか…あっははは…心配ありません…」と言うと、みんなで笑います。



ホンドは図画署の資料室で、何かの本を読んでいました。

「丙戌(ピョンスル)年524日…画員ソ・ジンが怪漢により被殺…義禁府(ウィグム)はソ・ジンの無愛想な性格と攻撃的な性格から推測し…怨恨による殺人を疑っている…ソ・ジンは主に人物を描き…儀軌班次図や宮廷記録画など重要な絵には参加せず…図画署に寄与していない…親しいキム・ホンドたちが…祭礼を主管する…(儀軌班次図=ウィグェパンチャド=文武百官が参加する行事を描いた絵)」

本を読み終わるとホンドは、本を閉じで不審な顔つきになります。そして、「ソ・ジン…待ってくれ…必ず明らかにする…」と、心の中で思います。



生徒達は、ホンドの部屋で待っているチョンヒャン達を窓の外から盗み見をしながら口々に「綺麗だな…」「絶世の美人だ」「どうしてだ…最後まで行ったな…」などと言っていました。丁度そこへホンドがやって来て、生徒達の目線と一緒になって「何が?…」と聞きます。すると、ホンドの隣の生徒が「チョンヒャンと檀園が…」と言いながら隣を向くと、そこにホンドがいたのでビックリして立ち上がります。そして「いらっしゃった…」と言うと、生徒達は一斉に神妙な顔つきになります。

ホンドは、部屋の中の妓生(チョンヒャン)をじっと見つめているのですが、誰だか分からずに、生徒に「誰だ?…」と聞きますが、生徒は誰も答えませんでした。

ホンドは、部屋の中のチョンヒャンに「これは不思議だ…漢陽の妓生は、呼ばずとも来るのか…確かに不思議だ…」と言いながら部屋の中へ入ります。そして生徒達に「出て行け…」と命じます。

チョンヒャンは、ホンドに深く一礼をすると「檀園先生…助けて下さい…若い画工が絵を捨てました…」と言います。ホンドは「絵を捨てるだと?…」と聞きます。するとチョンヒャンは「自分の手を石で打ったんです…」と答えます。ホンドは「何?…」と言います。



ホンドは、二人と一緒に急いで妓房へ行きます。そしてユンボクが寝ている部屋に入ります。そして、上布団を引きはがし、ユンボクがけがをしている手を握り、じっと見つめていました。ユンボクは気がつくのですが、そのままの姿勢でじっとしています。

ホンドはユンボクの手を見ながら「完全につぶしたな…」と言って、ユンボクの手を投げ捨てます。ユンボクはじっとしていました。そして「なぜ来たんですか…」と言います。ホンドは「大したもんだ…このバカ者…分からん奴だ…」と言います。ユンボクは「もう図画署も何も要りません…お帰り下さい…」と言います。ホンドは「すぐ起きれ…まず手を治す…起きろ…」と言うと、ユンボクを起こそうとします。ユンボクは蒲団の上に起きて「なぜですか…帰ってくれと言いました…構わないで…」と興奮して大声を上げます。ホンドは「うるさいな…立て…」と言うと、「放せ…放せ…」と言って抵抗するユンボクともみ合いになります。

そこへチョンヒャンが近づきホンドに「昨晩遅くに来られました…医員は妓房には行かないと…」説明します。ホンドはユンボクに「立て…起きろ…」と言うと、無理やり抱きかかえ、妓房から連れ出します。



ホンドは、都に来て以来世話になっているインムンの家に行く途中、渓谷に立ち寄ります。

ホンドは、ユンボクを担いで歩きながら「だらしない奴だ…融通の利かない奴だ…谷の下に腕のいい医員がいる…」と言います。ユンボクは「こんな手をどうせ治しても絵は描けない…」と言います。ホンドは「また勝手なことを…才能には感謝すべきだ…うるさいから黙れ…重い…」と言います。ユンボクは「何に感謝するんですか…図画署では春画と言われ…師匠は手が切られそうになり…たった一人の兄は丹青所行きです…一体、何に感謝するんですか…」と言います。ホンドはユンボクの尻を叩いて「ここで尻を叩かれたいのか…お前の手の為に…お前の兄は、丹青所で朽ち果てる…それでもか…」と言います。ユンボクは「手を無くす方が、気が楽です…降ろしてください…」と言いながら、ホンドに抵抗します。ホンドは「そうか…分かった…」と言うと、川に近づき、ユンボクを投げ入れます…

ユンボクは、どうも泳げないようで、手足をばたつかせます。ホンドはそれに気が付かず、ユンボクを見ながら「分かったか…気持ちいいか…」と言います。ユンボクは段々と溺れて行きます。ホンドはそれを見ながら「馬鹿な奴だ…この間抜けが…」と言いながら近くの石に腰かけます。そして「皆、切ってしまえ…手も切り、足も切れ…お前の兄が可哀そうだ…冠まで懐しおって…いい滝だな…」と言います。そして、ホンドがふとユンボクを見ると、ユンボクが消えていました。ホンドは驚き「おい…」と言います。

ユンボクは、溺れて行く自分を感じながら、けがをした手を見ていました。そして、これで終わりだ…これでいいのだと思っているようでもありました。ユンボクの体が、川底に沈んで行きます…

3話は、ここで終わりです。



それにしても父シン・ハンビョンは、礼曹判書や別提・元老画員の前で、最後に何と言ったのでしょうか…たぶん結果から考えてみると、「犯人はヨンボクです…」と、言ったと思われます。実の我が子を犯人にして、養子と思われるユンボクを助ける理由とは、何なのでしょうか…よほどの理由が隠されているのではないでしょうか…

また、自分が陰日なたになって面倒を見て来たユンボクの身代わりになるヨンボクの気持ちは、いかなる気持だったのでしょうか…ただ、弟の為というだけでなく、それ以上の気持ちがあるような気がします。ヨンボクは、ユンボクを男として見ようと努めていましたが、心の底では女人として見ていたのではないでしょうか…生意気盛りで才能豊かなユンボクが、愛おしくてたまらなかったのではないでしょうか…

