2020年6月13日土曜日

「復活の日」を読んで思うこと


「復活の日」を読んで思うこと
(新型コロナによる自粛生活で読んだ本)

 新型コロナで自粛生活をしていた私は、本でも読もうかと書棚の前に立つと、一冊の文庫本が目につきました。今読み直すべきだと誰かが言っているようでした。遠い昔に読んだ記憶がありました。パンデミングを描いた「復活の日」です。
 角川書店が全盛期のころ、文庫本と映画をセットにして売っていた時代がありました。キャッチコピーは、「読んで観るか、観て読むか」この時代若者は、喫茶店や電車バス等で文庫本を読むのがトレンドでした。まるで現代の若者が、スマホをいじくるように…
文庫本は数百万部と売れ、映画の観客動員は増え続けました。作者はSF小説の巨匠、小松左京氏、主演は草刈正雄さんでした。現在、日本で地震がおきると、韓国のネット上で、「日本沈没」と歓喜が上がるのは、小松左京氏のもう一つの代表作「日本沈没」が出典です。草刈正雄さんは、現在でも大河ドラマ等で活躍されている大スターですが、当時は、モデルから俳優に転向されたばかりのアイドル的二枚目俳優でした。
最初に書いておきたいと思います。この本は、ノストラダムスの大予言よりも当たっているかも知れません。不思議です…

前置きはこれくらいにして、あらすじを簡単に書いておきます。

196X年冬、欧州の生物兵器研究所から、ウィルスが持ち出されました。持ち出した研究員は、ノイローゼ気味で、私は金の為に持ち出したわけではない。このウィルスは、宇宙で採集したせいか、非常に取り扱い方が難しい。私にはこれ以上分析する事ができない。優秀な研究員に分析してほしいと言って、スパイに渡しました。
スパイは、レーダーに探知されるのを嫌い、第二次世界大戦で使われていた旧式の木製飛行機に積んで運ぶことにしました。おり悪く、悪天候によって木製飛行機はアルプス山中に墜落しました。現地警察は、懸命に捜索したのですが、確たる物証がなく、単なる国籍不明機の墜落事故として処理をしました。それからしばらくして、ウィルスを持ち出した研究員は自殺しました。
雪がとけ春になると、事故現場周辺の村々で、奇妙な風邪が流行りだしました。この新型インフルエンザは、瞬く間に世界中をパンデミングの恐怖に引きずり落としました。軍関係者は、盗まれたウィルスが引き起こしている事に気づきました。ただ、新型インフルエンザだけでは割り切れない、もう一つの症状があることにも気づくのですが、軍の秘密として公表することは避けました。この事が、世界を滅亡に導いたのです。

新型インフルエンザは、あっという間に世界中に伝染し、パンデミングを引き起こしました。人々は死に至り、当時の米国大統領は、前大統領一派が何をしでかすか分からないと思い。最後の決断を下します。自身は病に侵され身動きが出来ないので、副大統領に核防衛システムの電源を切るようにと命じます。しかし副大統領は、前大統領一派の将軍に阻まれ電源を切る事ができませんでした。これは何を意味するか、米国が核兵器で攻められたら、自動的に核兵器を積んだミサイルが発射されることになります。核戦争がおきるという事でした。

人類は、病に侵され、苦しみながら滅亡して行きました。ただ、一か所だけ、まるでノアの箱舟によって生かされるような人たちがいました。それは、南極大陸で越冬しながら、気象や地質、寒冷地研究をしていた各国の越冬隊員たちでした。当時の地球の人口35億人が滅亡し、南極の研究者と研究者をサポートする軍人1万人だけが生き延びることになりました。
ある日、米国の司令官ジェームズ・コンウェイ海軍中将から各国の越冬隊隊長に無線で会議をする提案がされました。コンウェイ提督は、「すでに各国の越冬隊は、母国との連絡も取れない状態だと思います。たまにアマチュア無線がつながるぐらいです。我々が生き延びる為には、統一組織を作るべきだと思いますが、それぞれの考えを聞かせてほしい。」と訴えかけました。
各国の隊長もコンウェイ提督の意見に賛成し、一度会って会議を開く事になります。そこで、コンウェイ提督が、南極大陸連合の代表となります。

