2011年6月26日日曜日

TBSの「JIN-仁-第10回(6/19)最終章前篇~タイムスリップの結末…」を見ました

 寺田屋の前の通りでは、壮絶な斬り合いが行われていました。東は、龍馬を必死で守っていたのですが、突然、振り向きざまに、龍馬の額を斬りました。そして、飛び散った血しぶきが仁の眼に入ります。仁は目が見えなくなり、ただ大声で、「龍馬さん~!と叫んでいました。
 龍馬が斬られたのを見届けた恭太郎の仲間が「行くぞ橘…」と言います。恭太郎たちは、その場から立ち去ります。
 仁は龍馬を助けようとします。その時、東が龍馬に「私の兄は、あなたに斬られたんです。あなたが久坂さんに会った帰りに…あなたは私のかたきなんです…始めからこうする気持ちで近づいたんです…ずっとこうしようと思っていたんです…」と言います。
 龍馬は、息も絶え絶えに「そしたら、どうしてここまで見守ってくれたんじゃ…何ぼでも斬れたのに…そんな話、今更わしが信じるち思ちょるのか…これもわしを守る為じゃろう…」と、東に言います。
 東は「違います…」と言うと、龍馬にとどめを刺そうとしますが、仁は体を張って龍馬を助けようとします。そして東に「やめて下さい…」と言います。
 東は、それ以上何もすることが出来ずに、その場から走って立ち去ります。

 仁は「咲さん、佐分利先生を起こして来て下さい…」と叫びますが、咲は目の前で龍馬が斬られ、そのことに兄の恭太郎が関わったことで動揺し、立ち上がる事が出来ませんでした。
 仁は再び「咲さん…」と叫びます。咲は気を取り戻し仁に「はい…」と答えて、佐分利祐輔を呼びに行きます。
 仁は龍馬に話しかけます。「龍馬さん、大丈夫ですか…」と
 龍馬は仁に「南方仁がおれば、坂本龍馬は死なん…そうじゃろう…先生…」と言います。
 仁は龍馬を抱きかかえながら「はい、助けます…オレがこの手で…龍馬さん!」と言います。龍馬は仁の笑顔に応えて笑いますが、その後すぐに意識を失います。

 寺田屋の一室で、龍馬の手術が始まろうとしています。仁が、咲と祐輔に手術の内容を説明し始めます。
 「左前頭部の骨が陥没…その下の硬膜が破れ、さらにその下にある大脳の一部が外に出かかっています…開放性頭蓋骨陥没骨折…脳挫傷による急性硬膜下決腫…外傷性クモ膜下出血の疑いがあります。
 エーテル麻酔…気道確保をして下さい…」と言います。
 仁は心の中で思います。「オレはきっと、この為にここに来たんだ…この時の為に…」と、そして仁の脳裏に、龍馬との過去が蘇ります。「オマエはアホか…あははは…頼んだぞ、南方先生…」
 仁は「坂本龍馬を蘇らすために…」と思います。
 そして、仁の「始めます…」という言葉を合図に手術が始まりました。
 仁は、ドリルで頭蓋骨に数ヶ所穴をあけて、骨片を取り出します。
 咲が「脳が膨れて来ておりますが…」と言います。
 仁は「脳挫傷のせいです…後で処置をします…」と言います。
 祐輔が「脳がどんどん膨れて来ますが…」と言います。
 仁は「脳圧を下げます…」と言います。
 仁は、気持ちを落ち着けさせていました。それを見ていた祐輔が「先生、難しい方法なんですか…」と言います。
 仁は「手ごたえだけが頼りなんで…よし、とどいた…」と言います。管の一部を抜き取った時、血しぶきが仁の目に入ります。それを見ていた祐輔が「先生、大丈夫ですか…」と言います。
 仁は「大丈夫です…」と答えます。咲はすかさず、さらしで仁の目をふきます。仁は手術を続行します。