ホンドも、まだ幼さの取れないユンボクの才能を認めて、懸命に助けようとするのですが、この父子・兄弟には不思議な臭いがすることに、気がつき始めたようです。それから、王様と王大妃の関係も何か複雑な臭いがします。まだまだ、沢山の秘密が隠されているようです。これからが面白くなりそうです。

2011年12月28日水曜日

韓流時代劇「風の絵師」第2話掌破刑(前)を見ました


第二話 掌破刑(前)



 ホンドは、片手でユンボクを抱え、片手で落ちて来る屏風を受け止めます。そしてユンボクを地面に放り出します。ホンドは自分の正体がユンボクにばれると、急に厳しくなります。ユンボクも済まなそうに、ホンドに頭を下げます。ホンドはユンボクに屏風を教室まで持って行くように命令します。

 教室では、兄のヨンボクが「便所が長いな…」とユンボクの事を心配していました。別の生徒は、「すっきりしたら帰って来るさ…」とホンボクの気持ちもわからずに言います。他の生徒たちは、教室で騒いでいました。そこへホンドが遣って来ます。ホンドは、しばらくの間生徒達を見まわし、歩きながら様子を見ます。ホンボクは、ユンボクが帰って来ないので、はらはらしていました。そこへユンボクが屏風を抱えて教室へ入って来ます。それを見たヨンボクはほっとします。

 ホンドは「今日の授業は、屏風の模写をする…」と言います。すると生徒長が「模写の授業は済みました。」と言います。ホンドは屏風をさかさまにして「では、これを模写しろ…」と言います。その授業の奇抜さに、生徒達は唖然とします。

 ホンドは「頭の中に描く造形がある…絵を描くというと頭で考えて描くと思いがちだ…しかし、逆に置いてみると新鮮に見えないか…こうすれば、頭で考えるのではなく、実物がありのままに見えてくる…見慣れたものを新たに見直すのが、絵を描く者が持つべき基本的な資質と言える…」と言います。

 この時、王宮では、王と王大妃が将棋をしながら腹の探り合いをしていました。



別堤のチャン・ピョクスは部下を呼び付けて、ホンドの様子を聞きます。
 「ホンドは、何をしている…」
 「それが…」
 「何をさせた?」
 「絵の模写です…」
 「模写だと?」
 「はい」
 「模写とは…」
 「それも逆様にです」
 「逆に?」
 「はい」
 「逆様に…」
 「捜査しろと言うのに、逆様の絵とは…」

 図画署では、生徒達が逆様にした屏風の模写を懸命に描いていました。
 ホンドは、絵を描いている生徒達に「絵とは何だ?」と問いかけます。生徒達は、一斉に教科書を開いて調べようとしますが…ホンドは「本にはない…思うことを話してみろ…絵を描くとは何だ?」と言います。そして一人一人に聞き始めます。
 「お前」
 「はい、描くということは…目に見えるものを紙の上に移すことで…」
 「はっきりせんな…」ホンドは次に、ホンボクに聞きます。
 「絵を描くということは、つまり…」ホンボクが詰まると、次々に聞いて行きます。
 「お前は…」
 「絵を描くということは、筆を利用して…」
 「匙で絵を描くやつはいない…」
 生徒長は「時間が経てば消えてしまう…天地のすべてを記録する事です…」と答えます。すると、生徒の間から「おう…」という相槌が聞こえます。そして「主上殿下の目が、すべてに及ぶことを意味し、画員の絵は、時間と空間を超える…王室の権威を現します。」と答えます。
 ホンドは、斜め上を見ながら、まあ、生徒の答えとしてはこんなものかと思いつつ、ゆっくりと拍手を始めます。すると、他の生徒達も拍手をします。
 ホンドが「名前は?」と聞くと、すかさず「申し上げたように生徒長で、チャン・ビョクス別提を…父に持つヒョウォンです。」と答えます。
 ホンドは「お前…」と言うと、生徒長は「はい、ホンド先生…」と答えます。
 ホンドは「言葉が多い…口は立派な画員だな…」と言います。生徒長は、少しむくれた様子で座ります。ホンドは「他に答えられるものは?…」と問いかけながら、生徒の周りを歩きます。そして「絵を描く者が、なぜ絵を描くのか考えていないのか…何の為に図画署で座っている…それでも絵描きか?…」と生徒達を叱りつけます。
 その時、ユンボクの父で元老画員のシン・ハンピョンは、別の画室でホンドの授業の成り行きを心配していました。そしてそばにいた画員に「インムン、もしかしてホンドの授業の内容を知っているか?」と聞きます。イ・インムンは、ホンドの友人でした。
 インムンは「任せてくれと言われました…」と答えます。
 「任せろと?…」

 教室では、以前としてホンドの質問が続いていました。しかし、ユンボクだけは、一人素知らぬふりで絵を描いていました。ホンドはそれに気づいて…
 「一人だけ絵を描いている奴…そこの半人前…」と言います。隣の生徒が、気付かないユンボクに合図を送ります。ホンドは「お前が答えてみろ…描くとは何か…」と言います。
 ユンボクは、しぶしぶ立ち上がり「描くことですか…」と言います。生徒の一人が、隣のホンドよりも年上の10年間画員試験に落ち続けている生徒に「あれじゃ指されるさ…」と小声で言います。
 ユンボクは「描くと言うことは…懐かしさではないかと…」と言います。ホンドは、少し考えながら「そうか…どうしてだ?」と聞きます。ユンボクは「はい…懐かしさが絵になったり、あるいは絵が懐かしさを生んだりしませんか…」と言います。ホンドは静かに「続けろ…」と言います。
 一番年長の生徒が「大したもんだ…」と小声で言います。
 ユンボクは続けます。「懐かしい人がいれば、その人が思い出され描くので、懐かしさは絵になり…」と言うと、ホンドが「懐かしさが絵になる…それから?」と言います。
 ユンボクは「また、その人の絵を見ていれば、忘れていてもその人が懐かしくなるので、これは絵が懐かしさになると言うことでは?」と言います。ホンドは「絵を見れば懐かしくなる?」と言います。ユンボクは「はい、だから…つまり…描くことは懐かしさです。」と言います。生徒達は、ユンボクの話を聞いて、唖然としていました。
 ホンドは「懐かしさか…描くことは懐かしさか…」と、自身に言い聞かせるように言います。そして、ユンボクの目を見て「お前の名前は?」と聞きます。ユンボクは「はい、シン・ユンボクです。」と答えます。ホンドは、じっとユンボクの顔を見つめていました。
そしてホンドは、紙に横三列、縦三列の点9個を描きます。「明日までに、これを解くのが課題だ。筆を一度も離さずに、九つの点を通る…四つの線を引くことだ…分かったか…今日はここまでだ。」と言います。生徒達は、厄介な課題が出たと思います。