そのころ、地震学者の吉住たちは、アマチュア無線から重要な情報をもらいます。アマチュア無線の相手は、息も絶え絶えに「WA5PSに周波数を合わせろ…」と言い残して死んでいきます。
吉住たちは、専門家を呼び寄せ、テープレコーダーをセットし、WA5PSに周波数を合わせると、重要な情報が一方的に伝えられました。
「これは大変な代物だな…保険班会議をひらいて検討してみなきゃ…」
「いや…微生物学者にも加わってもらわないと…」
「パイフェル菌、あるいは黄色ブドウ状球菌にひそむ、新種ウイルスの感染症だと?…できれば、各国基地にきいて、微生物の権威に集まってもらって、検討してもらう必要がある…」
「終わった…ハローWA5PS…」返事はなかった。…だが数分おいて、また突然WA5PSがしゃべりだした。さっきとまったく同じ文句を、また冒頭から…
「反復テープだ!…WA5PSは…もうおそらく死んだんだ…最後に貴重な情報を聞かせてくれた…どんな人だか知らないが…きっとえらい学者だったんだろう…」

その後、海底で任務を遂行していた三隻の原子力潜水艦から、南極大陸に行動を共にしたいと連絡が入った。しかし一隻の原潜の中で、新型インフルエンザが発生したことが分かった。コンウェイ提督は、他の原潜に撃沈命令を出した。
他の原潜(米ソ一隻づつ)は、南極大陸と合流することを許された。これで、海底から五大陸を調査観察する事ができるようになった。

数年がたったある時、突然吉住に、コンウェイ提督から連絡が入った。
「先日提出されたレポートは、大変よくできている。会議の席で、各国の責任者に分かりやすく説明してもらえないか。」と…
吉住は「地震予知のレポートを、政治委員に説明するってどういう事だろう。」と思いつつ、快く了解した。
会議で吉住の説明が終わると、コンウェイ提督の表情が暗く硬かった。他の委員も同じだった。吉住は、「そんなに心配されなくても、地震がおきるのは、アラスカを震源とする北米大陸ですから…南極には何の影響もありません。」といった。
コンウェイ提督は「君の計算では、地震は確実に起きるんだね。それで規模は…」と聞き返した。
吉住は「潜水艦で海底の調査をしただけで、上陸して調査をしたわけではありませんので、誤差はあると思いますが、地震は確実に起きると思います。規模は、マグニチュード8~9で、過去最大級の地震がおきると思います。」と答えた。そして「南極は、かすかに揺れるかも知れませんが、津波も到達しませんし、そんなに心配しなくても好いと思いますが…南極は無縁です。」と…
するとコンウェイ提督が「いや、無縁とは言い切れない…北米大陸は無人であるが、まだ生き残っているものがある…」
「何が生き残っているのですか?」
「人間の増悪だ…増悪の糸が、人類死滅後も無人の土地に生き残り、それがアラスカの大地震を南極と結び付けている…
…このバカげたことの原因は、アメリカ始まって以来のバカげた大統領…シルバーランドによって作られたものだ…」
「前大統領の…」
「そう…あいつは…ほとんど考えられないくらいの極右反動で、まるで気違いじみた男だった。南部の大資本家と称するギャングどもの手先で…二十世紀アメリカのアッチラ大王だった。増悪、孤立、頑迷、無知、傲慢、貪欲…こういった中世の宗教裁判官のような獣的な心情を勇気や正義と思い込んでいた男だ。世界史の見とおしなど全然なく、六年前にはもう一度、アカの国々と大戦争をおっぱじめるつもりだった。…なぜアメリカ国民が選んでしまったのか、いまだに分からない。私は軍人であるが、あの時ばかりは、アメリカの後進性に絶望した…」
「そのシルバーランド大統領がどうかしたんですか?」
「復讐するは我にあり、われ、これをむくいん…これがやつのお得意の文句だったよ…そしてやつは、ARSをつくった…」こう言うと、コンウェイ提督は、カーター少佐を呼び、ARSについて説明させた。
ARSというのは…いまからざっと八年前、当時の大統領シルバーランドと、当時統合参謀本部の腕ききといわれたガーランド中将の作り上げた…全自動報復装置のことであります…」
早い話が、アラスカで地震がおきて、アラスカの基地が破壊されると、ARS中央指令所は六分間の警告電波を発し、これに基地応答がなければ、核弾頭を付けた大陸間ミサイルが、自動的にソ連へむけて発射されるという事だった。