 仁は頭皮の縫合が終わると「これで、開頭手術は終了です…」と言います。咲と祐輔はほっとしますが、仁は「続いて、大腿部外郭を切開します…」と言います。
 咲と祐輔は驚きます。祐輔が「まだ、何かやるんですか…大腿部には傷はありませんが…」と言います。
 仁は「さっき、頭の骨を取り出しましたよね…龍馬さんが回復したら、元通りにしなければ成りませんから、頭の骨を大腿部に保存しておくのです…」と言います。
 祐輔は驚きますが、仁は「それが一番確かです…」と言います。そして、仁が大腿部の手術を始めようとした時に、仁にいつもの発作が襲いかかります。
 祐輔は「大丈夫ですか、先生…」と言います。仁は懸命に立ち上がろうとするのですが、立ち上がる事が出来ません。
 その様子を見ていた祐輔が「私が遣りますんで、指図をお願いします…」と言います。しかし仁は、祐輔にはまだ出来ないと思ったのか、懸命に立ち上がろうとしますが、立ち上がる事が出来ません。
 その時祐輔が大声で叫びます。「私が遣りますんで、指図をお願いします…」と
 仁は、状況を判断して、自分では出来ないと思ったのか、部屋の片隅の壁にもたれかかりながら、指図を始めます。
 こうして、龍馬の手術は、無事に終了します。

 恭太郎は、仲間に言われます。「江戸に戻ったら、妹に他言無用と言い含めておけよ…」と、恭太郎は「はい…」と答えるしかありませんでした。
 龍馬を寝かせている部屋に、寺田屋の女将お登世が、心配して遣って来ます。
 お登世が、仁に「坂本さんは、助かりなさるのでしょうか…」と聞きます。
 仁は手術が成功したことを伝えます。そして、手術や処置の説明をするのですが、お登世には、難しすぎて分かりません。
 お登世は「私には、何やよう分りませんけど、坂本はんは生きてはりますのやろう…」と言います。仁は「もちろん…」と答えます。お登世は、これからが長い戦いになると感じます。
 お登世は、アンビュバックを見て、「それは、私に出来まへんやろか…先生方は、下でご飯の用意をしていますので、ご飯を食べて休んで下さい…それは私が遣りますから…先は長ごうおます…」と言います。

 三人は下の部屋で休息と取っていました。
 祐輔が「いったいなぜ、この様な事になったので…」と聞きます。
 咲は「兄のお役目は、坂本様の暗殺だったのでしょう…」と、重苦しい表情で言います。
 祐輔は「坂本さんを斬ったのは、恭太郎さんですか…」と、聞きます。
 咲は「いえ、東さんです。東さんの兄上が、以前坂本様に斬られて、亡くなられたそうです。その仇討だそうです…」と言います。
 祐輔は「それで恭太郎さんは、逃げはったのですか…」と聞きます。
 咲は、何と答えるべきなのか分かりませんでした。咲の心は揺れていました…
 仁は「大丈夫ですか、咲さん…」と言って、咲を気遣います。
 咲は仁に「私も医者のはしくれでございます…」と、答えます。

 江戸では、仁が製造を指導したペニシリンの為に、13人の死者が出たとの嫌疑で、山田純庵が奉行所に拘束されていました。
 奉行所の与力が純庵に「仁友堂の南方仁に、ペニシリンの偽りの作り方を教えられたと、複数の医者から訴状が出ているぞ…」と言います。
 純庵は「仁友堂は、偽薬の作り方などは教えませぬ…」と言います。
 与力は「医者たちは、礼金が払えなかったので、嘘を教えられたと訴えているぞ…」と言います。そして、純庵を拷問に掛けます。
 与力は「ここに南方仁の署名の入った免許状があるぞ…」と言います。
 純庵は拷問に耐えながら「仁友堂は、金ごときで偽薬を教えるなど…天地が逆さに成っても致しませぬ…」と訴えます。そして「仁友堂は、一文無しの老婆でも治療をして来ました…」と訴えます。しかし、拷問は増すばかりでした。純庵は、必死でその拷問に耐えていました。

 仁友堂の福田玄孝は、仁友堂と山田純庵を守るために、江戸の医学界の双璧、医学館の多紀元と医学所の松本良順、そして勝海舟に集まってもらっていました。
 多紀元が口火を切ります。「わしは、この騒動、以前の和宮様が毒を盛られた時と同じ臭いがする…」と…
 するとすかさず、松本良順も「私もそのように思います…」と言います。
 元は「和宮様の時は、あの日寺に出向くことを知り得た人物に違いない…奥女中に接触が可能で…奥医師がそれに近い人物ではなかろうか…」と言います。
 その時、吉原の女郎屋の主人、鈴屋彦三郎が現われます。
 そして、彦三郎は「おそれながら申し上げます。野風の身受けの際に、身体検査をしました時に、面目をつぶした医者がおりまする…」と言います。