別提チャン・ピョクスは、古びて陰気くさい長老画家の仕事場に来ていました。
「先生…ぺクぺク先生(ホ・シム丹青室元老)」と声を掛けます。
ぺクぺクは「図画署の別提が何の用だ。こんな薄汚い調色室まで、何をしに?」と言います。ピョクスは「お話があります。」と言います。ぺクぺクは仕事をしながらピョクスに「座れ」と言います。ピョクスは椅子を持って来て、ぺクぺクの横に座ります。
ピョクスはぺクぺクに「屏風絵を逆さに描くのは何の為ですか」と聞きます。するとぺクぺクの目が鋭く変わります。そして「屏風を逆さに?」と聞き返します。ピョクスは「はい」と答えます。ぺクぺクは独り言のように「逆様に描いた…」と言います。そして「普通に描いた絵が無くては役に立たない…」と言います。ピョクスは「普通の絵?普通の絵…」と言って考えます。そして「屏風模写の授業は基本過程なので、その絵はあります。」と笑いながら言います。そして「さすがぺクぺク先生です。」といいます。しかし、ぺクぺクの鋭い眼差しは変わりませんでした。「それは…これを見る為だ…」と言いながら、指で目を指します。
「目ですか…」
「頭ではなく…これで絵を描く能力…それを見るんだ…」と指で目を指しながら言います。
「それで、画員の特徴が分かると?…」
「そうだ…誰がそんな課題を出した?」
「ホンドです。」
「ホンド?…ホンドか…お前の目のトゲか…図画署が面白くなりそうだ…」と言うと、ぺクぺクは笑いだします。ピョクスは難しい顔をして、ぺクぺクを見つめていました。
ピョクスは用が済むと、丹青室を出て図画署に帰る途中振り向いて、丹青室を見ながら「あの年寄りめ…何時あっても気分が悪い…」と言います。そして、体に着いた絵具の粉やほこりを振り払いながら帰ります。

ピョクスは、図画署の執務室で、宮殿の役人とあっていました。
役人は「それでは、捜査は上手く言っているのか…」と聞きます。ピョクスは「見守っています。」と答えます。役人は「ただ、見てばかりはいられない。王大妃様が厳命を下した…」と言います。
ピョクスは「厳命ですと」と聞き返します。すると役人が「王大妃殿は、私たちを…ホンドに捜査を任せきりだと考えておられる…王大妃様は、今度の事を曖昧には済ませない。掌破刑の道具が出れば、必ず使われる…」と言います。ピョクスは、「分かっています…生徒がおびえて口をつぐまぬよう、元老画員に口止めをしています。ホンドの捜査も授業だと思っているので、まもなく…その生徒が分かります。」と言います。
すると役人が「ただ待つだけでいいものか…もしその生徒を探し出せなければ、王大妃様が、何処まで責任を追及するか…つまり…」と言います。ピョクスは直ぐに「どうなりますか?」と聞きます。役人は「ホンドを管理監督できなかった、お前と私まで…掌破刑があり得ると言うことだ…分かったか…」と言います。ピョクスは「王大妃様がそう言ったのですか?掌破刑に処すると…」と聞き返します。
二人の話をピョクスの息子の生徒長達が盗み聞きしていました。
生徒長が「掌破刑に処すると…」と言うと、別の生徒が「誰を掌破刑にするんだ?」と聞き返します。掌破刑とは、手を石で打つ刑でした。生徒長は「さあな…ホンド先生と言って、掌破刑と…」言います。すると別の生徒が「ホンド?…ホンド先生…まさか…」と言います。

二人は、別の生徒達がいるところに走って行きます。「大変だ!」と叫びながら…
「大変な事に成った…本当に大変だ…」
生徒達が集まって来ます。
「どうした?…言えよ」
「ホンド先生が…とんでもないことだ…」
「何だよ!」
「あの奇妙な課題があるだろう…解けなければ…」
「どうなるんだ!」
「掌破刑かもしれない…」
「掌破刑?」
「おい本当か?」「本当かよ」
生徒達は、みんな心配そうにしていました。そして、みんなで課題を解き始めます。
「筆を一度も離さずに、九個の点を通る…四本の線を引くことだ…」みんなでいろいろと考えては見るのですが、答えは出ませんでした。ユンボクは自室で寝転びながらも思案にふけっていました。
「全然分かんないよ…」「答えがあるのか…」「到底解けない…」他の生徒達は、口々に嘆いています。

画商の店の中では、大商人キム・ショニョンと使用人が話していました。
「全部そろったのか…」
「筆写した“三国志演義は市場に出ました…最近は三国志演義の貰冊が人気です」(貰冊とは、金を払い本を借りること)
「そうだろうな…では、もっと描かせてくれ…紙の事は、紙屋に伝えて置く…」
「はい」
キム・ショニョンは、お付きのものに「行こう…」と言うと店を出て行こうとしますが、使用人が「旦那様、これを見て下さい…」と言って絵を出します。
「ある画工の俗画ですが、客の反応がいいので買っています。」と言います。キム・ショニョンは「そうか…」と言うと、絵を受け取って見ます。「“春色満園中 花開 爛漫紅”か…春の光が満ち、花は見事に咲いている…」
「しかし、絵の中には青い葉だけで、花は咲いていません…」
キム・ショニョンは、真剣に絵を見ながら「トゥルマギを来た両班の顔だ。酒が回った赤い顔を花と表現したな…機知にあふれている…」と言います。使用人は「若い画工ですが、才能はあるようです。」と言います。するとキム・ショニョンは「筆勢もいい…“日月山人”…”日月山人“か…何処のものだ?」と言います。使用人は「知りませんが、明日新作を持って来ます。」と答えます。
「そうか…“日月山人”か…値をよくしてやれ…」と言うと、キム・ショニョンは店を出て行きます。