ロペス大尉が重い口をはさんだ。「しかし…シルバーランドは、次の大統領選挙でやぶれた。最後の大統領は…全面核兵器廃止協定を実現させようとしていた…リチャードソン大統領が、そのスイッチを入れたとは考えられないのでは…」
カーター少佐は「五分五分で、生きている可能性があります。…シルバーランドは、なお勢力を残存させていた。ガーランドは引き続き、将軍の地位にありました。私が南極に派遣された時、まだシステムは撤去されていませんでした。シルバーランド派の誰かが、破滅寸前の混乱に乗じて、ホワイトハウスに侵入して…」
「その可能性はある。」とコンウェイ提督いった。

場内にはシーンーとした空気が張り詰めた。誰も身動きしようとはしなかった。…死滅した世界に、まだ生きながらえている増悪のメカニズム…今偶然の手が、その引き金を引こうとしている。
フランス代表のラ・ロシェル博士が「核ミサイルは、無人のソ連へむけて発射されるだけでしょう。それが南極に関係をもって来るわけは?」
ソ連代表ポロジノフ博士が、ソ連国防省の、ネフスキイ大尉を紹介した。
「実を申しますと…ソ連にもARSとまったく同様のシステムが存在します…ソ連のミサイルの何発かは、南極を向いている公算があります。」
場内は、騒然となった。アラスカが地震で破壊されると、アメリカが自動的に核ミサイルを発射し、その報復としてソ連も核ミサイルを発射する。そのうちの何発かは南極に向かってくる可能性があることが分かったからである。
コンウェイ提督は席を見まわして「ばかげた悪夢のようなことだが…南極に、ある確率で危険がせまっていると考えざるを得ない…」といった。
こうして、ワシントンとモスクワに自動核防衛システムの電源を切る為の決死隊を潜水艦で送ることが決まった。ワシントンには、カーター少佐と吉住、モスクワにはネフスキイ大尉とマリウスというひげもじゃの大男に決まった。
吉住は、みんなから「軍人でもないのに、君が行く必要は無いだろう…」と言われた。しかし「僕が言い出したことだ…それに海底からしか調査していない。陸地で調査していないので、地震の起きる正確な時間が分からない。何故か早まるような気がする。僕が行った方が好いだろう…」と考えていた。
他の人々の4人を見る目は複雑だった。もう帰ることは無いだろうという事が分かっていたからである。