 寺田屋では、龍馬の様態はなかなか好転しませんでした。祐輔が、息継ぎさせる為の袋を操作させていました。
 咲が祐輔に「変わりましょうか…」と言うと、祐輔は「大丈夫です…」と言います。
 咲は、野風から預かった手紙を持って来ます。そして仁に「先生、野風さんから坂本殿へと預かってきた手紙ですが、これを坂本殿へ読んで聞かせましょうか…本来ならば、決して開けてはならない物ですが…」と言います。
 咲は、仁から承諾をもらうと、野風からの手紙を龍馬の耳元で読んで聞かせます。
 「坂本龍馬様 お元気でござりんすか。私事でありんすが、あちきはこの度、母に成りんした…仁友堂の皆様のお力で、取り上げて頂きんした…けんど振り返って見れば、実のところ旦那様と出会うまでの間、あちきはずっと坂本様にお心を支えられてきた気がいたしんす…かなわぬ想いにやけにならずにいられたのは、坂本様があちきなんぞに、好きだ惚れたと言ってくれたからこそ…おなごはずるうござりんすなあ…胸を貸して頂いたあの日のご恩は、一生忘れはしません…何時かフランスへいらっしゃる折には、何とぞお知らせ下さいまし…心よりおもてなしいたしんす…野風」

 仁が龍馬の耳元で「野風さんから、待ちに待った逢引の誘いですよ…行かないでどうするんですか…」と声をかけます。その時、龍馬に異変が起きます。
 咲が仁に「先生、自発呼吸ではありませぬか…」と言います。
 仁は「これで、望みが持てます…もう少しですよ…龍馬さん…」と言います。

 その頃東は、蛤御門の変の時に、仁が救護所にしていた蔵の前に来ていました。
 町人が不審そうな東を見て「家の蔵に何か用ですか…」と聞きます。
 東は「長州がここに救護所を…」と言います。すると町人は「あんときは、妙な医者たちがここで治療をしていましたね…」と言います。
 東は、その時の様子を思い出しながら「一つだけ、拾ってはいけない命だったのかもしれませんね…坂本さん…」と言います。

 仁は、自発呼吸の戻った龍馬に、耳元で未来の話をします。携帯電…新幹線…飛行機などの話を、そして「…海の向こうだって、世界中どこにでも行けるんですよ…」と言います。
 仁が頭に手を遣ると、咲が「また頭痛でございますか…」と聞きます。
 仁は「遠い未来の話の時は、来ないんだよなあ…どんなんだったっけ、この後すぐの歴史は…オレ、高校の時は地理だったんだよなあ…」と言います。
 咲は「あの頭痛を起こしたいのでございますか…」と聞きます。
 仁は「頭痛が起きたら龍馬さんは、まだ生きられるという事じゃないんですか…」と言います。
 その時、仁は龍馬が目を開けているのに気が付きます。
 仁は「龍馬さん、龍馬さん…」と声を掛けます。そして、龍馬が意識を回復します。
 咲は仁に「佐分利先生を呼んで来ます…」と言って、部屋を出て行きます。