その頃ユンボクは、自室で“日月山人”として新作を描いていました。また、ホンドは図画署で、友人のイ・インムンと生徒達の絵を見ていました。
イ・インムンは「本当に同じものの作品か…こんなに違う…」と言います。
ホンドは「逆様だからな…逆様だと、頭の中の幻影を描くからへんな絵になる…」と言います。
インムンは「しかし、逆さにおいて同じ絵を描ける者はいない」と言います。するとホンドは「そうかな?」と言うと、別の棚にある絵を見て「これを見てみろ…」と言います。インムンが、絵を取って見ようとすると「触らずに…」と言います。
インムンが、絵を見比べているとホンドは「どうだ、同じか違うか…」と聞きます。インムンは、真剣になってその絵を見ます。そして、にゃっと笑って、ホンドの体を叩き「これが逆さの作品か…」と言います。ホンドは「相変わらず、人を信じないな…これは頭の中でなく、見えるままに描いたんだ。それは学べる事ではない。虎より鋭い生まれつきの目だ…」と言います。インムンは「これは誰の絵だ…」と言いながら、名前を見ようとしますが、ホンドは慌てて名前を隠します。そして「まだ、言うには早い…」と言って絵をかたずけます。

数人の生徒達が、庭の塀のそばに集まって、課題の事を考えています。
「勉強なんてガラじゃないんだがな…」
「仕方ないでしょう。手首を守るには、力を合わせないと…」
「図画署で飯を10年食ったが、こういう場合は…」その時「カッコウ、カッコウ…」と女の声がして来た。すると、ホンドよりも年上のできの悪い生徒が「来た」と言います。女は子どもをおぶっていました。年上のできの悪い生徒の妻のようでした。女は塀越しにひもを庭に投げ入れました。
「引っ張れ…」生徒達は、ひもを引っ張り始めます。荷物を庭の中に引き入れると、年上の生徒が塀越しに「ありがとう。お前がいて心強い…カッコウ…」と言います。すると女は「精進して、今年は必ず画員試験に通って…」と言います。年上の生徒は「精進に精進を重ねるよ…」と答えます。女は「そっちに行こうか…随分あってないし…」と言います。別の生徒が「どうぞ…」と言いますが、年上の生徒は手で別の生徒を制止します。そして「いや、来なくていい…絶対に超えて来るなよ…」と言いながら、手では生徒達にあっちへ行けと合図します。そして「いや、会わずに忍ぶ方がいい…カッコウ」と言います。すると女は「やっぱり考えが深いですね。それでは帰ります。」と言って帰ろうとするのですが、また振り向いて「花煎(ファジョン)も入れたから、あなたが食べて…必ずですよ。」と言います。年上の生徒は「そうするよ、いつも体に気お付けろよ…カッコウ」と言います。女も「カッコウ」と言って帰ります。
別の生徒が「早く行こう。匂いがたまらない…」と言うと、みんなは寄宿舎の広間へ行きます。
「妻が、オレの為に夜なべして作ったんだ…たくさん食べろ…」
「最高だ」みんなは食べながらも課題の答えをどうにか考えようとしていました。生徒の一人がユンボクに、「ここか、ここか」と聞きますが、ユンボクはその度に「もっと横、もっと横と言いました。しかし、それでは点の位置から線がはみ出してしまいます。生徒長が「あの点の中で解けと言われた…」と言うと、ユンボクは、少し不満げに「そんな必要があるのか…」と言います。すると生徒達は「何を考えている…」と言います。年長の生徒も「それはそうだろ…」と言います。ユンボクは不服そうに「どうして…」と言います。
生徒長は「左側の下端から…」と言って遣ってみるのですが、結局は上手くいきませんでした。生徒の一人が「ケウォルへ行けると思っていたのに…」と言います。別の生徒が「これでは明日いけないよな…」と言います。また別の生徒が「こんな雰囲気だし…延期した方がよくないか…」と言います。
生徒長は「よく考えてみろ…風流を知らずに画員と言えるか…昔から、酒を墨とし、女の体を紙とみなしてこそ、まともな絵が描けると言う…」と言います。すると別の生徒が「そのとおりだ…かっこいい…行こう、行こう…」と言います。生徒長が「1人も欠けるなよ…お前達に、風流を教えようと…最高の琴妓チョンヒャンを呼んだ…」と言います。
別の生徒が「琴妓?伽耶琴妓生?」と言います。(「琴妓」伽耶琴を弾く妓生の事)「松都から来たという…」「そのチャンヒャン?」「生徒長万歳!」と何やら悪だくみをしているようでした。

ホンドが描いた解答
あくる日、授業中にホンドが、課題の回答を示します。「これが答えだ!」

生徒達は誰もわからなかったので、罰として硯を持たされて、手を前に突き出して、立たされていました。生徒達は、手が震えて辛そうでした。
ホンドは「これで分かったか…全員が集まって、一晩中悩んでも解けなかったのか…一体何をしていた…それでも御真画師になり、国事を担えるのか…図画署の将来は真っ暗だ…しっかり持て…」と言います。すると生徒長が「しかし、その答えは、線が四角から出ています。」と反論します。
ホンドは、「九個の点だけで、四角の枠は最初から無かった…自らの枠に閉じ込められ、答えを探せなかった。枠を脱すれば道は生じる…」と言います。するとユンボクが「師匠…それなら、三本の線でできます。」と言います。ホンドが「三本の線だと?…三本の線では無理だろう…」と言うと、ユンボクは食い下がります。「答えはあります。気付かなかっただけで…」と…
ホンドは「その答えが分かっているのか…」と、ユンボクに聞きます。そして、答えを描くようにと言います。ユンボクは、硯を置いて前に出ます。年長の生徒が隣の生徒に「どうするつもりだ…」と聞きます。
ホンドは、ユンボクの顔をじっと見つめて、筆を渡します。その授業の様子を画員達も覗き見していました。そこへユンボクの父も遣って来ました。