吉住とカーター少佐の乗る潜水艦は、大西洋を北上した。二人の犠牲(いけにえ)は、艦内ではお客様だった。二人とも別々の個室を与えられ、お互い同士も、乗組員とも、ほとんど顔を合わすことなく、閉じこもったまますごした。カーター少佐は何をやっているか分からないが、吉住はポータブル型の電子計算機を個室に持ち込み、来る日も来る日も計算を続けていた。
潜水艦が北回帰線を過ぎたころ、吉住はド・ラ・トゥール博士の訪問をうけた。医者で微生物学者の博士は言いにくそうに「まだ実験期間がひどく短いし…君たちは、特攻隊なので…どうも言い出しにくかったのだが…」
「なんでしょう?」
「リンスキイウイルスというのは正しくない。リンスキイ核酸のことだが…あまり自信は持てんのだが…宿主菌WA5PSもろとも、一種の変成体ができた…中性子をあてたらで来たんだよ。普通はガンマ線とかX線とかあてるんだけど不思議だよ……リンスキイ核酸変成体は、普通のファージのように、WA5PSのみを破壊して、組織培養された人間の細胞中ではほとんど増殖しない。…こいつが、人体内でのリンスキイ核酸増殖を、あるいは人体内での宿主細菌の増殖分裂を、少しでも抑えてくれたらいいんだがね…WA5PSは取り扱いが危険すぎて、南極では一度も、動物実験をやっていない…」
「で、ぼくに、あちらで生体実験をやれというのですね。」
「すまない…いくらなんでも、人間をモルモット代わりに使わせてくれなんて、言えなかったんだ…」
「喜んでやりますよ」突然個室の入り口で声がした。いつの間にか、カーター少佐が来て立っていた。
「ジェンナーだって、ヒデヨ・ノグチだって、自分自身や自分の肉親の体を実験台に使った。どうせ死ぬんだから、なんだってやります。」
「それなら…出発する時に、注射する。出来れば南極と連絡できるぐらいの短波通信機を持って行かせてくれるように、艦長に話そう」
吉住は「持って行く品物の中に入っています。死ぬまで報告してあげますよ」と…

潜水艦はいよいよバーミューダ島をすぎ、ヴァージニア州に近付いた。八テラス岬を北へすぎると、もうチェサピーク湾だった。…前の晩、艦内で、ふたたび別れの晩餐がひらかれた。その晩は、艦長のマクラウド大佐が、一番酔っ払った。暁方、艦の当直が、海底に鎮座している潜水艦の船殻に、異常震動が感じられたと報告があった。どこか遠いところの地震らしかった。そのことが出発の予定を一時間ほど早めた。
浅い湾奥を注意して徐行しながら、徐々にポトマック河口へ向った。艦艇に微かなショックがあって艦は止まった。マクラウド大佐が「諸君…ワシントンだ…」と言った。
ド・ラ・トゥール博士の注射をすませた二人は、ゴム製の潜水服をつけ、脱出ハッチから外に出て、艦橋の側の物入から資材やゴムいかだをを引っ張り出した。水面に浮かび上がると二人はゴムいかだによじのぼって漕いで言った。
西ポトマック公園のほとりにつけ上陸した。舗装道路には乗り捨てられた自動車やバスがいくつも止まっているのが見えた。まわりには、泥とほこりに埋もれて、累々たる白骨の列があった。二人はゴムボートを水際に引き上げ、黙々と防水袋をといた。
袋の中には、食糧と、衣料と、短波通信機、そして二丁の自動拳銃がでてきた。「身を守る為か、それとも自殺しろという謎かな?」カーターは低くつぶやいた。
二人がホワイトハウスに行く間、累々たる屍が、無造作に横たわっていた。この中に子供の屍を見たカーターは「ベッシイ…」と言ってひざまずいた。カーターがひざまずいた瞬間に、ふと何かが血の中をすばやく走るのを感じた。それが足元の大地の微かな震えであったか、それとも一種のカンであったかは分からなかった。
「くるぞ!カーター」「いそげ!五分以内に…」カーターは骨からはじけるように飛び離れると走り出した。ホワイトハウスはもうそこだった。
ホワイトハウスの庭には、人の背丈を越える夏草が生い茂っていた。「気をつけろ!」カーターは、吉住をかばうように先を走った。しばらくして「ワッ!」と突然カーターが悲鳴を上げた。カーターが「蛇だ!」と言った瞬間銃声が響いた。「いっぱいいるぞ!気をつけろ!」吉住も拳銃で蛇を打った。カーターは蛇にかまれていた。