 龍馬が話し始めます。
 「妙な夢を見よったがや…箱を連ねたような巨大な蛇のような物がはい周り…空には巨大な鳥のようなもんが、雲を連れ…みんな西洋人のようないでたちで…あれは先生が住んどった世界かね…」と
 咲は、祐輔を連れて部屋の前まで戻って来ますが、龍馬の声がしているのに気付き、祐輔に「大丈夫のようですから、少し待ちましょうか…」と言います。
 龍馬は仁に「わしも先生のように、別の時代に行きたいのう…」と言います
 仁は「龍馬さん、未来に行ったら、何処に行きたいですか…」と聞きます。
 龍馬は「吉原…」と言いますが、仁は「すいません、もう無いんです…」と言います。
 すると龍馬は「島原…」と言いますが、仁は「すいません…他にはありませんか…」と言います。
 龍馬は「そしたら、保険は…」と言います。
 仁は龍馬に「民間の保険会社ならあります…」と言います。
 龍馬は仁に「会社…」と聞きます。
 仁は「カンパニーならあります…」と言います。
 龍馬は「カンパニーか…」と言って、理解します。
 仁は「そっちは、分かるんですね…」と言います。
 龍馬は「わしも、保険のカンパニーを作らんといかんなー…」と言います。
 仁は「そうですよ…本当に…」と言います。
 龍馬は「先生には、この時代はどう見えたんじゃ…愚かなことも山ほどあったろうに…」と言います。
 仁は龍馬に「教わる事ばかりでした…未来は夜でもそこらじゅうに灯りが付いていて、昼間みたいに歩けるんです…でも、ここでは提灯を使わなければ、夜は歩くことが出来ない…提灯の火が消えたら、誰かにもらわなければいけない…一人で生きていけるなんて、文明が作った幻想のような…離れてしまったら、手紙しか頼る方法が無いし…ちゃんと届いたかどうかも分からないし…人生って、一期一会だなと…
 あとは、わらった人が多いです。ここの人たちは、笑うのが上手です…
 それから、コロリの時、誰も信じてくれないのに、龍馬さんだけが、一人で患者を担いで来てくれた…あれで、私に対する風向きが変わった…
 ペニシリンの時も、龍馬さんは、千両箱を担いで来てくれた…本物の行動力を教えてくれた…
 龍馬さんは、親友で、悪友で、私のヒーローでした…」と、仁は涙を流しながら話し続けました。
 すると龍馬は、すかさず「でしたち…わしはまだ生きとるぜよ…」と言います。そして「ところで、ヒーローとはなんじゃ…」と聞きます。仁が答えようとすると、龍馬の様態が急に悪くなります。
 仁は「龍馬さん…」と叫びます。そして、「大丈夫、僕が何とかしますから…」と言います。
 部屋の前で待機していた咲と祐輔が、龍馬の様態の急変に気付き、部屋の中に入って来て、仁と一緒に龍馬の救命処置を始めます。
 龍馬は「先生…」と言います。
 仁が「何ですか、龍馬さん…」と答えます。
 龍馬は仁に「先生…わしゃ、先生の生まれてくる国を作れたんかのう…先生のように、やさしゅうて、馬鹿正直な人間が、笑うて生きていける国を…」と言います。
 仁は、うなずきながら「はい…」と答えます。
 龍馬は「ほんまか…まっこと…」と言うと、安心した様子でした。そして、龍馬の目から、一筋の涙がこぼれます。
 その時、祐輔が「脈がありません…心肺停止です…」と叫びます。
 仁は「アンビュバック装着…佐分利先生、足を上げて下さい…」と指示を続けます。そして、龍馬の体に馬乗りになり、心臓マッサージを始めます。
 仁は「龍馬さん…」と呼び続けます。そして「この後、いろいろ大変なんですよ!…いろんな所で反乱が起きたりして…城なんかも燃えたりして…西郷さんも大変な事になるんですよ!…龍馬さんがいなくなったらそうなるんです…
 まだまだやらなきゃいけない事があるでしょう…戻ってこい、戻ってこい、坂本龍馬!
 何で頭痛が来ないんだ!…頭痛が来れば、龍馬さんは生きられるのに…」と叫びます。
 その時、龍馬の声が仁にだけ聞こえます。
 「もうやめるぜよ、先生…ほれ、一緒に行くぜよ…」と…仁が龍馬の顔を見ると、穏やかな顔をしていました。

 仁は「何処に行くんですか…何処に行くんですか、龍馬さん…」と叫びます。
 仁は、龍馬の死を認めるほかありませんでした…

その時江戸では、勝が縁側で酒を飲みながら、初雪の降るのを見上げていました。
 横浜では、野風が我が子を抱いて話しかけていました。
 「おっかさんは、昔、雪になりたいと願ったことがありんす。そうすれば、何処へでも行ける…愛しいお方の元に落ちて行くことが出来る…」と…外には雪が降っていました。
 野風は「安寿、これが雪でありんすよ…」と言います。
 京でも雪が降っていました。
 東は、切腹をして果てていました。その亡骸の上にも雪が降っていました。それは、まるで龍馬の別れの言葉のようでした。
 東の遺書には、「このままでは、私が仇を討つ前に、誰かが坂本さんを討つ…そうなる前に、私が本懐を遂げようと思った…」と書かれていました。

 夜が明けると、西郷と大久保は、龍馬の死と東が切腹をしたことを知ります。西郷は、東の遺書から、東の心の内を思います。
 西郷は、大久保に「東さんは、坂本さんの作ったもんを守ったのかもしれん…もしかして、あん夜に、坂本さんがだいかに襲われて…東さんが、守りきれんち思うたとかもしれん…
 そいが仮に、徳川じゃったちすれば、大政奉還は徳川の本意じゃなかったちゅうこつになる…そげんなれば、坂本さんの成し遂げた仕事は水の泡ちなるじゃろう…じゃっどん、ただの仇討じゃったら、だいも文句は言えん…」と言います。
 大久保は西郷に「吉之助さんは、坂本さんの志ば継がれるとでごわすか…」と尋ねます。
 西郷は大久保に「あげなこつは、坂本さんにしか出来ん…おいは、おいのやり方しか知らん…」と答えます。