ユンボクか描いた解答
ユンボクは、枠からはみ出して、三本の線を引いて点をつなげます。そして「これで間違っていますか…」とホンドに訪ねます。ホンドは、しばらくの間、じっと回答を見ていました。そして、「厳密には、この線は三点を通っていない。上・中央・下をかすめているだけだ。正確に貫くと言えない…」と言います。そして、生徒達の方を振り向いて、「そうだろう…」と確認を求めます。生徒達は、ユンボクをばかにしたように笑います。しかし、ユンボクは反論します。「先生は、必ずしも間違っていません。」その言葉に、生徒達は唖然とします。そしてホンドは、ユンボクを見つめます。
「必ずしもだと、どう言う意味だ?」
「線の傾きを考えて下さい。線の傾きは、角度が大きいほど急になります。そして反対に、角度が小さいほど、傾きが緩やかになります…」
「何を言っているんだ…」生徒達はユンボクの話について行けません。
「それで…」ホンドは、ユンボクの話を真剣になって聞いています。
「それで、角度が無限に小さくなれば、中間線の傾きは無くなります…」
「何の話だ…」「分からん…」生徒達は、ユンボクの説明に全くついて行けません。
「こうです。無限に果てしなく描き続け…またこの線が無限にあっちに行きます…こうして…もっと…もっともっと無限まで行くと、線の角度は無限に小さくなります。言いかえれば、間の線はその角度が消えて行き、この中央にある、この三点をまっすぐに通ると思います。」
ホンドは、ユンボクの回答を真剣に理解しようとしていました。その姿を見て、生徒達は「師匠とユンボクが議論している」と小声で話しています。生徒長は「ユンボクには無理だ…」と言います。
そして、ホンドは「これは、怪返だ。」と言います。ユンボクは、食い下がります。「どうして、怪返なのですか…」と言います。ホンドは「明快でないからだ…誰もが理解できてこそ回答と言える。お前の解釈法をみんなに説明できるか…」と言います。兄ヨンボクは、はらはらしながらユンボクの事を見つめています。
ユンボクは、それでも諦めずに「はい」と答えます。そして、「できます…」と言います。ホンドはユンボクに「遣って見ろ…」と言います。
ユンボクは「ただし、必要なだけの紙を用意させて下さい」と言います。ホンドは「必要なだけだと?」と言います。ユンボクは「はい。そして、数十個の硯に墨汁を満たして下さい。」と言います。ホンドは「数十個の硯に墨汁だと?」言います。ユンボクは「それなら、正解の線を引いて見せます。」と言います。ホンドは「その紙と墨汁がなければ、証明できないんだな…」と言います。すると、ユンボクは「逆に、多くの紙と墨汁があれば証明できるということですね。」と切り返します。
一人の生徒が生徒長に小声で「どうなっているんだ…どっちが勝った?」と尋ねます。生徒長は「うるさい…」と答えます。その様子には、ユンボクへの嫉妬心が垣間見えます。ホンドは、ユンボクの描いた解答を見ながら、さらに真剣に考えています。そして、生徒達に向かって、硯を「しっかり持て…」と言います。その姿には、焦りが感じられました。
ホンドは生徒達に「この問題は、何時か解決されるまで、胸に収めておこう…今日の授業はこれで終わりだ。」と言います。生徒達は、硯を持つ罰を止められることでほっとしますが、生徒長だけは嫉妬心がわいていました。一人の生徒が「お疲れさまでした…」と言うと、生徒達は席を立って行きます。ホンドは、その姿とユンボクを見ながら、ユンボクの才能に驚いていました。ユンボクは、一礼して席に戻ります。
ホンドの友人インムンが教室に入って来ます。「おい、ホンド…犯人を捜したか…」と言います。ホンドは、黙って周りを見回します。
インムンが、ユンボクの解答を見て「これは…実に奇抜な方法だな…」と言うと、ホンドの顔を見ます。二人の視線が合い「まさか、アイツか…二つの絵が同じの…」と言いますが、ホンドは無言でうつむきます。インムンは「あああー…」とため息をつきます。そして「おしい才能を失うな…この生徒は誰だ?」と聞きますが、ホンドは無言を貫きます。その姿には、苦悩がにじんでいました。
インムンは「私にも言わないつもりか…」と聞くと、ホンドはやっと「まだ、その時期じゃない。」と言って、ユンボクの解答を見つめます。そして「会ってみる」と言います。インムンは「あってどうする?」と言いますが、ホンドは「確認もせずに手を切って、お前なら眠れるか…気楽なもんだ…」と言うと、少し怒った表情で教室を一人で出て行きます。
ホンドは、ユンボクのとてつもない才能を惜しんでいました。ユンボクは、ホンドの解答を乗り越えて、遠近法という西洋の技法を自然に会得しかけていたからです。ホンド自身にも、ユンボクの概念は新鮮でした。そして、驚きを感じていました。

生徒達は、それぞれが私服に着替えめかしこみ、計画していた夜のお遊びを実行しようとしていました。みんなが揃うと、浮かれて夜の町へ出かけて行きます。生徒達とすれ違いに、ホンドは図画署の寄宿舎へ遣って来ます。
「待て!」ホンドは、一人遅れて来た生徒を見つけて声を掛けます。「その格好で何処へ行く…」と聞きます。生徒はうつむいて「酒を飲みに行くわけでは…」と答えます。ホンドは「何だと?…巫女にでも成ったつもりか…」と言います。生徒は「今日は、生徒長の誕生日ですから、みんなで妓房に…」と言います。ホンドは「妓房?」と問い返します。生徒は、困った表情で「いえ、あの…女人を紙とし、酒を墨として、風流を楽しもう…」と言います。ホンドは「何だと?…ムチは覚悟しておけ…」と言います。生徒は泣きそうな顔で「私は誘われただけです。申し訳ありません。」と言います。
ホンドは生徒に「寄宿棟には誰がいる…」と聞きます。生徒はオドオドしながら「寄宿棟ですか…ユンボクとヨンボクが…」と答えます。ホンドは「分かった、行け…」と言います。生徒はオドオドしながら、妓房へ行くべきか寄宿棟に帰るべきか少し考えますが、妓房へ小走りで向かいます。