大統領官邸は幽霊屋敷のようだった。いたるところに頭がい骨が転がっていた。二人はエレベーターをこじ開けると暗闇の底を見つめた。
「誰か降りているぞ…」
「階段ではいけないのか…」
「うんざりするほど非常ドアがあるから、かえってのぞみうすだ。」
カーターと吉住は、エレベーターのケーブルをつたって、地下九階まで、落ちるように降りて行った。エレベーターの屋根に降りた二人は、八階のドアを開けるのに手間取った。やっとこじ開けて八階に上ると、今度は真っ暗な廊下で、九階に下りる階段を見つけるのに手間取った。その時吉住は、足もとに再び、今度こそはっきり微かな震動を感じた。
吉住は、必死になって頭の中で計算した…今来たのが、本当にP波か?…アラスカとワシントンの間ではP波で六分かかる。すると今から六分前にアラスカで初動が起こり…数分後に大震動が来て基地が破壊され、ARSはその瞬間から六分間、時を刻み…
その時カーターが「吉住、かくれろ!」と叫んだ。カーターは、吉住の肩を抱える様にして、安全な部屋に誘導した。
「階段は?」
「見つけたが、シャッターが下りていたので、手榴弾を二つ使った。伏せて口を開けろ!」その瞬間、すさまじい轟音がして、ドアがバタンと開いた。火薬臭い熱風がどっと吹き込んできた。
二人は、シャッターのめくれ上がった隙間から、やっと這い込んだ。
「まだ間に合うか?」
「わからん…祈るなら今だ!」
九階の長い廊下で、二人は骸骨につまずいて、もつれ合って転んだ。暗黒の廊下の一番奥で、真っ赤な光の点が、たった一つ点滅していた。「あれだ!」カーターは叫んだ。二人は起き上がって走り出し、またもや骸骨にからんで、したたか転んだ。骸骨たちは、笑う様な顔をして、足もとの暗がりにひそみ、その骨だけの手をからめて、死と寸秒を戦う者の足を引っ張っているようだった。
やっと跳ね起きた時、赤い点滅はオレンジ色に変わり、緑色へと変わった。ミサイルは発進した。壁のすぐ側には、軍服を着た骸骨が転がっていた。
カーター少佐は、骸骨をランプで照らしながら、息が漏れるようにつぶやいた。「ガーランドだ…かっての俺の上司だ…とうとうやったな。お前とシルバーランドの…」と
吉住は、携帯無線機で潜水艦と連絡を取った。「こちら吉住…緊急事態A、全ミサイル発射されました。…間に合わずに申し訳ありません。至急湾外退避。南極に警報願います」
「了解…」かすかな声が答えた。
「それから…ド・ラ・トゥール博士にお伝えください。せっかくの実験ができなくなって残念ですと…以上」

闇の中で、カーターのつぶやきが聞こえた。「さて…これで何もかもおしまいだ。」
「ああ…おしまいだ…」
ふと気づくとカーターは、床にあおむけに倒れていた。カーターの左手首は、ゴムスーツがくいこむぐらいはれ上がり、顔半分も紫色にはれ上がっていた。毒蛇にかまれたまま、あんなに動き回って、今までもったのが不思議なくらいだ。
ナイフでスーツを切り裂き、モルヒネを打ってやろうとした吉住を、カーターは右手を振って止めた。「どっちみち、四十五分後には二人とも死ぬんだ…ちょっと明かりを向こうに向けてくれ…」
カーターが苦し気にうめきながら、身動きしているのが分かったが、吉住は動かなかった。
カーターはつぶやいた。「妙なもんだな…あんたとはろくに話もしなかった。あんたのことをまるっきり知らないんだからな…そのあんたが、俺が死ぬときに傍にいるなんて…考えもしなかった。」
「僕もだ…妙なもんだな…」
「明かりを向けるな!」カーターが鋭い声で叫んだ。つづいて微かに「ベス…」とつぶやくと、闇の中に轟音がとどろき、鋭い朱色の閃光が走った。カーターは頭を打ちぬいて自殺した。
「カーター…」と声に出さずに吉住はつぶやいた。それからどくどく流れるあたたかい血に手をひたし、カーターの両腕を胸の上にくみあわせてやった。
「これでみんな終わった…」と吉住は思った。