 寺田屋では、仁が東の真意を考えていました。
 咲は仁に「また何か、御思案されているのですか…」と聞きます。
 仁は咲に「龍馬さんは、東さんに、自分を守るために斬ったのだろう…と。その後に僕がなおすだろうと…考えていたみたいです。」と言います。
 しかし、咲は「もしもそうなら、あそこまでの傷を負わせなかったのでは…東様が守ったのは、坂本様の生き方ではないかと…」と言います。
咲は仁に「これをお登世さんから預かってまいりました。坂本様の形見だそうです。」と言って、龍馬と仁が二人で撮った写真を渡します。
 仁は「これを肌身離さず持っていたと…龍馬さんが…」と言います。
 咲は仁に「もっと、落胆されているのではと思っておりました…」と言います。
 仁は咲に「こうなると、思わなかった訳じゃないんで…どこか覚悟をしていました…まあ、何の為に来たのか、また、分からなくなりましたけど…
それよりも、咲さんこそ辛かったでしょう…恭太郎さんの事を忘れておけなどと…すいませんでした…」と言います。
 咲は「いいえ、私は、私は…」ここまで言うと、咲の目から涙が流れ、声を詰まらせてしまいました。そして「すみません、気が緩みまして…兄の事は…兄の事をお許しくださいまし…」と言うと、深々と頭を下げて仁に詫びます。
 仁は咲に「頭を上げて下さい…」と言います。
 そして仁は、咲の顔を見てふと思います。
 「咲さんは、オレがここにいなければ、こんな顔をしなくてよかったのに…オレはここの人たちの運命を狂わせているのではないだろうか…オレは何のためにここにいるのだろうか…もしも、オレがこの時代にいない方が好いとすれば…」と

 咲が一人で居る所に、祐輔がやって来ます。
 祐輔は「咲さん、先生がまた戦が起きると…予言めいたことを…」と言います。
 咲は、事情を知らない祐輔に、どう言いようもなく「また、夢のお告げがあったのではないのでしょうか…」と言ってかわします。