父シン・ハピョンの部屋に、兄ヨンボクが呼ばれていました。
 ハピョンは、筆の手入れをしながらヨンボクに「授業は聞いた。ユンボクが一人で問題を解いたのか…」と聞きます。ヨンボクは嬉しそうに「はい…師匠も考えなかった方法で…素晴らしいです。」と答えます。
 ハピョンは、嬉しそうに笑いながら「確かにそうだ…群鶏の一鶴だな…しかし…出る杭は打たれるものだ…意味がわかるか…だから、お前がよく面倒を見てくれ…」と言います。ヨンボクは「はい父上、心配ありません。」と答えます。ハピョンは、安心したように「そうか…ユンボクは?」と聞きます。ヨンボクは「疲れたので、早く寝るそうです。」と答えます。ハピョンは、嬉しそうにまた笑いながら「そうか…」と言います。

 その頃ユンボクは、寄宿棟の自室で、何やら抜け出す為の準備をしていました。私服に着替え、顔にはつけ髭を付け、蒲団はいかにも寝ているような偽装を加えていました。「これでよし…」と言うと、筒状に丸めた紙を手にすると、灯りを消し、様子を見ながら部屋の外に出ました。
 ユンボクに会いに来たホンドは、部屋を探しているうちに、木陰からその姿を見ました。不審に思ったホンドは、ユンボクの後をそっと付けて行きます。街中に出るとユンボクは、素早く歩いて行きます。それを見ていたホンドは「豆粒なのに早いな…」と感心します。
 ユンボクは、露天の店で商品を眺めていると、誰かに見られているような殺気を感じ、その場から立ち去ります。ホンドも慌てて追いかけます。ユンボクは、誰かにつけられているように感じ、小走りで逃げて行きます。人ごみにまぎれ、酒場に入り、上着を脱いで客に変装しました。ホンドは、酒場までは来るのですが、ユンボクに気付かず出て行きます。ユンボクは、ホンドが出て行ったあとで、目的地の画商の店へ向かいます。

 店に着くと、店のものがユンドクに「持ってきたか…」と言います。ユンボクは「持ってきた…」と答えます。そして、ユンドクが絵を出すと、店の者は絵を見て、がさつに笑います。そしてユンドクに「両班野郎が下女の手首を握ったな…」と言います。ユンドクは「どうだ?」と覗き込むようにして言います。店の者は「女人が若い男に手首を握られれば、話は終わりだな…素材は本当にいい…しかし…」と気を持たせたように言います。ユンボクは「しかし?…何か悪かったか…」と尋ねます。店の者は「この岩が少しね…」と難癖を付けます。ユンボクは「“この岩が少し”…」と言いながら、不服そうな目で店の者の顔を見ます。店の者は「これを何というか…」と下心がありそうに言います。ユンボクは「“何と言うか”…何が?…」困ったように言います。すると店の者が「これは弱いな…」としかめっ面をして言います。ユンボクは驚いたように、少し慌てて「何がどのように?…」と言います。店の者は「とにかく弱い…まだ若いから可能性は充分にある。挫折せずに精進しなさい…」と言います。そして財布から5両出してユンボクの手に握らせます。ユンボクは、手にした銭を見て「また5両?」と尋ねます。すると店の者がすかさず「私だからこそこれだけ出すんだ…」と言ってユンボクを納得させようとします。そこへ、客らし気人影は入って来ます。店の者はユンボクを追い出すように「さあ帰って、精進を忘れないように…また来週ね」と言います。ユンボクが店を出ると客に「いらっしゃいませ」と言います。ユンボクは、まんまと店の者の駆け引きに騙されました。本当は、主人から、ユンボクの絵を「高く買ってやれ…」と言われていた店の者から…

 しかし、このまま騙されるようなユンボクではありませんでした。店の者が、客の相手をしているところをそっと覗いていました。
 「良い物は入ってきたか…」と客が聞くと、店の者は愛想よく「ちょっとお待ちください」と言うと、覗き込んでいたユンボクに手で早く出て行けと合図します。ユンボクは「分かった、では来週…」と言って出て行きます。
 客は「本当に新しく入ったのか…」と聞きます。店の者は「ありますとも、出来たてほやほやが…」と笑って言います。客は「それを見せてくれ…」と言います。店の者は、座敷に挙げて、今持って来たばかりのユンボクの絵を見せます。「この女人がそっと腰を引き、それでも嫌がっているようでもなく…」と店の者が言うと、客は「この笑顔ならば、若い男は放っておけない…」と言います。店の者は「そうですよ…墨の線だけ引かれた文人がより、俗画がずっと率直で、見る楽しみも有ります…人間味が感じられるというか…」と言います。客は「それにここに、奇岩があるから密かな雰囲気が出ている…この画工は天才ですよ…」と言います。そして「いくらで売る…20両か?22両…」と言います。店の者は「ご冗談でしょう…50両以下では無理ですよ…」と言います。客は「何だと…」と言います。
その様子を窓の外からユンボクは確りと見ていました。そして、手の中の銭を見ながら「何だって…5両…残りは画評代として受け取ったことにしよう…」と独り言を言いながら納得して帰り始めました。そこへ、待ち受けたようにホンドが現われます。ユンボクはホンドの顔を見るなり逃げ出そうとするのですが、ホンドがユンボクの腕をつかみ「何処へ?」と言います。ユンボクは「何ようですか?」と言って、また逃げようとしますが、ホンドが「こいつめ…」と言って、また手をつかみ逃がしません。ユンボクは「何をするんですか…」としらばっくれるのですが、ホンドはユンボクの顔をつまみ、そしてつけ髭をはがします。見破られたユンボクは、おとなしくなります。