ある年の春、サウスカロライナ州の無人のアスファルト道を南へ向って歩き続ける一人の男がいた。男は着物らしい着物もほとんど身に着けておらず、髪もひげもぼうぼうで、足にはボロ切れを巻き付けていた。「南に行くんだ…」男は時おり、太陽を見上げてそうつぶやいた。
行く手に時たま、巨大都市の廃墟があらわれたが、男はなぜか近付かなかった。夜はたいてい野宿、空腹になれば木の実やげっ歯類を捕まえて、大きなナイフで切り裂いて食べた。
いったんフロリダの袋小路に迷い込み、どうにか夏の盛りには、テキサスのはずれまで来ていた。陽にやけ、ガリガリにやせこけた男は、ここで病気になり、長い間一軒の家の中で苦しんでいた。
夏の終わりになると、男はまたつぶやいた。「俺は南へ行くんだ…」熱にうかされたような、その眼には、とうの昔に正気がうせていた。それでも彼は歩き続けた。
パナマ運河をどう横切ったのか、男は翌年の春コロンビアにいた。三年目の秋、アルゼンチンの大平原を見下ろす丘陵地に立って、空飛ぶ鳥の群れに向かって、「俺は南へ行くんだ!南には仲間がいるんだぞう!」と叫んだ。

災厄の年から十年がたっていた。南極から南米の先端に、数百人の人が渡り住んで、コロニーを作っていた。そして、あの男と偶然出くわした。
「ヨシズミだわ!」転げるように走り出た白髪の老婆は、最後の一夜を共にしたイルマ・オーリックだった。イルマは、蓬髪のしらみだらけの男の頭をしっかり胸に抱え、しわぶかい顔を涙にぬらしながら叫んだ。「生きていたのね…私の息子…六年間も…あの水爆や細菌にやられずに…六年間も…よくまあワシントンからここまで…」
男の汚い顔が、イルマの涙でぬれた。男の眼も涙にあふれた。…しかし、その眼の失われた光はついに戻って来ず、イルマの胸にかきいだかれたまま、ただ嬰児のように「ああ…ああ…」と叫ぶばかりだった。
(終)

最初に、ノストラダムスの大予言よりも、この本の方が当たっているかも知れないと書いたので、少しだけ私の考えを書いておきます。

この「復活の日」の初版は、1964年です。何と、前回の東京オリンピックが開催された年に発行された事になります。そして今年、2020年は二回目の東京オリンピックが開催されるはずでした。しかし、皆さんご承知の通り、新型コロナウイルスのパンデミングによって一年延期となりました。不思議な縁といいましょうか、何かを暗示しているようでもあります。
ではなぜ、作者はパンデミングの小説を書いたのでしょうか。それは、1957年のアジア風邪(インフルエンザA型)に影響されているのではないでしょうか。世界では200万人以上の死者が出、日本では5700人の死者がでたそうです。1968年には香港風邪も発生しています。この時代、インフルエンザのパンデミングは、死活問題だったようです。(草刈正雄さんの主演映画が製作されたのは、1980年だそうです。)
また、この時代は、米ソ冷戦真っただ中で、軍拡競争、核兵器開発競争が盛んにおこなわれていました。SF作家には、美味しい題材だったかもしれません。何せ日本人は核アレルギーですから…そして、半世紀以上が過ぎた2020年、新型コロナのパンデミングが起きた時、「復活の日」に書かれた内容とよく似ているのです。