 仁たち三人は、江戸に戻って来ました。仁友堂の前まで来ると、門や塀には、仁友堂を誹謗中傷する落書きがありました。門は板を釘付にされ、閉門(閉門とは江戸時代の行政処置で、関係者以外は立ち入りを禁じられることです)された状態でした。
 三人は驚きます。そして仁が「いったい何が…」と言います。
 ちょうどそこに、山田純庵がみんなに支えられて、奉行所から戻って来ます。
 山田純庵は、仁に「おかいんなさいまし…」と言って笑います。その姿は、拷問で傷つけられ、痛々しく感じられました。
 仁は「いったい何があったのですか…」と聞きます。
 福田玄孝が仁に「ペニシリンの偽の製造法を教えたとして、仁友堂が訴えられたのです…」と答えます。そして玄孝が、いきさつを説明し始めます。「山田先生は、南方先生の代わりに牢に入れられ、お取り調べを受けたのです…」と
 すると純庵が「何、たいしたことはではございません。嫌疑は晴れましたので…」と言います。
 玄孝は仁に「多紀元先生、松本良順先生、勝安房守様に、おしのびで鈴屋に集まって頂き、相談を致しました…そこへ亭主が現われ、亭主が申すには、野風さんの身受けの折に、南方先生に恨みを持った医者がいると…名前は三隅俊斉である事が分かりました。
 勝様のお考えで、策を仕掛けることになりました。
 奥医師の三隅に分かるように、噂話を仕掛けました。『まだうわさじゃが、仁友堂の嫌疑は晴れる…』と…。
 すると、やはり三隅が動き出しまして…訴えた医師たちを集めて、酒席を設けました。三隅は、労をねぎらうと言って、毒殺しようとしたのです。『くだり物の逸品でしてな』と言って、酒に毒を仕込んでおいたのです。(下り物とは、上がた[関西]から仕入れた商品の意味で、この場合、灘か伏見の酒という事になります。)
 その時、次の間にお控えになっていた、多紀先生と松本先生がお出ましになり…
 多紀先生が「後にせい…その逸品の酒を我らに飲ませい…」と仰いました。続いて松本先生が「心配いらん…毒が入っておろうとも、南方医師になろうた胃洗浄の用意をしてきておるから…」と申されました。
 すると三隅は、事が露見したことを悟り、自ら毒入りの酒を飲もうとしましたが、取り押さえられました。三隅は、南方先生を罪人として、おとしめようとしたのでございます。疑いが晴れる事になって良かったです。」と説明しました。
 仁は玄孝の説明を聞きながら「三隅にオレが恨まれていなければ、こんな事には成らなかったはずなのに…」と思います。
 山田純庵は、自分自身を責めている仁の手を両手で確り握りしめて「ペニシリンはお守りしましたぞ…先生!…これまで以上に励まねばなりませんぞ…南方先生!」と言います。
 仁の頭の中には、龍馬の斬られる姿が蘇ります「御免…ワー…」そして、未来や野風、咲や恭太郎…江戸で起きた様々な出来事が、走馬灯のように蘇ります。仁は、自分の存在が、みんなに与える不幸を思わずにはいられませんでした。
 そして仁は、決意します。
 「あのう…仁友堂はこれで終わりにさせて下さい…」
 仁の突然の申し出に、仁友堂の面々は、呆気にとらわれます。
 仁は続けます「私は疫病神だと思います…私がここに来なければ、皆さんは、医学所や医学館で順調に出世されて、こんな目に会うような事は無かったと思います…私と関わることで、遣りたくもない仕事を遣らされたり…助けた誰かが、誰かの命を奪うような事になったりはしなかったはずです…
 患者さんだって、私が治療をしなければ、苦しみを長引かせたりしなかったはずです。
 それに…私の頭の中には癌が進行しています。取り除かせることは、どうやっても出来ません。これからは、仁友堂を続けて行くことも難しくなると思います。
 皆さんの事は、松本先生にお願いしますので…
 本当に、勝手ですみません…」
 仁はこう言うと、深々と頭を下げて謝ります。
 仁友堂の面々は、当惑します。しかし、山田純庵は納得が出来ませんでした。
 純庵は仁に「先生は、私たちに病人を置いて出て行けと仰るのですか…」と言います。純庵の目からは、涙があふれていました。
純庵は続けます「そのようなお言葉に従っては、緒方先生に顔向けすることが出来ませぬ…」と…
 純庵は、仁の腕をつかむと、壁に掲げられた額の元に連れて行きます。その額は、緒方洪庵の言葉を仁が掲げたものでした。
 額には「国の為 道の為」と書かれていました。
 仁は「山田先生…」と言います。
 そこに書生が呼ばれて「先生が使いにくいと仰っていたので、持ち手を工夫してみました…」と言います。
 医師の一人が「先生、持ってやって下さい。これからもこいつが、道具を工夫しますから…」と言います。
 仁は、その道具を大事そうに手に取ります。
 すると佐分利祐輔が「先生、私の夢は、一番の医者になることです…先生が疫病神でも、鬼でも、何や変な夢ばっかりみとってもかまやしまへん…出会えたことを後悔したことなど、一瞬たりともございまへん…」と言います。
 仁は、仁友堂の面々を見まわします。
 その時咲が「先生、私どもに、持てるすべてをお教えして下さいまし…国の為、道の為に…」と言って、仁に頼みます。
 仁は涙を流しながら「はい…」と答えます。仁の苦しみは、江戸の仲間たちの真心で癒されようとしていました。

 仁は、いつもの丘で恭太郎と会っていました。
 仁は恭太郎に「あの日見たことを話すなということですか…」と言います。
 恭太郎は仁に「咲と母の為に、何とぞお含み下さい…己がどれほどいやしい事を言っているのか、分かっているつもりです…何とぞお願い致します…」と言います。
 仁は恭太郎に「恭太郎さん、龍馬さんの最期の言葉は、『この国をちゃんと作れたか…』でした…死んでいった人に出来る事は、その人たちが、『もう一度生まれて来たい国を作ることだ…』と言っていました…この事を忘れずに前を向きませんか…」と言います。
 恭太郎は「はい…」と答えます。

 仁は思います「それからオレは、仁友堂を続けながら、松本先生、多紀先生に頼んで、医術の講義をあらためて続けさせてもらった…だけど、頭痛は頻繁に起きるようになった…」と
 江戸の人たちは、仁に温かく接してくれました。茶店によると喜市が「先生、元気が無いな…ちゃんと飯食ってるのかよ…」と心配してくれたり、茜が「ちゃんと食べなよ…」と言って、餡ドーナツの新商品を持って来て、世話をやいてくれました…
 江戸の町では、町民に「鳥羽伏見で負けたって…」という噂が流れ始め、キナ臭い世の中になって来て、武力討伐は止められぬように成っていました。