二人は酒屋に入っていました。ユンボクはホンドの前に神妙に座っていました。ホンドは酒を飲みながら、ユンボクの描いた俗画を見ていました。そして「“日月山人”…」と言います。ユンボクは両手をついて、少し慌てて「見逃して下さい…父に知れればひどい目に会います。」と言います。すかさずホンドが「ではどうしてだ。金の為か」と言います。ユンボクは、懸命に言い訳をします。「はじめは売るつもりは無かったんです。」と…その姿はやはり子供でした。
ホンドは「後で売るつもりになったのか…」と言います。ユンボクは「いや、それが…それが…思いのほか噂になって、いい作品だと人に言われて…」と言うと、ホンドはさえぎるようにして「こいつ…お前は正気か…その大した才能で、たかが5両で絵を売るのか…」と言います。ユンボクはホンドの言葉に少し驚きます。ホンドはユンボクに酒をついで「飲め!」と言います。ユンボクは恐縮して酒を恐る恐る飲みます。
ホンドはまた、ユンドクの絵を取って見ていました。そして「あきれたな、この絵とは…実にあきれた者だ…背景の描写か…どうしてこんな絵を描いた?…」と聞きます。ユンボクは「それが…分かりません…ただ、見えるものを描いただけです。」と、神妙に答えます。ホンドは呆れたように「本当に天性なんだな、大したもんだ…どうして後ろ姿を描いた?」と聞きます。ユンドクは驚き半分に「はー」と答えます。ホンドは「みのを持つ女人のことだ…」と言います。ユンドクは「あああー、それはソンナクで、蓑ではありません。(ソンナク=僧が使った編みがさ)」と答えます。ホンドは「ソンナクなんだな」と言います。ユンドクは「はい」と答えます。ホンドはユンドクの才能を呆れるほどに感じながら見つめていました。
ホンドは「どうして後ろ姿なんだ?」と聞きます。ユンボクは「それが…あの女人の後姿には何かありました…何か…切なさが感じられました…」と言います。ホンドは「それで筆を取ったんだな…」と言います。ユンボクは「はい、知らぬ間に…手が筆を取っていました。」と少し興奮して言うと、ホンドはすかさず「それが興が湧くということだ…」と言うと、ユンボクは「喜びが突き上げました…世界がすべて止まったように…」と言います。ホンドは「その瞬間は、何も見えなくなる。」と言います。ユンボクは「まさに私がそうでした…」と興奮して答えます。ホンドは「自分を忘れてしまう、没我の境地をお前は経験してした」と言います。ユンボクは「没我の境地をですか…」と聞き返します。ホンドは「そこに到達したのだ…」と少し笑みを浮かべながら言います。ユンボクは「没我の境地…」と独り言を言います。ホンドは「それを経験した…」とため息交じりに言います。ユンボクは、心から喜びが湧いて来ていました。
ユンボクは「なんでそんな話を?」と尋ねます。ホンドは真剣な眼差しでユンボクを見つめながら「明日、図画署で掌破刑が行われる…」と言います。ユンボクは「掌破刑が?」と聞き返します。ホンドは「あの絵を描いたものが掌破刑を受ける…」と言います。ユンボクは「どう言う意味ですか…」と聞きます。ホンドは、語気を強めて「どうして、あんな絵を描いた?才能が何だと言うんだ!もう筆を取れなくなる…」と言います。ユンドクも真剣に「筆も取れない?」と聞き返します。ホンドは「話が分からないのか!図画署があの絵を描いた者を掌破刑にして手を砕く!もう何も出来なくなる」と興奮して言います。ユンボクは「手を砕くのですか…あの絵がそれ程の過ちですか…何を間違えたのですか…没我の境地なのに、たかが一枚の絵です。そんでもないことです。たかが一枚の絵で…先に失礼します。」と言うと、席を立ち出て行こうとします。ユンボクは、絶好調から奈落の底に突き落とされた気持でした。ホンドは「ユンボク…ユンボク…座れ」と言って呼びとめますが、ユンボクは「いいえ…」と言って出て行きます。ホンドは思案に暮れていました。
ユンボクは、呆然として街中を彷徨っていました。思い出が映像となり蘇って来ました。実の父らしき人から、絵の手ほどきを受ける姿が…ユンボクと初めて出会った画商での思い出が…目からは自然と涙が出ていました。自然と小走りになり、当てもなく彷徨い続けました。そして着いたところが、不思議な事に妓房の前でした。そして妓生に捉まり、言われるままに妓房の中に入ってゆきました。そして案内された部屋は、生徒長の誕生の祝いの席でした。
生徒達は「誰かと思えば…懐かしさの先生では…」と言います。ユンボクは、走って酒が回ったのか、少し座った目で前を見つめます。すると生徒長が「“絵は懐かしさ”の先生じゃないか…」と言います。すると隣の生徒が指を指して「手ぶらで来たのか…」と言います。するとユンボクは「心が来たからいいだろう…」と言って座ります。生徒長が「心だと?」と言うと、筆たての筆を取って、妓生に酒をつがせます。そして「飲め!その心がどれほどか見よう。」と言います。すると他の生徒が「女みたいな奴が酒を飲めるか…泣いたらどうだ…兄上…兄上…」と言います。すると妓生達も一緒になって笑います。
ユンボクはしばらくじっとしていましたが、おもむろに筆たてを手にして立ち上がりました。そして「飲めないと思うか…」と言うと一気飲みを始めます。みんなは唖然とした顔で、ユンボクを見つめていました。