最初に新型コロナの異常に気付いたのは、中国の眼科医でした。「今、世の中では大変な事が起きている…」とSNSに書きました。すると、中国当局が眼科医を人心を騒がしていると罰しました。それでも眼科医は、SNSに書き続けました。次第に新型コロナの患者が増え、懸命に治療し続けた眼科医は、新型コロナに感染して亡くなられました。
新型コロナの患者が増えて隠す事ができなくなった中国当局は、あろうことか米軍が新型コロナウィルスをばらまいたと言い出しました。怒った米国は、あらゆる情報網を駆使して調べ上げ、中国の細菌研究所から漏れたと発表しました。その間にも新型コロナの感染者・死者が増え、手が付けられなくなりました。
中国当局は、お得意の独裁で、武漢やその他の都市をシャットダウンして、感染を防ぎました。そして、犯罪者だったはずの眼科医は、英雄へと祭り上げられました。何と中国らしいお話です。
「復活の日」の初版から半世紀以上が過ぎ去り、冷戦の相手国だったソ連は無くなり、一定の勢力はロシアが受け継いでいますが、新冷戦の相手国は中国に変わっているようです。
日本と言えば、中国の習近平さんを今上陛下の即位後最初の国賓として招待していたものですから、なかなか中国人を渡航禁止には出来ませんでした。それに付随して韓国人の渡航禁止も遅れました。(これは、東京五輪開催のためという説もあります。)
また、英国船籍で英国人の船長、米国の会社が運営するクルーズ船で、新型コロナの感染が起き、日本人客が多いという事だけで、入港その他の処置を押し付けられました。感染対策上、3000人以上の乗客を上陸させるわけにもいかず、感染者だけを病院に収容しました。自衛隊の衛生班を投入して懸命にやったのですが、クルーズ船内で感染が拡大し、欧米から批判をあびました。日本をなめているのかといいたくなりましたが、他のクルーズ船が、他の国で同じように感染を拡大しました。後で分かった事ですが、日本で治療をうけた外国人の死亡率よりも、米国・英国での死亡率の方が圧倒的に高かったそうです。
こんなドサクサに紛れて、中国の海警は、尖閣諸島で領海侵犯を繰り返しました。挙句の果てに、沖縄の漁船を追い掛け回しました。こんな国の国家元首を今上陛下即位後最初の国賓として招待する必要は無いと思うのは、私だけでしょうか。経済と冷戦、なかなか難しい問題です。

「復活の日」では、米国の前大統領シルヴァーランドという名が登場します。ARS=全自動報復装置をシステム化した人とされていますが、米国の海軍中将で、南極大陸連合代表のジェームス・コンウェイ提督は、シルヴァーランドの事を「あいつは…ほとんど考えられないくらいの極右反動で、まるで気違いじみた男だった。南部の大資本家と称するギャングどもの手先で…二十世紀アメリカのアッチャラ大王だった。憎悪、孤立、頑迷、無智、傲慢、貪欲…こういった中世の宗教裁判官のような獣的な心情を勇気や正義と思い込んでいた男だ。世界史の見とおしなど全然なく、六年前には、もう一度アカの国々と大戦争をおっぱじめるつもりだった。なぜ、こんな男を、アメリカ国民が選んでしまったのか、いまだにわからない。私は軍人であるが、あの男ばかりは、アメリカの後進性に絶望した…」と言っています。
作者にしてみれば、もしこんな男が、米国大統領になったら核戦争が起こりうると思って書いたのでしょうが、もう皆さんお分かりですね。現在の米国大統領トランプさんにそっくりですね。側近の首を次々に切り、良識派の軍出身者は、ソッポを向いています。今年の大統領選で、再選できるのかな…G7で、中国包囲網を作ろうとしていますが、出来るのかな…足もとでは、トランプさんの不規則発言で、人種差別問題に油をそそぎ、全米でデモが頻発しています。でも大丈夫、預言としては前大統領となっていますから…