 西郷の官軍は、錦の御旗を掲げて、品川までやって来ていました。

 勝は仁に会いに、仁友堂に来ていました。
 勝は仁に「先生、胃の腑が痛いんで…」と言います。
 仁が勝に「宜しければ、診ましょうか…」と言うと、勝は「訳は分かっているからいいよ…」と答えます。
 勝は仁に「明日の西郷との談判だがよ…上手くいかなかったら、てめいらの手で火をつけろと新門に頼んでいるんだよ…」と言います。
 仁は勝に「西郷さんと話し合いに…凄い掛ですね…」と言います。
 勝は仁に「先生、これだけ教えてくれ…江戸は火の海になるのか、ならねいのか…これが禁じてとは良く分かっているんだけどよ…」と言います。どうやら勝は、仁の正体に気が付いているようです。勝は、佐久間象山の義理の兄であり、江戸で一番の軍学者です。西洋文化の知識も豊富で、咸臨丸でアメリカまで行った人ですから、当然と言えば当然なのかもしれません。
 仁は、勝に教えていいものか悩みます。そして、悟られないふりをして「火の海…西郷さんと談判…」と言いながら、考えているふりをします。そして…
 仁は勝に「それって、勝先生次第じゃないですか…」と言います。
 勝は笑いながら仁に「そう…そうやな…」と言います。以心伝心で勝は理解したようです。

 勝と西郷は、最後の談判をしていました。
 勝は西郷に「江戸を火の海にしたって…列強(外国)の餌食にするだけだぜ…所詮は茶碗の中の喧嘩だ…」と言います。
 西郷は勝に「坂本さんに、同じ話は聞き申した…」と言います。
 すると勝が語気を強めて「あんたは勘違いしているぜ…オイラがアイツを真似しているんじゃねえよ…アイツがオイラの真似をしているんだぜ…アイツとオイラは一緒だぜ…アイツは終わっちゃいねいんだよ…西郷さん…」と言います。
 勝は弟子の龍馬の遺志を形に残そうとしていました…
 西郷は勝に「分かり申した…」と言います。こうして、江戸城の無血開城がぎりぎりの時点で決まりました。

 仁は、祐輔の執刀する手術に付き添いながら考えていました。
 「龍馬さん、今手術しているあの患者はオレだろう…あんな腫瘍を放置したら、確実に死ぬ…だとしたら生きる…今持てる力を伝えよう…命を救う技術は、刻みつけられて行くはずだ…この人たちの手に…」と
 その時、龍馬の声が仁に聞こえます。
 「そのとおりぜよ、先生…」
 仁は、自分の耳を疑います。そして「えっ…」と声が出ます。それに気づいた咲が「どうかなさいましたか、先生…」と声を掛けます。
 仁は何も無かったかのように「いえ…」と答えます。しかし、龍馬の声がまた聞こえます「ここぜよ…先生…」
 仁が、龍馬の声が聞こえる方向を向くと…そこには、未来で頭蓋内から摘出した、あの胎児の標本がありました…仁は驚きます。そして、龍馬と初めて会った時からの事が走馬灯のように蘇ります。
 「龍馬を追って非常階段を登ったことや、そこから落ちた事…緒方洪庵や佐久間象山の顔…未来や野風…咲や恭太郎…」全てが頭の中を駆け巡ります。そして、いつもの発作が仁に襲いかかります。仁は薄れて行く意識の中で「オレは壊れているのだろうか…」と思います。

 仁は、床についていました。もう、体が思うように動かなくなっていました

 野風は仁友堂に来ていました。
 野風のところに咲がやって来ます。
 野風は咲に「お忙しそうでありんすな…」と言います。
 咲は野風に「申し訳ありません…お伺いしたかったのですが…こちらが文でお知らせした、坂本様の形見の品でございます…」と言って、かんざしを渡します。
 野風は咲に「坂本様がお亡くなりになった日は、確か、霜月の22日の夜と…」と言います。
 咲は「はい…」と答えます。
 野風は咲に「あの日は、初雪が降りんしたなあ…」と言います。野風は、龍馬が別れを告げに来たのだと思いました。「坂本様、お久しぶりでありんした…」と言います。野風の目には、涙があふれていました。
 そして野風は「ところで、先生はずっとあのご様子で…」と聞きます。咲は「はい…」と答えます。
 野風は咲に「仁友堂でも、治せぬ病でありんすか…」と尋ねます。
 咲は「手は、一つだけございます…なれどそれは、人の力ではどうにもならないことで…」と答えます。
 野風が咲に「それは、元の世にお戻りになることでありんすか…」と尋ねます。
 咲は「はい…」と、涙を流して答えます。それは南方仁との別れの時でもありました。
 ここで今回は終わりです。最終章後篇に続きます。