ユンボクはいつの間にか仲間に入っていました。生徒たちは酒を飲み、ふざけ合い、音楽を聞きながら踊る者もいました。そしてユンボクは、一人酒を飲み重ね、もの思いにふけっていました。その時、伽耶琴妓生のチョンヒャンが部屋に入って来ます。チョンヒャンは座って無言で一礼をします。
生徒の一人が「すごい美人だ」と言います。生徒長は「お前がチョンヒャンか」と聞きます。チョンヒャンは「はい、チョンヒャンと申します。」と挨拶をします。別の生徒が「本当に綺麗だ」と言います。
チョンヒャンが、琴を準備していると生徒長が「琴はいいから…ここに座ってくれ…」と言います。チョンヒャンは「私は隠君子(ウングンチャ)ではありません。(隠君子=体を売る妓生)」と言います。するとユンボクが突然「相変わらずトゲだらけだ」と言います。チョンヒャンはユンボクの事を直ぐに店に隠れに来た画工だと気付きます。そして「美しい花ほどとげがあります。」と答えます。するとユンボクは、少し笑みを浮かべて「自分で美しいと言う花は、初めて見た。」と言います。チョンヒャンは「自ら言ったとしても、美しい花が、美しくなくなりますか」と言います。ユンボクは「誰かが見なければ、花の美しさに何の意味がある。」と言います。チョンヒャンは「花はただ在るだけ、美しいかどうかは、男達の言うことです。」と言います。
二人のやりとりを聞いていた生徒が「何だ?お前たちは知り合いか…」と、少し驚いた様子で言います。だいぶ酒に酔った別の生徒が「何をしている、早く始めろ…」と言って、酒の入った盃をチョンヒャンに投げつけます。杯は琴の弦に当たり、酒は飛び散り、弦が切れます。
「おい、何のマネだ」と生徒長が怒ります。チョンヒャンは、酒で濡れた顔をハンカチのような布切れで拭きます。生徒長の腰ぎんちゃくの生徒が「お前は寝ていろ」と酔った生徒に言います。生徒長は「大丈夫か…生徒が酔って失礼をしました。」と言って謝ります。チョンヒャンは「起きた事を誤ってどうなりますか」と言います。すると生徒長が「弦が切れたから、伽耶琴はやめて酒を飲もう…私は生徒長のチャン・チョウォンです。」と言います。チョンヒャンは、生徒長の言葉を無視して「曲名は…“桐千年老恒蔵曲”(トンチョンファンシャンゴク)です。」と言うと、琴を弾き始めます。生徒長は無視されたことを気まずく思っていました。ユンボクは、酔いながらもチョンヒャンが、どれほどの琴を弾くのかと、耳をそばだてながら見入っていました。するとその素晴らしさに、ユンボクの眼差しが真剣に成りました。チョンヒャンもユンボクを意識しながら琴を弾いていました。
ユンボクの目には、野山で琴を奏でるチョンヒャンの姿が映っていました。そして、実父らしき男性に肩車をされている幼き日の自分の姿が…横には母らしき女性の姿が…楽しげな家族の映像が…映っていました。チョンヒャンが琴を奏で終わると、ユンボクの目から一筋の涙がこぼれていました。ユンボクはチョンヒャンを見つめ、チョンヒャンもユンボクを見つめていました。何とも言えない余韻が漂っていました。その余韻を打ち消すように、生徒長の「どうした、拍手もせずに…」と言う声と拍手が、静まり返った部屋に響き渡ります。他の生徒からは「素晴らしかった…」と言う声が聞こえました。ユンボクはそっと席を立ち、チョンヒャンの方へ歩み寄ります。そして、チョンヒャンの顔を見つめて「最高の演奏でした。」と一言言い残して部屋を出て行きます。チョンヒャンの顔は満足げでしたが、ユンボクの眼差しは虚ろでした。

ホンドは、友人と二人で部屋にいました。友人はユンボクの絵を見ながら「俗画にしても鮮やかな筆使いが生きている。」と言います。ホンドは友人に「よく見ておけ…二度と見られないかも…惜しい…実に惜しい…方法はないか…」と言います。すると、ホンドの言葉に何かを感じた友人は「下手をすると、お前の手首が飛ぶ…」と言います。ホンドは「どんな危機も精神力で乗り越えられる…」と言います。
 部屋の外では、友人の妹が耳をそばだてていました。そこへホンドが戸を開けて出て来ます。ホンドはビックリした様子で、友人の妹に「ここにいたのか…」と言います。すると友人の妹が「はい、お兄様…」と言います。友人も部屋から出て来て、少し驚いた様子で「ここで何をしている」と言います。妹は「のどが乾いたかと思い水を持って来ました。」と、水差しと湯呑を恥ずかしそうに差し出します。ホンドが、少し照れて「そうか、ありがとう。」と言って受けとると、妹は恥ずかしそうに立ち去ろうとします。ホンドは友人の妹に「のどが乾いて死ぬところだった」と言います。そして「ジョンスク…」と名前を言って呼びとめます。ジョンスクが振り向くと「おやすみ…」と言います。ジョンスクも「お兄様も…」と言って立ち去ろうとしますが、また戻って来て「蚊に気を付けて…」と言います。ホンドが「分かった分かった…」と言うと、ジョンスクは笑顔で恥ずかしそうに自分の部屋に行きます。ホンドと友人は笑いながらジョンスクの後姿を見ています。そしてホンドが「ジョンスクも大きくなったな」と言うと、友人は「もう完全に女に成った…誰かを待ってな…」と言います。ホンドは少し真顔になって「誰を?私をか?…つまらないことを言わずに、早く寝な」と言います。友人は靴をはいて振り向くと「ピョンヤンなまりに成ったな…」と言います。ホンドは真顔になって「早く寝なって…」と言います。ニヤッと笑って「おやすみ…」と言うと自分の部屋に戻ります。

ユンボクは路上で、チョンヒャンを待ち伏せしていました。チョンヒャンに会うと懐からお金を出して「もう一曲お願いしてもいいか…」と言います。チョンヒャンは「5両の演奏とみられたのか…」と言います。ユンボクは「これが持つ金のすべてだ…」と言います。チョンヒャンは無視して行こうとするのですが、ユンボクがチョンヤンの手をつかんで止めます。チョンヤンは驚いて「何の真似ですか…」と言います。ユンボクは「明日には…この手がとぶ…この五両は…この手で描いた、最後の絵を売った金だ…ここで最後の夜を過ごしたい」と言います。

ここで第二話 掌破刑(前)は、終わります。


写生の時間に、春画を描いた生徒を見つける為に、図画署に呼び戻されたホンドは、犯人が、ユンボクであることに気がつくのですが、ユンボクのあまりの才能に、どうやって救おうかと思案します。そしてユンボクにも、やはり秘められた謎があるようです。チョンヒャンの奏でる琴の音色を聞きながら、父母に可愛がられている子どもの映像が浮かんでいました。そして、その子供の映像は女の子でした。この映像が、この後のストーリー展開のカギになるかも知れません。
それから、この物語を私はWebで見ているのですが、配信終了の日付に気づかず、最後の56分の所で、終了してしまいました。その時間帯の記述が少し抜けてしまいました。申し訳ありませんでした。