病原について「復活の日」では、「新型インフルエンザの影にもう一つの病がある。」と言っています。インフルエンザの症状は、そこまでひどくないのだが、ぽっくり病みたいな心筋梗塞で亡くなると書いてあります。
新型コロナの場合も、風邪としての症状は酷くないが、ある日突然、重症化する患者がいると言われています。欧米では、川崎病によく似た症状の小児患者がいると言われています。日本では、川崎病の症状に似た患者は出ていませんが、血管内に血栓ができ、その血栓が、肺とか心臓に飛んで急速に病状が悪化する患者が出ているそうです。何せ、感染症なので、解剖するのもままならず、あまり良く分かっていないそうです。
たまたま日本では、アビガン等の他の病気の薬が、新型コロナに効くようで、快復者が増えているようですが、現在臨床試験中で、まだ何とも言えないそうです。アビガン等の薬が承認され、自由に使えるようになることを祈るばかりです。また、一日も早くワクチンが完成することを祈ります。
また「復活の日」では、南極以外の人類は絶滅したので、それ以後のことは書いてありませんが、新型コロナの場合、第一波以後に、世界恐慌が隠されているかも知れません。こちらも恐い事にならないように祈ります。

「復活の日」では、東京(大都市)が機能しなくなり、出身地や地方に疎開する人たちが描かれていましたが、半世紀以上たっても日本は変わらないなと思いました。必死で鉄道やバスのダイヤを守ろうとする人たち、使命感というか…反対に、新型コロナを地方に入れまいとする地方の人々。観光地の沖縄の知事でさえ、離島には、新型コロナに対応できるベットはないから来ないでと言っていましたから…親元を離れている学生たちは、バイトも無いし、帰郷する事も出来ないし、困っていましたよね。そしたら、田舎の市町村長さんたちが、地元のコメ等を送って、これで頑張ってくれって…いかにも日本的でしたね。

最後に、「復活の日」では、主人公の吉住が、P波という専門用語を使って、地震の起きる時間や核ミサイルが発射される時間を計算していましたね。半世紀以上も前にP波があったのかとビックリしました。
外国人は知らないかも知れませんが、現代の日本人は、緊急地震速報のP波の事を良く知っています。残念ながら地震の予知は、日本の科学技術では、未だ出来ませんが、P波とS波のタイムラグを使った緊急地震速報は、震度5以上の地震がおきると予想される場合は、テレビやラジオの通常番組を止めて速報されます。また、パソコンやスマホでも速報されます。「この後すぐに、大きな地震がおきます。気を付けて下さい。逃げ道を確保して、安全な場所に逃げてください…」と…予言というよりは、科学技術の進歩かな…
長々と書きましたが、素人の戯言と読み流してください。ただ、偶然とはいえ、考えさせられるものがありました。皆様も新型コロナの第二派・第三派が来た時に、自粛生活をされる事がありましたら、「復活の日」を読まれる事をお勧めします。

追記
予言とは、直接関係ありませんが、「復活の日」の文中に、32度の暑熱とありました。私は、近年の暑さを考えると驚くほどの気温でもあるまいしと思いました。
近年は、最高気温の更新が続いています。2018723日には、埼玉県熊谷市で41.1度という記録が出ています。40度越えは珍しくなく、年に何度かあります。以前は、30度以上を真夏日といい、それ以上の予報用語はありませんでしたが、最近は、35度以上を酷暑日、あるいは猛暑日というようになりました。これも地球温暖化のせいだと思います。東京で、蚊を媒介とした熱帯性感染症が流行したこともあります。
地球環境が変化し、温帯の日本で、スコールのような雨が降り、1時間に100ミリ以上の雨が降っても珍しくない様になりました。台風が大型化し、風の強さも尋常ではありません。
自然がおかしい!そんな中での新型コロナの流行です。未知との遭遇です。早くワクチンが完成して、普通のインフルエンザのような病気に成って欲しいものです。くれぐれも「復活の日」のように成って欲しくないと思います。願わくば、来年東京オリンピックが開催されることを祈ります。