 
 こうして、最終章の前編が終わりました。
 いろいろな事が分かりましたが、まず東の事ですが、やはり自ら龍馬の事を討とうと思っての事だったのですね。最後の最後まで龍馬の事を守ろうとしたのですが、守りきれないと思った時に、どうせ討たれるのであれば自分の手でという思いがあったのでしょう。それが武士の宿命なのかもしれません。
 また、西郷が深読みをしていましたが、確かに、徳川からの刺客によって斬られたとしたならば、大政奉還という偉業を徳川の方から反対したことになり、龍馬の志、日本を列強の餌食にさせないという事が崩れる恐れが生じます。それを恐れて東が龍馬を切ったのならば、一筋の道が生じるかもしれません。しかし、あの短い間に、判断出来るものでしょうか…私には断定することが出来ませんでした。ただ言える事は、東が龍馬を心から尊敬していた事は間違いないと思います。

それから、大久保が西郷に「吉之助さんは、坂本さんの志ば継がれるとでごわすか…」と聞いた時に、西郷は「あげなこつは、坂本さんにしか出来ん…オイは、オイのやり方しか知らん…」と答えましたが、この不器用ではあるけれど、人に信頼される実直さが日本を救ったのだと思います。
 後に勝が、西郷に「あんたは勘違いしているぜ…オイラがアイツを真似しているんじゃねえよ…アイツがオイラの真似をしているんだぜ…アイツとオイラは一緒だぜ…アイツは終わっちゃいねいんだよ…西郷さん…」と言って説得しますが、西郷の「敬天愛人」的心が、それを受け入れ、江戸城の無血開城を実行させたのだと思います。

 それから勝ですが、彼は幕臣でありながら、坂本龍馬という得体の知れない人間を弟子として立派に育て上げたという事が、幕末における彼の存在を高めたのだと思います。彼は、坂本龍馬の陰日なたとなり、自分の思想を龍馬に植え付けて行ったのではないでしょうか。とにかく先の読める人だったと思います。この物語には出て来ませんが、龍馬をいろんな重要人物と最初に引き合わせたのは勝だったのですから…

 さて、仁の事ですが、仁は仁友堂のみんなに「私は疫病神だと思います…私がここに来なければ、皆さんは、医学所や医学館で順調に出世されて、こんな目に会うような事は無かったと思います…私と関わることで、遣りたくもない仕事を遣らされたり…助けた誰かが、誰かの命を奪うような事になったりはしなかったはずです…
 患者さんだって、私が治療をしなければ、苦しみを長引かせたりしなかったはずです。」と言います。私はこれがすべてだと思います。仁は、心が綺麗すぎるというか…あまりにも実直で…こういうタイプは、腕というか技術は良くても障害にぶつかると、ぽっきり折れるタイプなのではないでしょうか…事実、未来の手術に失敗した後は、症例の少ない珍しくて難しい手術(医学者として、うま味のある手術)は、同僚に譲り、雑用的な簡単だが手間の掛かる割の合わない手術ばかりを引き受けていました。そして、植物人間と化した未来の姿を見続けるのが人生のすべてだったと思います。だからこそ、緒方洪庵のような大家に会う必要があったのではないでしょうか。そして、自分は決して一人ではないと、分からせてくれる道の仲間が必要だったのではないでしょうか…仁は江戸に来てそれを得たのだと思います。

 最後に咲の事ですが、どうやら覚悟が出来たようです。愛する人とは離れたくない。しかし、このまま仁が江戸にいても生きる事は出来ない。ならば未来へお帰りになることを願うしかない。いろいろ複雑な事が胸中を交錯しているのでしょうが、愛する人に生き続けてもらう事が一番の幸せと思ったのでしょうか…最終章の後編は、たぶんその辺が描かれるのではないでしょうか。
 それではこの辺で、最終章後篇に続きます。